台湾有事を引き起こしかねない「アメリカに対する中国の“誤解”」

青山学院大学客員教授でジャーナリストの峯村健司が4月22日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。4月20日に初めて行われた米中国防相会談について解説した。

あいさつする中国の習近平国家副主席(当時、右)と、バイデン米副大統領(当時)=2011年8月19日、北京市内(共同) 写真提供:共同通信社

アメリカと中国が初の国防相会談

中国の魏鳳和(ぎほうわ)国務委員兼国防相は4月20日、アメリカのオースティン国防長官と約45分間にわたり電話会談した。中国側の魏氏は「台湾問題をうまく処理しなければ、両国関係を転覆させるような影響をもたらす」と述べ、台湾への関与を深めるアメリカに警告を発した。一方、オースティン氏は魏氏に対して台湾への軍事的威圧への警戒感を伝えるとともに、ウクライナを侵略したロシアを支援しないようクギを刺したとみられる。

習近平氏の右腕である魏鳳和国務委員兼国防相

飯田)4月21日に伝えられたニュースですが、中国の習近平国家主席は「ボアオ・アジア・フォーラム(BOAO)」という経済フォーラムで演説し、「冷戦思想を排除し、単独主義に反対すべきだ」と、ロシアへの制裁強化を批判したというような報道も伝えられております。米中国防相会談が行われましたが。

峯村)重要な会談だったと思います。魏鳳和国務委員兼国防相は、「習近平氏の右腕」と言われている軍人で、もともと「第二砲兵」というミサイル部隊にいたエリート中のエリートなのです。彼が出てきたということは、首脳会談のフォローアップの側面があります。

飯田)習近平氏の右腕。

ロシアに対して「予想よりも強硬な経済制裁に出ている」と受け取っている中国

峯村)先日、ホワイトハウスの関係者と話す機会がありました。今回の会談のメインメッセージは台湾だそうです。

飯田)台湾。

峯村)「台湾に対してどう言うか」というところがいちばんのポイントだと言っていました。今回のロシアによるウクライナ侵攻を、誰よりも前のめりになって見ているのが習近平氏なわけです。自分が台湾侵攻に踏み切った場合はどうなるかというのを、舐めるように見ているわけです。

飯田)西側がどう反応するのか。

峯村)2つポイントがあって、1つは「これまで対ロシア政策に及び腰だったEUも含め、意外と西側諸国は強硬な経済制裁に出ている」ということです。予想以上の団結の早さと、制裁の強さを中国側も実感しているようです。国際銀行間通信協会(SWIFT)からの排除も含めて、習近平指導部も「他人ごとではない」と思っています。

ウクライナと違い、台湾で有事が起きた場合、アメリカは防衛する 〜オースティン国防長官から中国への警告

峯村)一方で今回、バイデン大統領は最初から「ウクライナには兵を派遣しません」と言っている。ということは、「やはりアメリカは腑抜けではないのか」と。「台湾侵攻のときもアメリカは手を出してこないだろう」と中国が思っています。

飯田)中国が台湾を侵攻しても。

峯村)ですので、「台湾の場合は違うのだ」ということをアメリカは会談で強調したかったのです。ウクライナはアメリカと同盟関係でも何でもないから手を出さなかっただけであって、台湾はそうではないぞと。台湾に関しては、台湾関係法というアメリカの国内法があります。

飯田)台湾関係法が。

峯村)もちろん、台湾関係法には「防衛する」というものはないのですけれども、昨年1月に私がスクープしたアメリカ政府の内部文書には、しっかりと「もし有事が起きた場合は台湾を防衛する」と書かれているわけです。

飯田)トランプ政権で改訂になったものですよね。

峯村)そうです。18年2月15日付に作成された「インド太平洋における戦略的枠組みに関する覚書」という内部文書です。いまのバイデン政権もそれを引き継いでいるということを考えると、「ウクライナと台湾に対する、アメリカの対応は違うのだ」というメッセージを、オースティンさんから中国側に強く警告したというのが、いちばんのポイントだと思っています。

台湾の双十節(建国記念日)祝賀式典で演説する蔡英文総統=2021年10月10日、台北(中央通信社=共同) 写真提供:共同通信社

ウクライナ情勢がどれだけ長期化しようが、台湾をディールすることはあり得ない 〜バイデン政権のスタンス

飯田)3月に習近平国家主席とバイデン大統領のオンライン会談があって、その直後にも台湾に関する話を最初に中国側が出してきていました。首脳同士の話を受けて、今回はより現場サイドの話をしているということですか?

