追い詰められるプーチン大統領の恐ろしい「次の一手」

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月16日放送)に慶應義塾大学教授・国際政治学者の細谷雄一氏が出演。ヨーロッパから見るウクライナ情勢について解説した。

ロシアのプーチン大統領(ロシア・モスクワ) AFP=時事 写真提供:時事通信

ロシアとウクライナの停戦交渉再開

ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は、首都キエフの包囲に向けて部隊を進めている他、南部の黒海沿岸の州を掌握したと発表した。また、ロシアとウクライナの代表団による交渉は3月14日に続き、15日もオンライン形式で再開された。停戦に向けた糸口を見出せるかどうかが焦点。

飯田)キエフ全域に35時間の外出禁止令が出されているということです。ウクライナ情勢について、さまざまな分析があるなか、ヨーロッパ各国がどのような見立てをしているのかということも含め、イギリスに滞在していらっしゃる慶應義塾大学教授・国際政治学者の細谷雄一さんとつなぎます。細谷さん、おはようございます。

細谷)おはようございます。

飯田)ロシアによる侵略は、間もなく20日目になろうとしていますが、一連の件をどうご覧になっていますか?

細谷)湾岸戦争のときにイラクがクウェートを侵略しましたけれども、ヨーロッパでこれほどあからさまな侵略戦争が起きたのは、第二次世界大戦後では初めてのことです。

飯田)そうですね。

細谷)しかも、多くの専門家は電磁波など、高度なハイテク兵器を使った戦争を想定していたのですけれども、ロシアは古い戦争をしているわけです。精密誘導ミサイルが少ないので、大胆な無差別爆撃をすることになり、多くの死傷者が出ている。その光景を我々がSNSで見るという、残酷な戦争になっていると思います。

SNSによって世界中の人がリアルに戦場の現場を体験している

飯田)古いタイプの戦争をやりながら、SNSという新しいデバイスが出て来ていると。それによる全体の局面や世論の変化はありますか?

細谷)これまでの戦争ですと、我々は戦場カメラマンが撮影した景色しか見ることができませんでした。しかし、今回は普通の市民全員が戦場カメラマンとなって、スマホで画像や動画を送れるわけです。我々は戦場から離れた地域にいるけれど、その光景をリアルに体験している。そういう意味で、非常に残酷な古い戦争であるということと、同時に我々は遠くにいながら一緒にそれを体験するという、これまでにない新しい戦争になっている気がします。

チェチェン型、シリア型の戦争を繰り返し、廃墟になるまで破壊する 〜「プランB」の用意がなかったプーチン大統領

飯田)スタジオにはジャーナリストの佐々木俊尚さんもいらっしゃいます。

ジャーナリスト・佐々木俊尚)このままロシアがキエフや主要都市を仮に制圧、占領できたとしても、支配を維持するのは難しいのではないかと言われています。しかも、暖かくなって泥沼が増えて行き、戦車が進行できなくなるという指摘もあります。プーチン大統領は何を最終着地点として考えているのかがわかりにくいのですが、どういう目標を掲げているのですか?

細谷)当初の「2〜3日で簡単に戦争を終わらせる」という計算が完全に狂ったわけですが、おそらくプーチン大統領のなかに、その次の「プランB」はなかったと思います。ですから、いま行っているのは想定外の戦争なので、その場凌ぎで判断せざるを得ない。

飯田)想定外の戦争。

細谷)もう1つは、プーチン大統領は後ろに引けませんから、自分がかつて経験したチェチェン型とシリア型の方法を繰り返すわけです。チェチェンとシリアがどうなったかと言うと、これはシリアのアレッポ、チェチェンの首都もそうですけれども、とにかく徹底して破壊するということです。一般市民、子ども、女性関係なく徹底的に破壊して、廃墟にする。廃墟にして最終的に優位な形で停戦する。それと同じことをやらざるを得ない状況になっているのではないでしょうか。

インタビュー取材を受けるウクライナのゼレンスキー大統領=2022年3月1日、キエフ(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

自らの政治体制が崩壊するかも知れない 〜追い詰められているプーチン大統領

佐々木)国際法も完全に無視して、人道的に許されないことを永遠に繰り返すということは、まさにシリアで行われた状況と同じことだと思います。国連の常任理事国がそういうことをするというのは、いまの国際法の枠組み自体が崩壊してしまう可能性があると思うのですが、そこはどうなのでしょうか?

