ロシアの侵攻を終わらせるために、日本は「LNG開発事業」から撤退すべき

「ウクルインフォルム通信」編集者の平野高志氏が4月6日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。現地・ウクライナの状況について解説した。

epa09187039 Russian President Vladimir Putin attends a wreath laying ceremony at the Tomb of the Unknown Soldier near the Kremlin wall after the Victory Day military parade in Moscow, Russia, 09 May 2021. Russia holds its Victory Day parade annually on 09 May to mark the surrender of Nazi Germany in 1945. EPA/MIKHAIL METZEL/ KREMLIN POOL/SPUTNIK MANDATORY CREDIT EPA=時事 写真提供:時事通信

ロシアの外交官追放、日本政府は慎重

松野官房長官は4月5日の記者会見で、欧米諸国によるロシアの外交官追放に関して、「状況を踏まえつつ適切に対応する」と述べるに留めた。日本政府にいまのところ同調の動きはなく、慎重に対応する構えだ。

飯田)今回のような追放については前例がないということです。ドイツ、フランスはロシア外交官の追放を既に発表しております。平野さんご自身は、いまもウクライナで避難を続けていらっしゃると思いますが、落ち着くまでは国内で避難を続けられるのですか?

平野)状況次第ですが、安全が確保できる限りは国内で活動を続けたいと思っています。10年以上住んでいて、私の生活基盤はウクライナにあるのです。

飯田)10年以上住んでいらっしゃる。

平野)私の友人たちが命をかけてウクライナを守ろうとしているなかで、私だけ外国人だからと言ってさっさと逃げてしまうのは、後ろめたさを感じるのです。私がウクライナのためにできることは何かと考えるなかで、自分の仕事を精一杯することが、この戦争において私ができる貢献なのだと思い、仕事をしています。

「ブチャの大量殺戮はフェイクニュースだ」という偽情報を大量に流しているロシア

飯田)平野さんご自身も情報戦のプレイヤーとして戦っていらっしゃると思うのですが、今回の国内での報道やインターネット空間でのやり取りをご覧になっていて、感じることはありますか?

平野)ロシアの偽情報は定期的とは言わないけれども、タイミングごとに変わっていくのです。少し前には核兵器の話が出てきて、そのあとに化学兵器・生物兵器の工場がウクライナにあるという偽情報を流していました。最近はそれが収まっていますが、今度は「ブチャの大量虐殺の報道は偽物なのだ、フェイクなのだ」という偽情報を大量に流しています。

国外の一部の人が信じればいい

飯田)こういう見えすいた偽情報が受け入れられると思っているのか、あるいは国内向けのものなのか。

平野)国内向けには有効だと考えているのだと思います。大きな問題なのですが、プーチン政権が発表することを正しいと信じている人たちが、国内にはたくさんいると聞いています。

飯田)ロシア国内には。

平野)同時に国外向けとしても、一部の人たちは信じてしまう可能性があるので、大半の人たちが信じなくても、少しの人が信じればいいという形で大量生産した偽情報を撒くのです。ロシアは昔からそうです。

飯田)一部の人が信じればいい。

平野)それを有効的に使うことで、例えばある国が政策決定で制裁を緩めるということも過去にはありました。「ロシアはこう言っている。ウクライナはこう言っている。国際社会はこう言っている。ここは決定が難しいので、中立の立場を取りましょう」というのは過去にも、どこかの国がしていたことがあるので、そういう状況を狙っているのではないかと思います。

戦争を終わらせるためにはロシアに適切な制裁を科し続けること 〜日本がするべきこと

飯田)今回、我が国としても追加制裁へ動くことになっていますが、日本としてやるべきことは何でしょうか?

平野)2月24日以降の日本の対応は、とても優れていると思います。2014年とは大きく違う、しっかりとした制裁を発動しましたし、G7で協調して行動していると思います。

飯田)日本の対応は。

平野)最近になって、日本の注目が避難民支援に集中していると思います。避難民支援は大切なことなのですが、戦争を終わらせるための支援ではないと思うのです。

飯田)難民支援は。

平野)ウクライナはいま、武器の供与と制裁強化が、この戦争を早く終わらせるために重要な支援だと主張しています。であれば、日本がこの戦争を早く終わらせるためにできることは、G7を始めとする国際社会と協調して、適切な制裁を科し続けることだと思います。

ロシア軍から奪った戦車の上に立つウクライナ兵=2022年3月27日、キエフ郊外(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

日本は液化天然ガス(LNG)開発事業から撤退するべき

平野)ウクライナはG7に対して、いまはロシアのエネルギーの禁輸、それからロシアのすべての銀行を国際銀行間通信協会(SWIFT)から遮断すること。また、ロシア船舶による港の利用禁止を求めています。このなかで、日本が議論すべきはエネルギーについてです。特に大事なのは、液化天然ガス(LNG)開発事業からの撤退だと思います。

