国連が機能しないなか、世界から期待される「日本の役割」とは

慶應義塾大学教授・国際政治学者の細谷雄一が4月14日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。5月下旬に予定されている米バイデン大統領の訪日について解説した。

政治 会見する岸田文雄首相=2022年4月8日午後、首相官邸 写真提供:産経新聞社

バイデン大統領、5月下旬に訪日へ

政府関係者によると、アメリカのバイデン大統領は日本、オーストラリア、インドとの4ヵ国の枠組み「クアッド」首脳会議出席のため、5月下旬に来日する考えであることがわかった。バイデン大統領は5月22日に来日し、翌23日に日米首脳会談や拉致被害者家族らとの面会後、24日のクアッドに出席する方向で調整しているとのことである。

飯田)初の対面での日米首脳会談は、日本で5月に行われる予定になりました。ウクライナ情勢によって、東アジアの情勢も変わりますか?

細谷)クアッドが急に注目されて重要性を帯びてきました。国連総会ではロシアに対する非難決議が行われましたし、人権理事会でもロシアの理事国資格を停止するための決議がありました。この2つの決議において、どちらもインドはアメリカに賛同しませんでした。

飯田)そうですね。

細谷)民主主義諸国の結束に対し、インドが十分に同調しないことに、アメリカは懸念を示しています。今回、クアッドに出席する機会において、もう1度インドを民主主義側に取り込みたいという強い意向があるのだと思います。

クアッドのような「ミニラテラリズム」との提携に重点を置く米英 ~形骸化する国連

細谷)現在の国連では、常任理事国である中国とロシアが拒否権を持っているので、重要な決定ができません。アメリカとイギリスのなかで大きな失望が生まれています。その結果、アメリカもイギリスも、クアッドのようないわゆる「ミニラテラリズム」と呼ばれる、価値を共有する少数の国との提携に、いままで以上に重点を置くようになりました。これが最近の傾向だと思います。

飯田)そうなると国連が本格的に機能しなくなり、自然消滅するということですか?

細谷)形骸化する形ですね。冷戦時代にも、国連平和維持活動(PKO)や他の分野ではいろいろなことがありましたが、米ソが対立して、国連では重要な決定がほとんど行われませんでした。しかし、冷戦が終わり、「再び国連が結束していろいろな問題が解決できるのではないか」ということになったのです。湾岸戦争はまさにそれが成功したケースですよね。

飯田)なるほど。

細谷)ところが、「新しい冷戦」と呼ぶ方もいらっしゃいますけれど、再びアメリカとロシアの間が不安定になった。そのなかで国連の機能麻痺が大きな不安になっているのだと思います。

国連のシステムに対する不安からNATOやクアッドなどの枠組みの重要性が強調されている

飯田)地域の枠組みがいくつもできることになると、ブロック化していくような傾向になりますか?

細谷)そうですね。スウェーデンとフィンランドが北大西洋条約機構(NATO)への加盟申請に意欲的ですが、ヨーロッパ外交史の研究者からすると、驚きの連続です。フィンランドは100年も中立国の立場を続けてきたのですが、それを覆してNATOに加盟するということは、従来の国連というシステムに対する不安から、NATOやクアッド、日米同盟などの枠組みの重要性が強調されているのだと思います。

アメリカがウクライナに軍事介入しなかったことで、台湾でのアメリカへの信頼は激減 ~より多くの国との安全保障の協力が必要に

飯田)ウクライナの例を見ても、同盟の重要性が如実にわかりました。日本に当てはめて考えると、日米同盟は大事ですし、クアッドの枠組みも大事になってきますか?

細谷)そうですね。そもそも明確な侵略があった場合には、集団安全保障で国連がウクライナを守らなければならないのです。ところが国連の常任理事国であり、創設の中心でもあったロシアが侵略したのです。まったく想定していなかった事態で、いままで以上にアメリカへの依存度や期待値は高まっています。ところが今回、アメリカはウクライナに軍事的な介入をしていませんよね。

飯田)していませんね。

細谷)台湾の世論調査では、アメリカに対する信頼は激減しています。そこで、同盟に頼らざるを得ないけれど、アメリカ一国に頼るのではなく、オーストラリアやインドのような、より多くの国との安全保障協力が重要になるのです。

2022年4月8日、ミサイル攻撃を受けたウクライナ東部ドネツク州クラマトルスクの駅(ゲッティ=共同) 写真提供:共同通信社

米英がAUKUSに日本を加えたい理由

飯田)そんななかで、イギリス、アメリカ、オーストラリアの安全保障協力の枠組みである「AUKUS(オーカス)」に、日本も誘われているということが産経新聞に書かれていました。官房長官は会見のなかで否定していましたが、その可能性はあるのでしょうか?

