プーチン大統領にとって「極めて重要な戦い」になる東部“ドンバスの戦い”

外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が4月19日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。東部での戦いが迫るウクライナ情勢について解説した。

2月、モスクワで記者会見するロシアのプーチン大統領(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

ロシア国防省が「ウクライナ各地300ヵ所以上を攻撃した」と発表

ロシア国防省はウクライナ各地で4月17日夜から18日にかけ、300ヵ所を超える標的にミサイルなどで攻撃を加えたと発表した。軍の関連施設を少なくとも16ヵ所破壊したとも主張している。

飯田)ウクライナのゼレンスキー大統領は4月18日、ロシアがウクライナ東部の制圧を目指す「ドンバスの戦い」を開始したと発表しました。ビデオ声明で語ったとして、ロイター通信が報じております。東部での戦いが激しさを増すような局面にきているのでしょうか?

重要な戦いになる東部「ドンバスの戦い」

宮家)極めて重要な戦いになるでしょうね。これまでロシア軍はいくつか失敗を重ねてきているので、今回は相当な覚悟で挑むと思います。プーチン大統領は、これまでに占領している東部の地域を拡大して、何らかの成果をあげなければいけないと思っているでしょう。

負けるわけにはいかないプーチン大統領 〜ロシアがここで勝てば終戦に向かう可能性も

宮家)プーチンさんにしてみれば、絶対に負けるわけにはいかないのです。負けたら自分の地位が危なくなるというくらいの危機感を持っているはずです。

飯田)負ければ。

宮家)とにかく今回の戦いで何らかの成果をあげて、「我々は勝利した。だから打ち止めにしてやるのだ」と国内に言わなければならないのです。もしこれでドンバス地域を落とすのに成功したならば、いま申し上げたように「形としては勝利」となり、プーチンさんが停戦の方向に動く可能性は十分にあると思います。

ウクライナがここを獲れば泥沼化へ 〜大量破壊兵器使用へのハードルは低くなる

宮家)逆に、もしロシア側の思惑がうまくいかなければ、プーチンさんのおしりに火がつくことになります。ウクライナ軍は勢いづき、ますます戦局が厳しくなって泥沼化していき、ロシアは引くに引けなくなる。かと言って戦争には勝てもしない。そのなかで成果を出すために飛び道具を使うのか、つまり大量破壊兵器を使うのか、そのハードルが低くなっていくのではないか、という意味でも重要な戦いになると思います。

キーウからの撤退でダメージの大きい前線の兵士

飯田)東部が焦点になっていますが、ロシアはポーランド国境に近い西部リビウにミサイルを撃ち込んでいます。これは弾頭を通常兵器から変えることができますが、そこはどうなのでしょうか?

宮家)リビウは確かに中継地点なので重要ですが、あれだけロシア兵が退いているところへミサイルを何発撃ち込んでも、軍事的に戦局全体への影響はほとんどありません。

飯田)兵がいないところへ。

宮家)戦場というのは、最後はその場で双方の力と力がぶつかりあって、優劣が決まるわけです。そのような戦いになるのが今回の東部なのです。リビウに核を使っても、東部では何の成果もないまま、国際的な非難が頂点に達するだけです。私が軍人だったら現時点で核兵器は使いません。

飯田)なるほど。

宮家)私だったら残った兵力を東部に集中し、何とかウクライナ側の抵抗を抑えて占領します。そうは言っても、キーウから一度撤退した兵士が東部で突然元気になることは考えにくい。これまでに1万5000人〜1万8000人のロシア軍兵士が死んだと言われていますが、そうであれば、前線の部隊はほとんど戦闘不能になりますよ。

