軍事的な効果を上げるためには「戦争犯罪も厭わない」ドボルニコフ露新司令官

軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏が4月13日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ウクライナ情勢について解説した。

2021年5月、ロシア南部ロストフナドヌーで対ドイツ戦勝記念日のパレードに出席するドボルニコフ南部軍管区司令官(タス=共同) 写真提供:共同通信社

ウクライナ、ロシア軍の東部攻撃を警戒

ロシアの軍事侵略が続くウクライナ国防省は、ロシア軍がまもなくウクライナ東部に大規模な攻撃を始める情報があるとして、警戒を強めている。一方、東部マリウポリの防衛に当たるウクライナ軍部隊は4月11日、SNS上に「ロシア軍がマリウポリでウクライナ軍の兵士と市民に対し、有毒な物質を使い、複数の人が呼吸困難の症状を示している」などと投稿したが、アメリカやイギリスなど各国の当局者は未確認だとしている。

ロシアによる化学兵器使用の確認は難しい

飯田)アメリカ国防総省のカービー報道官、イギリスのトラス外相はそれぞれ、「化学兵器の可能性があるものを使用したとするソーシャルメディア上の報告を承知しているが、現時点では確認できず、引き続き状況を注視する」としています。化学兵器に関して情報が錯綜していたような気がしますが、どのようにご覧になりますか?

黒井)現地のウクライナ部隊が「そうではないか」ということを言っているのですが、情報のソースが1つだけなのです。他から確認があったわけでもないので、まだ判断が難しいと思います。

飯田)マリウポリというと、他国のメディアもなかなか入って行けないところだけに、裏を取るのは難しいですよね。

黒井)専門家による診察や、残された薬剤の検出などが必要になるのですが、現在のマリウポリでそれを行うのは不可能に近いです。

ロシアが化学兵器を使う可能性は高い

飯田)化学兵器使用の可能性については、これまでにも取り沙汰されてきました。ロシア軍は使ってくると見ておいた方がいいのでしょうか?

黒井)使うかどうかということは、プーチン大統領の判断次第ではあります。彼らは化学兵器禁止条約に批准しており、「もう廃棄した」と言ってはいますが、ロシアはチェチェンやシリアでも国際法を無視するような行動を続けていますので、隠し持っている可能性は十分に考えられます。

飯田)もし使用する場合、どのような局面だと考えられますか?

黒井)軍事的には、化学兵器はロシアにとって有効な兵器です。相手が地下や塹壕に隠れていると、普通の爆撃や砲撃だけではなかなか倒せませんが、化学兵器を使うと地下にまで到達します。特に化学兵器は空気より重く、空気中を下に動くという特徴があるので、効果が高いのです。

飯田)化学兵器は。

黒井)ただ、化学兵器を使うとなると政治的な意味合いが大きいので、現場の合理性だけではなく、プーチン大統領の政治的判断になります。そのように考えると、相手に対して恐怖を与えるために、一般市民に向けて使われる可能性は高いと思います。

追い詰められているロシア軍上層部

飯田)黒井さんご自身も、プーチン氏についての論考をさまざまなところで出されていますが、プーチン大統領の精神状態として、いま追い詰められているような状態でしょうか?

黒井)おそらく苛立っているとは思います。最初に部下から、簡単に落ちるというような報告を受けて今回の行動に出ているのですが、未だに落ちていないということで、追い詰められているのは、むしろロシアの上層部だと思います。

数量政策学者・高橋洋一)化学兵器が使われた場合、あとで検証できるものなのでしょうか?

黒井)できる場合とできない場合があります。被害者からの血液検査などは難しくなると思いますが、専門的な機関が入れば、現場の土砂などから検証できる可能性はあります。ただ、時間が経ち、雨が降ってしまうと難しくなります。

飯田)シリアなどでの使用も取り沙汰されましたが、化学兵器で都市を無差別に攻撃するというのは、ロシアの常套手段と見てもいいのですか?

黒井)シリアの場合は、ロシア軍の配下にいるアサド政権が使って、一緒にいるからわかってはいたけれど黙認した。民間人をまとめて殺してしまうというやり方は、チェチェンやシリアからのロシア軍の常套手段です。「戦争犯罪になるようなことをしてはいけない」という西側の軍隊でなされている教育が、そもそもロシア軍にはないということだと思います。

2022年4月8日、ミサイル攻撃を受けたウクライナ東部ドネツク州クラマトルスクの駅(ゲッティ=共同) 写真提供:共同通信社

新たに総司令官に任命されたドボルニコフ氏 〜軍事的な効果を上げるためには、戦争犯罪も厭わない

飯田)先ほど軍の上層部の焦りという話がありましたが、先日、総司令官にドボルニコフ氏が新たに任命されました。この人はシリアの攻撃にも激しく関わっていたというような報道もありますが、どのような人物なのでしょうか?

黒井)陸軍の指揮官から上がってきた人なのですが、シリアに最初にロシア軍が介入したときの総司令官で、早い段階からシリアの民間人に対し、焼夷弾やクラスター弾などの禁じられたものも含めて、無差別爆撃をしていました。軍事的な効率主義、効果を上げるためには、非人道的な戦争犯罪のようなものも厭わず、徹底しています。

戦車や弾薬を西側に供与して欲しいウクライナ

飯田)これに対して、ウクライナ側は戦車などを求めています。どのような戦い方になりますか?

黒井)最も大きいのは、残虐な司令官がロシア軍に来たということよりも、1本化されて司令部ができたということです。いままでは各軍がバラバラに動いていて、しかも戦線が広かったので、ロシア軍は思ったような司令が出せなかった。そこで司令部をつくり、戦線もまとめて東部に集中するということであれば、本来の20世紀型の地上戦のやり方に戻ることになり、ロシア軍の激しい進撃が予想されます。

飯田)20世紀型の地上戦に戻して。

黒井)それに対して、ウクライナ側は何とか押し止めないといけないのですが、これまでは戦線が伸び切った部隊に対して、側面から歩兵が手に持って撃てる対戦車ミサイルなどを使っていました。

飯田)そうですね。

黒井)しかし、地上部隊同士の戦いということになれば、戦車を中心とした装甲車部隊によるロケット砲など、大規模な火力が必要になってきます。しかし、ウクライナ軍は兵力は多いのですが、兵器が少ないのです。そのような意味で、兵器や弾薬を西側に供与して欲しいのです。

ウクライナの前線に迅速な兵器の供与が必要

飯田)ウクライナの高官なども、ここ1〜2週間は非常に警戒するべき時期だとしています。この辺りが山になると見ていいですか?

黒井)そうですね。ロシア軍がかなり強力に来るので、ここ1〜2週間で食い止められないと、総崩れになってしまう可能性もあります。それは何とか避けたいということで、西側にとにかく武器を供与して欲しい、しかも迅速に前線に届けて欲しいのです。

日本ができること

飯田)最後に、日本としてやれることは何かあるでしょうか?

黒井)日本が武器を送るのは政治的に難しいと思うので、やはり経済制裁です。岸田政権はやってはいるのですが、基本的にG7の決定に倣うというところから1歩も出ていません。日本はインドや中国に比べて、アジアにおける民主主義のリード国であるということをもっと全面に出し、特にインドや中国に向けて、ロシアへの経済的な支援を牽制する情報発信を積極的にやるべきだと思います。

関連記事(外部サイト)