ここへ来て再浮上する「オーストリアの中立」というモデル 〜NATOには加わらないがEUには加盟する

ジャーナリストの須田慎一郎が4月4日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ウクライナ情勢の今後の動きについて解説した。

ウクライナのゼレンスキー大統領(ゲッティ=共同) 写真提供:共同通信社

ウクライナ政府がキーウ周辺地域を奪還したと発表

ウクライナのマリャル国防次官は4月2日、自身のフェイスブックに「キーウ州全域が侵略者から解放された」と投稿し、ロシア軍から奪還したことを明らかにした。一方、ゼレンスキー大統領はロシア軍が撤退の際に地雷を設置しているとして、安全が確認されるまでは住民たちに戻らないよう呼びかけている。

飯田)この週末は、ウクライナ情勢がかなり動いたなという感じがありました。

停戦のあり方として、オーストリアの中立をモデルにする

須田)停戦が強く意識されています。すぐに停戦に至るわけではないでしょうけれども、そんな局面に入りつつあるのかなと感じます。そのなかで、ヨーロッパサイドの停戦のあり方のモデルとして有力になっているのが、オーストリアのケースです。

飯田)オーストリア。

須田)オーストリアは第二次世界大戦でナチスドイツに併合され、枢軸国側に立って戦ったという経緯があります。あまりよく知られていないのですが、第二次世界大戦の終戦によって、その全域が旧ソ連軍に占領されたのです。

NATOには加わらないがEUには加盟する

須田)占領しているソ連軍にどう撤退してもらうのかというところで、「永世中立国」という道を選びました。これが1つの条件だったのです。西側の軍事同盟には加わらないということが前提です。そしてもう1つの条件が、ウィーンに旧ソ連軍の戦勝記念碑があるのですが、これを未来永劫保存するというおかしな条件も付いていました。

飯田)西側の軍事同盟に加わらない。

須田)「西側の軍事同盟には加わらない」ということを踏まえて考えると、NATOには加わらないけれどもEUには加盟する。EUというのは経済的な結びつきであり、安全保障面の決まりもあるのです。しかし、軍事同盟という建て付けではないので、EUに加盟することで、一定程度の緩やかな連帯を通じて安全保障を担保するというイメージが湧いてくるのです。

東部2州の独立とクリミア半島の主権問題

飯田)なるほど。当時、オーストリアは東側とも国境を接していて、条件としては近いものがある。これを参考にするということですね。

須田)中立化ということはヨーロッパからすれば、オーストリアの件が1つのイメージとしてあるのですが、それをロシアがのむかというのはまた別問題です。

飯田)ロシアが認めるかどうかは。

須田)ポイントは2つあります。東部2州をどうするのかということと、クリミア半島の主権問題です。クリミア半島の主権に関しては、15年間かけて協議するということをウクライナ側は主張していますが、おそらくロシアはのまないでしょう。しかし、15年間の先送りということですから、ここはギチギチに詰めるような話ではないのかなと思います。いずれにしても、東部2州のロシアによる占領をどこまで認めるかということになると思います。

ロシア軍が東部2州に限りある戦力を投入する可能性も

飯田)ドネツク、ルガンスクの両州に関しては、2014〜2015年の侵略のあとミンスク合意が交わされました。住民投票を行うなどという条項が入っていますけれども、この辺りをどう扱うのかということになりますか?

須田)ゼレンスキー大統領が停戦協議に入った当初に言っていたのが、「ロシア軍の侵攻が始まった2月24日以前の地点までロシア軍は撤退しろ」ということです。そうすると、ロシアは承認しましたけれども、未承認国家と言われている自称共和国がありますが、あのラインまで下がらないといけないということです。

飯田)侵攻が始まる前の地点まで。

須田)プーチン大統領は、5月9日の戦勝記念日までに勝利宣言を行いたいと考えているようですが、そこまで下がったときに、勝利宣言と言えるのかどうかという問題があります。

飯田)旧ソ連の対独戦勝記念日に。

須田)今回のウクライナ侵攻に関して言うと、「ロシアが得たものは何なのか」ということになってしまいますので、ゼレンスキー大統領の要求はかなりボールが高いのです。そこからロシア側の要求とすり合わせが行われるとなると、ロシアはそこで既成事実を積み上げるために、東部2州に限りある戦力を投入してくるのではないでしょうか。

飯田)キーウ周辺からロシア軍が後退したというのは、それだけで喜べるような話ではなく、むしろ東側の方がより苛烈になる可能性が高いということですか?