ロシア黒海艦隊旗艦の巡洋艦モスクワ=2020年7月、ウクライナ・セバストポリ(タス=共同) 写真提供:共同通信社

平坦な場所での戦いになる 〜榴弾砲などの武器がいつウクライナ軍に渡るか

飯田)精神的にも相当ダメージを受けていると聞きます。

宮家)ロシア兵は士気も落ちていますし、それをどうやって元気づけるのか。私はそんなに簡単ではないと思います。アメリカのあるシンクタンクによると、東部のドンバス周辺でロシア軍が戦闘能力を回復するには数ヵ月かかるそうです。その意味では、相当無理をして部隊を動かしていて、キーウ北方で犯した失敗を繰り返す可能性は十分あります。他方、戦場はより平坦で見通しもよさそうですから、力と力の戦闘であれば、力の強いロシアの方が有利です。ウクライナ側によるゲリラ戦は難しいという指摘もあります。

飯田)隠れるところが少ないと言いますね。

宮家)そのためにアメリカは多くの重火器を含む大量の武器をウクライナに送り込んでいます。ヘリコプターもそうですが、榴弾砲はあのような平地では効果があると思います。それらの武器を送り込むのにどれくらい時間がかかるのかを考えると、時間との戦いでもあると思います。

かなりの兵器をウクライナに供給するアメリカ

飯田)物量の部分でどこまで支援ができるのか。アメリカはかなりの兵器をウクライナに入れているようですね。

宮家)アメリカは「米兵は送らない、直接介入はしない」と言って、随分と批判されました。しかし、逆に言えば、アメリカは「直接兵を送る以外は何でもやる」ということです。

飯田)兵を送る以外は。

宮家)本当の飛び道具は必ずしもないけれども、榴弾砲の砲弾が4万発、レーダーやアメリカ製の自爆型ドローン。そして装甲兵員輸送車、対戦車ミサイル、ヘリコプターが11機ということです。

飯田)かなりの数です。

宮家)まだ地対空ミサイルや航空機を送るということにはなっていませんが、徐々に攻撃的な兵器を入れています。はじめはロシアがどう反応するのかわからないので、躊躇したかも知れません。ただ、ロシアがあそこまでやっているので、「ここまでやってもロシアは反応しないだろう」というギリギリの対応をアメリカはしてきています。アメリカは「ウクライナを敗北させることはできない」と腹を括っているのだと思います。

ロシアの旗艦「モスクワ」がウクライナからの攻撃によって沈没 〜精神的ダメージが大きい

飯田)ウクライナがもともと持っていた「ネプチューン」という地対艦ミサイルで、黒海艦隊の旗艦「モスクワ」を沈没させています。ロシア側は火災が原因だと発表していましたが。

宮家)確かに火災の写真が出ていました。

飯田)出ていましたね。黒煙が上がっていて。

宮家)曳航中に沈んだということは、やはりミサイルの着弾が順当な原因ではないかと思います。「モスクワ」はロシアの旗艦ですから。精神面、士気の面ではダメージが大きかったかも知れません。

長期化する可能性は高い

飯田)この先、長期化するという話もありますが。

宮家)どちらかが「負けそうだから、やめないといけない」と思わなければならないのですが、残念ながらプーチンさんは今「負けている」とは思っていない。もしくは負けられないから停戦もできない。いろいろな人が仲介しようとしているけれど、プーチンさんが今の時点で停戦を受け入れることはありません。

飯田)そうですね。

宮家)ゼレンスキー大統領も、包囲されている部隊が全滅でもしようものなら、「交渉は終わりだ」と言っています。戦うモードに入っていて、停戦どころではないのでしょう。一方、ロシアが手を引くわけはありませんから、残念ですけれど、戦闘が長期化し泥沼化ても決しておかしくありません。

飯田)我々がやっている経済制裁も含めて長期化する。

宮家)ウクライナ側も経済支援が必要ということで、いろいろな手を打ち始めているのだろうと思います。

飯田)ゼレンスキー大統領は国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事と協議し、また、シュミハリ首相をワシントンに派遣する予定になっています。戦後復興の話をしていますけれども、戦費調達の分も含めて。

宮家)それは全部が一つのパッケージだと思います。

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