細谷)プーチン大統領からすれば、自らの政治権力、政治体制が崩壊するかも知れない。そういう危機感を抱いているのだと思います。自らの政治体制を崩壊させないために、国際秩序のルールやこれまで蓄積されて来たさまざまな人道上の考慮を、すべて薙ぎ倒して戦闘している。プーチン大統領も追い詰められた状態になっているのだと思います。

長期戦を行おうとしているプーチン大統領 〜中国からの支援を受け

飯田)追い詰められたところで、中国に対して武器の供与等を求め、中国側もそれに応じるという報道も出て来ています。これによって、両陣営に分かれての新冷戦なのか、人によっては第三次世界大戦というような物騒な話も出て来ていますが、どうご覧になりますか?

細谷)ウクライナとロシアで停戦交渉をしている最中に、中国に大規模な経済的、軍事的な支援を求めるということですから、プーチン大統領の意向としては、明らかに長期戦を行おうとしているということです。

飯田)長期戦を。

細谷)言い換えれば、本気で停戦交渉をする意欲はないということです。ウクライナが全面的にプーチン大統領の要求を飲めば、当然ながら停戦しますけれども、いまのゼレンスキー体制が続く限り、それはないでしょう。形式的には停戦交渉をしていますが、プーチン大統領の考える停戦とはウクライナの降伏ですから、その見通しがないということで、結局は中国からの支援を受け、長期戦を行う。チェチェンでも10年近く戦ったわけですから、もしかすると、既にそのような意向があるのかも知れません。

ロシアが化学兵器を使う可能性は高い

佐々木)泥沼化した膠着状態に陥ると、突破口として、例えばウクライナの無人の荒野などに低出力の核を落とすような考えも出て来るかと思うのですが、現実的にその可能性はありますか?

細谷)専門家の方々が何人か書いていらっしゃいますが、私はその可能性は相当高いと思います。最初の段階としては化学兵器です。ロシアは「化学兵器をウクライナが開発して使おうとしている」ということを言っています。つまり、これからロシアが化学兵器を使用したときに、「これはあくまでもウクライナが使ったのだ」と偽装するための口実を、もう既につくり始めているのだと思います。

佐々木)偽装して。

細谷)また、「核開発をしている」ということを言っていますから、実際にそのような殺戮があった場合、「ウクライナが使ったのだ」とロシアは主張すると思います。既にそのようなことを言い始めているということは、計画のなかに化学兵器を使わざるを得ないような、苦しい戦いをロシアが強いられている状況なのではないでしょうか。

ポーランド近辺の補給基地への攻撃は次の段階

佐々木)化学兵器を使う、もしくは核を使うという事態になった場合、いま動いていないNATOやアメリカはどう出るのでしょうか?

細谷)「将軍は1つ前の戦争を戦う」という言葉がありますけれども、プーチン大統領も当初は数日でキエフを制圧し、ゼレンスキー大統領を斬首するという計画がうまく行きませんでしたから、結局は、過去の戦争を繰り返すしかないのです。過去のチェチェンとシリアにおける戦争では、既に化学兵器を使っているのです。その疑いは極めて高いと言われています。

飯田)チェチェンとシリアで。

細谷)太平洋戦争中にイギリスが、蒋介石政権だった中国を支援した援蒋ルートがありました。それを日本は一生懸命叩こうとしたわけです。一刻も早く戦争を終わらせるためには、既に威嚇行為を行っていますが、当時と同じような後背地のポーランド近くの補給基地を叩くような算段を、プーチン大統領は考え始めているのだと思います。しかしながら、あまりにもリスクが大きいということで、まずは化学兵器を使う。そして後背地であるポーランド近辺の補給路を断つために攻撃するのは、次の段階だと思います。

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