須田)もちろん、キーウ周辺の軍隊がそのまま移行するわけではないですけれども、そこに戦力と資金を集中して投入するということなのだろうと思います。

ロシアのプーチン大統領(ロシア・モスクワ) AFP=時事 写真提供:時事通信

米国務長官がロシアの行為は戦争犯罪と宣言

飯田)今後、戦後となるのか。その辺りの出口のようなものの議論が徐々に始まっておりますが、CNNは、アメリカのブリンケン国務長官が「ロシア軍が戦争犯罪を犯したと正式に宣言した」と報道しています。キーウ近郊で民間人の犠牲が露わになってきたという辺りを踏まえて、責任を追及する考えを示したということです。この先の課題ということになりますか?

須田)既存の国際裁判の仕組みのなかで言うと、両方ともそのメンバーではありませんから、そこに出てもらうということは相当難しいです。

飯田)国際司法裁や国際刑事裁判所ということですか?

須田)別枠でそういうものをつくらざるを得ないのかなと思います。いずれにしても、ロシアの要人たちが、ロシア国境をまたいで外に行くということが、ほぼ不可能な状況になると思います。

経済制裁が続き先行きの厳しいロシア経済

飯田)いま西側諸国は経済制裁を続けています。これはかなり続くと考えた方がいいのですか?

須田)ウクライナサイドがいまいちばん警戒しているのは、今回の停戦が、次のロシアのウクライナ侵略に向けた準備期間になってはいけないということです。それをどうやって抑止するのかが課題になります。ロシアが「侵略の意図がない」ということをどう示すのか。それが示されない以上、いろいろと濃淡はありますけれども、経済制裁が続くのだろうと思います。

飯田)5月9日に戦勝記念日というイベントがあり、そこで高々と謳い上げるためにということで、直前の4月の終わりごろに再び大攻勢があるのではないかという話もあります。

須田)その一方で、4月4日にロシアは、ロシア国債の元利を含めた外国通貨建ての返済を迎えるのです。

飯田)なるほど。

須田)果たしてそれを乗り越えられるのかという問題もあります。とりあえず、ルーブルが少し戻ってきていますけれども、このままだとデフォルトになるリスクが付いて回るわけです。加えて日本を含めた西側諸国は、ロシアとの貿易をエネルギーも含めて徐々に減らしていく方向です。つまり、ロシア経済との遮断という形が取られていく。そのなかで中国がどう立ち回るのかということも含めて、ロシア経済の先行きは厳しい状況になってきているのではないでしょうか。

本音ではロシアと手を切りたいけれど、それができない中国

飯田)中国は中国で党大会を秋に控えていますが、どう動くと考えられますか?

須田)2つポイントがあります。1つは中国国内の動きを見ていると、「プーチン大統領とは手を切るべきだ」と言う専門家や政府要人の発言がありました。ただ、これについてはSNSがすぐに削除されましたけれども、国内からそういう声が出ていることは間違いない。

飯田)中国国内から。

須田)加えて、ウクライナというのは、中国にとっても重要な国なのです。中国からウクライナを終点とする鉄道が2線走っていて、一帯一路構想のヨーロッパ側の入り口になっていたのです。そういうところを考えると、ウクライナを失うこともできないし、あるいはロシアとの関係を強化することによって、他の国々の警戒感を呼び込むことになってしまいます。中国としても本音のところは、ロシアと手を切りたがっているのだけれども、なかなかそれができないのです。

飯田)それは2月に首脳会談をやって、「中露蜜月」というのを大々的にアピールしてしまったということもありますか?

須田)次にやってくるのは、アメリカとの対決です。そのときに、ロシアというカードを持っていた方がいいのではないかという思惑もあります。

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