真剣かつ精緻に準備されたゼレンスキーの各国演説 〜必死でウクライナを守ろうと前例にとらわれない大統領

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月22日放送)に、カンボジアでのPKO活動をはじめアフガニスタンやイラクなどさまざまな平和構築に携わって来た、東京外国語大学教授・国際政治学者の篠田英朗氏が出演。1ヵ月が経過するロシアによるウクライナ侵略について解説した。

キエフで、現在の状況を説明するウクライナのゼレンスキー大統領(ウクライナ・キエフ) AFP PHOTO /UKRAINIAN PRESIDENCY PRESS OFFICE  写真提供:時事通信社

キエフで、現在の状況を説明するウクライナのゼレンスキー大統領(ウクライナ・キエフ) AFP PHOTO /UKRAINIAN PRESIDENCY PRESS OFFICE  写真提供:時事通信社

ロシアがウクライナ軍に対し南東部マリウポリからの撤退を要求、ウクライナは拒否

ロシア国防省は3月20日、ウクライナの南東部マリウポリについて声明を出し、ウクライナ軍に武器を置いて降伏するよう要求した。この要求に対し、ウクライナのベレシュチュク副首相は地元メディアの取材に対して「降伏や武器を置くという話はあり得ない。これは既にロシア側に伝えてある」と述べた。

飯田)トルコのチャブシオール外相は20日、ロシアとウクライナの停戦交渉が進展を見せており、合意に近付いているという見方を示しています。侵略は始まってもう1ヵ月が経ってしまいますが、現状をどうご覧になっていますか?

篠田)大事件が起こってしまったということで、全世界が大きなショックを受けています。情勢も流動的なため、固唾を飲んで見守っています。

前例に捉われず、必死に自分の国を守るために頑張っているゼレンスキー大統領

飯田)日本でも行われるということですが、ゼレンスキー大統領がイギリスやカナダ、ドイツなどのさまざまな国でオンライン演説を行っています。この演説についてはどう感じられましたか?

篠田)皆さんご指摘の通り、真剣かつ精緻に準備された演説をしているというのが第一印象です。この戦争自体が「本当にそんな大変なことが起こるのだろうか」と言われながらも、実際に起こってしまい、1ヵ月前には想像できなかったことがたくさん起きているわけです。

飯田)1ヵ月前には。

篠田)一国の大統領が戦争の最中、各国にオンラインで演説をしているということも、1ヵ月前には想像できなかったことですが、いまや「次はどこの国だ。次は何を話すのだ」ということが関心になっています。ゼレンスキー大統領が前例に捉われず、必死で自分の国を守るために頑張っている姿に、強い印象を受けます。

「ウクライナは早く降伏するべきだ」という声はなぜ起こる

ジャーナリスト・有本香)今後の展開が見えにくい状況だと思いますが、日本では「ウクライナは早く降伏したらいいのではないか」という話も出ています。「そういう次元ではない」と篠田先生もSNSなどで発信されています。改めて、ウクライナはどういう結末を首肯すべきだと思いますか? そして国際社会は、それをどのように支援すべきだとお考えですか?

篠田)降伏論の話からいたしますと、(そういったものを)見ていて辛い状態のなかで私もSNSでつぶやいていますが、ウクライナを全世界で支援したいというときに、こういう発言を見ること自体が「精神的に厳しいな」というのが個人的な印象です。客観的に「どうしてこういう意見が出るのか」と考えてみると、事態の展開を受け入れられていないということだと思います。

有本)事態の展開を受け入れられない。

篠田)我々、全世界がこの状況を受け入れられないものの、「受け入れられない」と言っているだけでは仕方がないですから、次のステップに進まなければいけません。そのとき、特に日本人は現状を理解することができないなかで、とりあえず「明日にも終わりにする方法はないのか」と、思いついたことを言ってしまっているような状況だと思います。

有本)なるほど。

篠田)しかし、それでは解決しません。まるで理解していないことだとは思いますが、広い意味で、日本人が準備できていないということも含め、大きなショックを受けているということなのだと思います。

有本)大きなショックを。

篠田)当事者であるウクライナの方々は、「ショックを受けている」などと言っている場合ではないですから、非常に厳しい状況のなかで、ギリギリの戦いと交渉を進めています。状況は刻一刻と変わっています。ある報道では、「ヨーロッパの有力な国が、『48時間以内に潰れてしまう国のために我々に何ができるか』と言い放った」ということが伝えられています。いま1ヵ月が経って、ロシア軍の劣勢が全般的に伝えられている状況です。開戦初日の雰囲気とは大きく変わっているわけです。

モスクワのクレムリンで、ベラルーシ大統領との共同記者会見に臨むロシアのプーチン大統領(ロシア・モスクワ) AFP=時事 写真提供:時事通信

ウクライナが絶対に譲れない「国の独立」と「全面撤退」をどのラインで勝ち獲るのか 〜妥協もやむを得ない

篠田)「今後1ヵ月後にどうなるのか」ということを見極めながら、我々も分析していますし、交渉している当事者も見ていると思います。全般的にはウクライナが交渉力を得ている状況だと思います。もちろん被害が出ていますから、被害を抑え込むという意味では、1日でも早く停戦した方がいい。そのせめぎ合いのなかで、最終的にロシアに完全勝利し、賠償金も支払わせるというところまで行くのは難しいだろうと思います。

飯田)ロシアに対して。

篠田)しかし、絶対に譲れない「国の独立」と「全面撤退」を、どのラインで勝ち獲るのかというせめぎ合いがしばらく続くと思います。最終的にはそこに行きつくしかないのですが、プーチン大統領はそう簡単には納得しません。ウクライナがどこかで唇を噛んで妥協しなければならない場合、それもやむを得ないのだろうと思います。そのせめぎ合いがシリアスなレベルで現在も続いているということです。

「ロシアが間違っていた」という結末にすることが国際社会共通の利益

有本)私たちとしては、「ウクライナはさっさと諦めろ」と言うのではなく、ウクライナを支える世論を盛り上げることが大事なのでしょうか?

篠田)ロシアの完全勝利で終わってしまうと、敗北するのはウクライナだけでなく、国際社会全体です。「ロシアが間違っていた」という結末にすることが、我々共通の利益です。他方で、プーチン大統領が急に謝るということは想像できませんから、そのせめぎ合いのなかで、国際社会が一致団結して圧力を掛け、間違っていることは「間違っている」と伝える。よりよい形に少しでも近づけて、戦争を終わりにする努力を我々も惜しむべきではありません。

精神的な支援や政治的な力がウクライナ・ゼレンスキー大統領のロシアに対する交渉を助けることになる 〜多くの支援を公にすることが重要

飯田)「日本が仲介すべきだ」という指摘もありますが、そういうことはできるのでしょうか?

篠田)仲介は現実離れしていると思います。ただ、役割がないという意味ではなく、政治的な圧力を掛けるなかで「アジアでもこのくらい真剣に心配している」という状況を伝えることに意味があります。それから人道支援、さまざまな物理的な支援の面でも、限界があることは間違いありませんが、最大限の努力を示すことが物理的にも精神的にも支援になります。その精神的な支援や政治的な力が、ウクライナ・ゼレンスキー大統領のロシアに対する交渉を助けることになりますから、少しでも多くの支援を公にすることが重要だと思います。

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