細谷)私は2021年秋からイギリスにいまして、こちらの専門家や政府関係者の方と意見交換する機会があるのですが、AUKUSという枠組みには、思っていた以上に批判がありました。特にフランスやインドからの批判が大きい。

飯田)フランスやインドから批判が。

細谷)アングロサクソンが結束しているというイメージを、日本を加えることによって変えたい。日本には高い技術力がありますし、価値も共有しています。おそらく日本にも何らかの形でAUKUSに協力してもらいたいという意向は、アメリカやイギリスにはあるのではないでしょうか。

飯田)何らかの形で。

細谷)一方で、アングロサクソンは「ファイブアイズ」としてのインテリジェンス協力が前提になっています。日本はファイブアイズの枠組みには入っていないので、一定の制約もあると思います。

飯田)国内の法整備などの課題もあるということですね。

中東諸国やアフリカ、東南アジアの多くの国にある米英への不満 ~そのなかでの日本の役割

飯田)アングロサクソンの国々には、「世界は私たちが引っ張ってきた」という思いがありますよね。人権理事会におけるロシアの資格停止に関し、賛成が90ヵ国前後で、国連の決議とは様相がだいぶ違っていましたが、国際世論を読み間違えるということはあるのですか?

細谷)アメリカやイギリスの大きな問題は、「自分たちが正義側に立っている」という認識が強すぎることだと思います。逆に言うと、中国やロシアは人権侵害や侵略をするのですが、水面下では、さまざまな国への工作や圧力を活発に行っています。

飯田)水面下で。

細谷)ブチャでの残酷な虐殺がありながら、あれだけの国が棄権したのは、水面下で中国とロシアが動いた証拠です。それ以前に、イラク戦争をはじめとして、国際社会のなかの米英に対する不信感は、我々が考えている以上に強いのです。

飯田)米英への不信感が。

細谷)中東諸国やアフリカ、東南アジアもそうですが、多くの国は、ロシアのやっていることも酷いけれど、米英のイラク戦争をはじめとする欺瞞に対し、不満も強くあるのだと思います。

飯田)なるほど。

細谷)それがあるからこそ、日本の役割が重要なのです。東南アジアでもインドでも、「最も信頼できる国はどこか」と聞くと、だいたい日本が1位です。アメリカの信頼は、この20年間で大幅に低下しています。そんな背景もあり、東南アジアや中東の国々の信頼を取り込む上で、米英は日本の信頼を活用したいのだと思います。

今後の世界における日本の役割 ~「最も信頼できるパートナー」として日本に期待

飯田)「中国だけが入っていると言いなりになってしまうから、日本も入って欲しい」あるいは「アメリカに対して何か言えるとしたら日本だけだから」と、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に至る交渉のときも日本は頼られたと聞きます。今後、国際的な枠組みをつくっていくなかで、日本に期待される役割は大きくなりますか?

細谷)米英はとにかく、自由や民主主義という自分たちの正義をあまりにも強調するので、これが特にイスラム諸国をはじめ、中東やインドネシアなどで大きな反発を招いています。

飯田)反発を招いている。

細谷)ODAのときもそうですが、日本は正義を主張するというよりは、それぞれの地域の事情を考慮します。世界に亀裂が入っているなかで、日本がその橋渡しをするということが大事です。あまり目立たないのですが、欧州連合(EU)やNATO、アフリカ開発会議(TICAD)などの枠組みや東南アジアのなかで、日本は最も信頼できるパートナーの立場ですから、いろいろな地域で「日本に大きな役割を担って欲しい」という気持ちはあると思います。軍事的というよりは経済的、あるいは外交的な役割ということになると思います。

人権問題に厳しい態度を示している岸田政権

飯田)事情をよく聞くことは日本人のいい特性だと思うのですが、ともすると双方に事情があるのだから「とにかく妥協しなさい」とか、今回のウクライナの件で言えば「停戦しなさい」という思考になりがちだと思います。一定のモラル的な線引きも意識しなければならない部分でしょうか?

細谷)おそらく岸田政権は戦後日本の政権のなかで、最も人権に関して強硬な政権だと思います。安倍政権は価値観外交を掲げていましたけれども、中国やロシアとは協力する側面が強くありました。

飯田)安倍政権は。

細谷)それに対して岸田政権は、若手議員の声を反映して、人権問題に関しても欧米と協調して厳しい態度を取っています。そういった意味では、世代とともに日本外交のスタンスも変わってきたという印象を受けます。

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