ウクライナ侵攻「終結」に向けて考えられる「3つのシナリオ」

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(3月31日放送)に防衛省防衛研究所戦史研究センター主任研究官の千々和泰明氏が出演。ウクライナ情勢の今後について解説した。

【日露首脳会談・東方経済フォーラム】共同記者発表で発言するロシアのプーチン大統領=2018年9月10日、ロシア・ウラジオストク 写真提供:産経新聞社

アメリカとウクライナの首脳が電話会談、5億ドルの支援を表明

アメリカのバイデン大統領は現地3月30日(日本時間31日未明)、ウクライナのゼレンスキー大統領と55分間の電話協議をしたと発表した。バイデン大統領はウクライナ政府に5億ドル(約600億円)を直接支援する意向を伝え、軍事支援の継続についても話し合ったということである。

飯田)ロシア軍のウクライナ侵攻から1ヵ月が経過しましたが、収束に向けたシナリオはどうなるのか、防衛省防衛研究所戦史研究センター主任研究官の千々和泰明さんに話を伺います。

千々和)おはようございます。

飯田)ここまでの状況をどうご覧になりますか?

千々和)当初、ロシアのプーチン大統領はウクライナのゼレンスキー政権の打倒など、ウクライナの完全属国化を目指していたのだと思います。ところが、ウクライナが屈服か抵抗かを迫られたところで、屈服ではなく、抵抗を選んだ。そして国際社会からの支援もあり、ロシアは当初の目標設定をやや下げざるを得なくなって来ています。最近のロシア政権幹部の発言からも、少なくとも、ゼレンスキー政権の存続が前提になって来ているということだと思います。

ロシアとウクライナにとっての「中立化の内容」の違い 〜ウクライナへの「関係国による保障」を受け入れられないロシア

飯田)中立化という言葉が出ていますが、それは少し目標を下げて来ていることの証左であるとみていいですか?

千々和)中立化に関してはまだわかりません。中立化というのは安全保障とセットだということがウクライナの立場なのですが、ロシアからすれば、あくまでも中立化というところに比重があります。しかし、ウクライナからすれば「安全の保障」というところに比重があるのです。ですので、両者の溝は、簡単には埋まらないだろうと考えられます。

飯田)ロシアにとっての中立化というのは、非武装化とほとんど同義に近いとみていいですか?

千々和)非武装化もありますし、あとはNATOへの加盟についてです。ゼレンスキー政権は、NATOへの加盟を諦めるという立場を取っています。他方で、トルコ・イスタンブールで行われた停戦協議でも議論になりましたが、関係国の保障です。保障の影響が強いということになると、同盟に近付いて行くということです。それはロシアにとっては、受け入れにくい案だと思います。

紛争原因の「根本的解決」と「妥協的和平」

飯田)千々和さんはさまざまなメディアに論考などをお出しになっていますが、戦争の終結に関しては、「いろいろなシナリオが考えられる」ということです。根本原因を解決するのか、妥協的になるのか、グラデーションで考えた方がいいというようなこともあります。いま断言はできないと思いますが、今回はどのようなシナリオが考えられますか?

千々和)紛争原因の「根本的解決」か、「妥協的和平」か。優勢勢力側からみた場合、2つの形態があります。

飯田)2つの形態。

千々和)紛争原因の「根本的解決」というのは、「犠牲を覚悟してでも、相手を徹底的に叩きのめして将来の禍根を断つ」ということです。これは第二次世界大戦のときに、連合国がドイツに対して行いましたが、ヒトラー体制の打倒まで戦いました。

飯田)根本的解決によって。

千々和)反対側が「妥協的和平」です。「決着を将来に先延ばしすることになるかも知れないけれど、その時点での犠牲を回避したい」ということです。これは湾岸戦争のときに、アメリカを中心とする多国籍軍は、イラク軍をクウェートから撃退しましたけれども、さらに追いかけてバグダッドまで攻めるなど、イラクのフセイン体制を打倒することまではしませんでした。

