国連人権理事会に資格停止されてもロシアの行動に変化はない

慶應義塾大学総合政策学部教授の廣瀬陽子氏が4月8日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ロシアの理事国資格の停止を採択した国連人権理事会の決議について解説した。

2022年2月7日、モスクワでの記者会見に臨むロシアのプーチン大統領(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

国連人権理事会がロシアの資格停止を決議 〜中国や北朝鮮は反対

国連総会は4月7日午前から緊急特別会合を開き、国連人権理事会におけるロシアの理事国資格を停止する決議を賛成多数で採択した。ロシアはウクライナ侵略後、初めて国連機関の資格を奪われることになる。投票の結果は賛成93、反対24、棄権58。中国は、ウクライナ情勢をめぐりロシア軍の即時撤退や人道状況の改善を求める過去2回の総会決議でいずれも棄権したが、今回は反対に回った。アメリカとの対立が目立つ北朝鮮、イラン、シリアも反対した。

飯田)国連人権理事会の資格停止決議ですが、どうご覧になりますか?

廣瀬)非常に重い意味があると思います。国連の常任理事国であるにもかかわらず、国連の重要な組織から排除されたというのは極めて甚大なことで、国際社会からのロシアの孤立をいよいよ明確にしたものだと思います。

理事国資格を停止されてもロシアの行動に変化はない

飯田)いまのところ、「不当だ」と反応していますが、これでロシア側の行動に何か変化はありますか?

廣瀬)おそらく、行動に変化はないと思います。このような組織から排除されたことは、ロシアとしては非常に痛いはずなのですが、対外的には強気な姿勢を貫くと思います。G8から除外されたときも「たいしたことではない」というようなことを言っていましたので、少なくとも表面的には何もなかったかのような姿勢を貫くと思います。

ロシアは次にウクライナの南部・東部を攻めて来る

飯田)プーチン氏も含めて、ロシアの次の一手としては何が考えられますか?

廣瀬)まず軍事的にウクライナの南部・東部を押さえてくる。そこがいちばん大きいポイントになると思います。

チェチェンやシリアでも非人道的な行動をしているロシア軍

外交評論家・宮家邦彦)「プーチンさんは病気なのではないか」と言う人もいますが、どう思われますか?

廣瀬)最近、甲状腺がんだという話が明確に出てしまっているのですが、ここ数年、プーチン大統領の体調については、いろいろな疑惑が出ています。パーキンソン病を患っているのではないか、がんではないかという話も、ヨーロッパ筋から聞いてはいます。

飯田)そうなのですか。

廣瀬)そういうことが、今回の非人道的な行動の背後にあった可能性は否めないかも知れません。

宮家)ロシア軍が日常的にあのような非人道的なことをやっているという説もあります。例えばチェチェンもそうでしたし、シリアもそうでした。ロシア軍というのは、普通の軍隊とは違う部分があるのですか?

廣瀬)軍と情報組織とは分けて考える必要があると思いますが、組織的な部分については、連邦保安庁(FSB)などの諜報組織が深くかかわっている部分があると思います。

飯田)FSBが。

廣瀬)今回、「民族浄化」という言葉がロシアの報道から出ていて、そういうことを考えると、組織的にやった部分はあると思います。

飯田)組織的に。

廣瀬)他方で、民間人の殺害、しかも非常に残虐な手口を使うやり方は、チェチェンでもシリアでもロシアはやってきました。ですから常套手段であるとも言えます。また今回、未熟な若い兵隊が相当つぎ込まれていて、「自分がやられるかも知れない」という恐怖から、犬や猫を含めて、動くものなら何でも殺してしまったと言われています。いろいろな部分があり、結果として悲惨な虐殺が起きてしまったのではないでしょうか。

2022年4月4日、ウクライナの首都キーウ近郊ブチャで、報道陣に話をするゼレンスキー大統領(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

北海道をめぐるロシア下院議員の発言 〜現実味は薄い

飯田)ロシア下院議員が「ロシアは北海道の権利を有している」と言っているようですが、ロシアはそこまで考えているのですか?

廣瀬)確かに、かつて第二次世界大戦後にスターリンが北海道の半分を獲ろうとしていたというような説があり、根拠がないことはないのです。ただ、今回の情勢から見ると現実的ではないかなと思います。

飯田)現実的ではない。

廣瀬)ロシアはウクライナですら獲れずに、極東の軍もウクライナに回している状況です。仮にいま北海道を獲るということになれば、日米同盟が発動されて米軍が入ってくる可能性が高い。そういうところにロシアが手薄な極東の軍を回すことはできないと思います。いまロシアも軍事的に火がついてしまっているので、そのようなラジカルな発言が出たのだと思いますが、現実味は薄いと思います。

勝利の定義は「ウクライナ東部を獲り、クリミアを死守」

飯田)この先の情勢について、ロシアは東部や南部戦線に集中し、5月9日の戦勝記念日に「勝利宣言をしたい」というようなことが報じられていますけれども、今後はそのシナリオで行くのですか?

廣瀬)「行かせる」のだと思います。「行かせる」というのは、5月9日が終わりというわけではありません。とりあえずの勝利宣言をする可能性はあると思いますが、勝利の定義は「ウクライナ東部を獲り、クリミアを死守した」ということになると思います。

戦勝記念日までにロシアが東部地方を制圧できるかどうかは疑問

廣瀬)ロシアの狙いとしては、ウクライナの中立化、非軍事化とともに、ロシアとしてはクリミアの主権をウクライナに承認させたいということがあります。ウクライナ東部については、これまではドネツク州・ルハンシク州ともに、40%ほどしか親ロ派が掌握していなかったわけですけれども、州の全土を押さえた形で独立させる。そして、それをウクライナに認めさせるというのが、今回の侵攻の抜本的な問題であったわけです。おそらくそこだけは何とか実現し、それを勝利宣言として、余裕があれば今後もキーウ制圧を想定した状態で、さらに戦闘を続けるというような可能性が高いのではないかと思います。

飯田)キーウ制圧も。

廣瀬)ただ、5月9日までにドネツク州・ルハンシク州を制圧できるかというと、疑問です。いままでは北部でも激しい戦闘が行われていて、ロシア軍も相当投入されていましたし、ウクライナの精鋭軍は全部北部に投入されていたのです。それが東部に移ってくるので、ロシア軍にとっては厳しい戦いになると思います。

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