飯田)LNG開発事業からの撤退。

平野)最近、日本では「サハリン1・2」プロジェクトからの撤退の話が注目されていたと思うのですが、もう1つ日本が関わる事業があるのです。稼働していない「アークティックLNG2」プロジェクトというものがあるのですが、国際協力銀行(JBIC)が参加しており、そこからの撤退を検討するのも重要ではないかと思います。

「アークティックLNG2」プロジェクトからも撤退するべき 〜世界に間違ったメッセージを送ることになる

平野)私は「日本版ノルドストリーム2」と呼んでいるのですが、ノルドストリーム2については、ドイツとロシアの間で「止めるか止めないか」という議論がありました。しかし、戦争が始まったときに、ドイツは「止めます」という決定をした。どちらも稼働する前のプロジェクトであり、さらに依存を高めるプロジェクトという意味では、アークティックLNG2プロジェクトは、ノルドストリーム2と似たようなところがあるプロジェクトだと思います。

飯田)経済産業大臣などは、まだ続けるのだと。手放してしまったら、権益をロシア企業や中国企業に盗られてしまうのだと言っていますが、海外の目はそう見ているわけではないのですね。

平野)ロシアと経済協力をするということがどういうことか。そもそも「ロシア経済分野協力担当大臣」という肩書きも残っていますが、「侵略国と経済協力をする」ということになるのです。それはウクライナにも、国際社会にも間違ったメッセージになるのではないかと思います。

日本には「戦争を終わらせるための支援」をして欲しい 〜エネルギー開発からの撤退

飯田)エネルギーの部分、まさに制裁の部分は、当然ながらウクライナで注目されますよね。

平野)私のいる「ウクルインフォルム通信」もそうなのですが、記者たちは国内の状況を見ているのです。戦争がどうなるのか、戦争で被害を受けている人たちがどうなるのか。占領地がどういう状況になるか。国の存亡をかけた戦争が続いている最中なので、注目は「この戦争にどうやって勝つか」なのです。避難民を日本が支援してくれれば、それはありがたいし、とても大切なことなのですが、戦争を終わらせるための支援がないとなると、そこは……。

飯田)エネルギー開発についての関心を高めるということが、間接的ではあるかも知れませんが、ウクライナへの支援になるという理解でいいですか?

平野)そうだと思います。

他国からどう見られているかという視点に欠ける日本 〜国際秩序をどう守っていくか

飯田)アークティックLNG2プロジェクトに関して、国際協力銀行(JBIC)という名前が出てきましたが、これは日本の輸出信用機関であり、前身は日本輸出入銀行という名前でした。ここがお金を出して、大手商社が絡んでいる事業でもあるようです。

ジャーナリスト・佐々木俊尚)プーチン大統領は国内世論ばかりに目を向けているという話がありましたが、中国もそうです。戦狼外交と言われていますが、他国に対して敵対的な外交をするというのは、国内向けには「中国もよくやっている」と思われるのです。

飯田)外交関係としてはよくないけれど。

佐々木)どうしても、独裁国が国内向け世論ばかりを気にしてしまう状況は必ず起きてくる。日本は独裁国ではありませんが、国内向けばかりに向かってしまって、他国からどう見られるのか。あるいは日本を含め、戦後の国際社会がどう秩序をつくってきたのか、その秩序をどう守っていくのかという、その視点が欠けているのです。

演説するゼレンスキー大統領=Ukrinform/時事通信フォト

日本だけ「サハリン1・2」事業を残しておくということはあり得ない

佐々木)戦争に関しても、「しない方がいいのだ」という意見はその通りなのだけれども、しかし、ときには自由のために、あるいはリベラルな国際秩序の維持のために、「侵略戦争とは戦わないといけないときもあるのだ」という視点を日本は持つべきです。加えて、その対外的な視点を世論に取り込んでいくことは、今回のウクライナ侵攻をきっかけに、大事になってくるのではないかという感じがします。

飯田)まさにリベラルな国際秩序のなかで、利益を最大限に上げ、戦後復興してきたのが日本だということですよね。

佐々木)ブチャの虐殺が報道され、ヨーロッパがさらに制裁を厳しくして、天然ガスの輸入も止めるかも知れないというところまできている。

飯田)リトアニアはもう発表しました。

佐々木)あとはドイツが決断するかどうかというところですが、そこで日本だけサハリン1・2の事業を残しておくというのは、この状況ではあり得ないのではないでしょうか。ここで原発を再稼働して、サハリン1・2の事業は止めるという決断をしてもいいと思います。

石炭火力でエネルギーを確保しようとしているドイツ

飯田)ドイツはこれまで脱原発、脱炭素を目標に掲げていましたけれども、石炭火力にもう1回頼り、とりあえずはエネルギーを確保しなければいけないと、かなり腹を括っています。

佐々木)CO2の問題は重要なのだけれど、短期的には、とりあえず棚上げせざるを得ないですね。日本は環境問題について「ドイツを学べ」と言ってきました。そのドイツがこうなっているのだから、日本はいまこそドイツに学ぶべきです。

飯田)世界の潮流がそういう意味で変わりつつあるけれども、日本だけがいままで通りのことをやろうとする。

 

関連記事(外部サイト)