ロシア軍から奪った戦車の上に立つウクライナ兵=2022年3月27日、キエフ郊外(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

「将来の危険」のために徹底的に叩くか、「現在の犠牲」を回避するために妥協するか

千々和)この2つがなぜ変わって来るのかと言うと、「将来の危険」という要素と「現在の犠牲」という要素があります。ヒトラーのような体制を残しておくと、将来の危険が大きすぎるので、犠牲を払ってでも徹底的に叩きのめそうということになります。

飯田)将来的な危険が大きい。

千々和)逆にイラクの場合、フセインはそこまで危険ではないだろうと。むしろバグダッドまで攻めて行くことによって、多国籍軍側の人命損失の方が大きいということになれば、妥協の方に傾くということです。

ロシアは「自分たちの犠牲と将来の危険」のバランスをどう再評価するのか

千々和)今回、ロシアは紛争原因の根本的解決、ウクライナの完全属国化を目指していたと考えられますが、これは当初、ロシア側の現在の犠牲を過小評価したためだと思います。

飯田)過少評価した。

千々和)ですから今後、ロシアがウクライナの抵抗という現実……彼らからみれば誤算であったと思いますが、それに直面して、「自分たちの犠牲と将来の危険」というもののバランスをどのように再評価するのか。あるいはしないのかによって変わって来ると思います。

「戦争終結」に向けて考えられる3つのシナリオ

千々和)シナリオとしては、3つ考えられると思います。1つ目は紛争原因の根本的解決ということで、ウクライナの完全属国化です。2つ目は、ロシア側からすれば妥協的和平になりますが、ロシア軍の全面撤退ということが考えられます。

飯田)なるほど。

千々和)3つ目のシナリオとしては、1つ目の紛争原因の根本的解決に近いのですが、「この条件がどこまで緩和されるか」ということです。

飯田)根本的解決としての条件がどこまで緩和されるか。

千々和)イメージなのですが、第二次世界大戦中、1940年にドイツとフランスが休戦協定を結びました。このときフランスはドイツに屈服します。そしてパリを含む国土の5分の3をドイツに獲られ、残りの土地にも親ドイツ政権ができた。これが1つ目のシナリオに近いイメージだと思います。

飯田)根本的解決ですね。

千々和)私が申し上げた3つ目の「条件の緩和」というのは、実は1940年に、もう1つの戦争終結があったのです。冬戦争と言いまして、ソ連とフィンランドが戦っていました。スターリンは当初、フィンランドを併合しようとしたのですが、フィンランド側の英雄的な成功で辛くもフィンランドは独立を保ちました。しかし、国土の10%はスターリンに獲られてしまいました。今回は、もしかしたら独仏休戦協定から冬戦争くらいの条件まで何とか持って行けるか、行けないかというところが焦点かなという気がします。

今回の戦争終結が第二次世界大戦時の終結よりも難しい理由

千々和)第二次世界大戦のときに、連合国は「無条件降伏」ということを言いましたが、厳密に無条件降伏を適用したのはドイツだけでした。イタリアと日本に対しては緩和したのです。

飯田)イタリアと日本に対しては。

千々和)これは先ほども申し上げましたが、「現在の犠牲」と「将来の危険」のバランスを再評価して、イタリアは叩き潰すより休戦した方がいいだろうと。日本に対しても、本土侵攻よりはポツダム宣言の方がいいだろうということで、緩和したわけです。

飯田)現在の犠牲と将来の危険のバランスを再評価して。

千々和)ところが今回のロシアの場合は、プーチン氏の権威主義体制ですので、そのような修正をするということは、プーチン大統領の政治的基盤を危うくするおそれがあります。その部分で相当、バランスの評価がしくい。したがって、戦争の終結も一段と難しくなっているということが言えるのではないかと思います。

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