峯村)今回の発表を見ても、「前回の首脳会談のフォローアップだ」と言っています。こちらの方が具体的な話をしているのだと思います。

飯田)具体的に。

峯村)中国としては、「ロシアによるウクライナ侵攻について、アメリカは困っているでしょう。我々が手伝ってあげてもいいですよ」と、ある種の秋波を送っているわけです。「でもわかっているよね。台湾で少しくらいは妥協しろよ」というバーター取引を持ち掛けているわけです。この間の習近平氏の会談もそうですよね。

飯田)二重の取引を。

峯村)しかし、ここには大きな誤解があります。中国から見れば、「ウクライナを助けてやるから台湾だね」と。ところが、バイデン政権の外交安全保障では優先課題が違うわけです。最優先課題はロシアではなく、中国なのです。しかも、中国のなかの優先課題は台湾問題なわけです。そこが実は中国側の思惑とは違う。「ウクライナ戦争がどれだけ長期化しようが、台湾をディールすることはあり得ない」というのが、バイデン政権のスタンスだと思います。

アメリカの台湾に対する「曖昧戦略」への意見が強まる 〜ウクライナ情勢を受け

飯田)そもそもアメリカは台湾に対して、能力としては、もちろん守れるだけのものはあると。ただ、「守るか守らないか」の意思に関しては、曖昧戦略を続けてきた。そこに対する反対意見が、まず軍サイドのOBたちから出てきた。先立って、安倍元総理大臣が全世界に発信する形のプロジェクト・シンジケートを通して、「曖昧戦略はいい加減やめた方がいい」という話をしましたよね。

峯村)これについては、アメリカのなかでも議論が出ています。今回のウクライナ情勢を見て、「曖昧戦略はやめた方がいいのではないか」という意見は、アメリカのなかでもかなり強まっています。私もそろそろ曖昧戦略はやめた方がいいと思います。

飯田)曖昧戦略は。

峯村)内部文書のなかでは、はっきりと有事の際に台湾を「防衛する」と書いてあるわけですから。そこはもう出してしまってもいいのではないか……スクープとして出したのは私なのですけれども。文書を報道した目的も、「曖昧な戦略ではない」ということを示すためです。

台湾有事の際、「アメリカは介入しない」と思っている中国 〜アメリカの「曖昧戦略」から

飯田)守るか守らないかを明言しないということで、台湾を攻めようとする中国からすれば、「出てくるか出てこないかわからないけれど、出てきてしまったら大変なことになるからやめておこう」と。いままではそれで抑止が効いていたけれども、軍の力に自信をつけてきた中国は、「出てくるのであればやってやろうではないか」という意識になってしまうということですか?

峯村)2018年に中国国防大学の、習近平氏のブレーンである軍人に取材したことがあります。その人が明確に言っていたのは、「我々はいろいろな研究をし、ウォーゲームと呼ばれるシナリオもやったけれど、アメリカは中国との核戦争を恐れて、台湾有事のときには絶対に介入してこない自信がある」と言っていました。

飯田)台湾有事の際、アメリカは介入しないと。

峯村)これは彼だけではなく、中国軍のなかで広まったコンセプトなのです。「所詮、台湾はアメリカからすれば、中国を封じ込めるためのカードに過ぎないのだ」と。ですので、台湾有事が戦争になる可能性があるとすれば、その認識のズレからだと思います。

習近平主席、SCO・CSTO合同サミットに出席(北京=新華社記者/黄敬文)= 2021(令和3)年9月18日 新華社/共同通信イメージズ

中国とのズレから起こる事故を防ぐためにもアメリカは曖昧戦略をやめるべき 〜「有事の際には守る」と言う必要がある

峯村)当時、そのインタビューを持ってアメリカに行き、そのときの大統領補佐官だったH・R・マクマスターさんにその話をしたのです。「中国人がアメリカは出てこないと言っているよ」と伝えたら、マクマスターさんは激昂して、「我々は必ず台湾を守るのだ」とはっきり言っているのですよね。

飯田)必ず守ると。

峯村)ここの認識のズレなのです。「出ない」と思っている中国は、「ここまで行けるよね」と考えていろいろな手を出してきた。しかし、実はアメリカが強気に反発してくるというところから、いろいろな事故が起こる可能性があるのです。それを防ぐためにも、明確に「有事の際は台湾を防衛する」ということを、ある程度のラインまでは言う必要があると思います。

「アメリカのウクライナ政策と台湾政策は違うのだ」ということを明確にするべき

飯田)核があるから、「第三次世界大戦になるからアメリカは出てこないだろう」というのは、ウクライナに関してプーチン氏が言っていた、まさにその通りですよね。

峯村)だから、ここでそのままにしてしまうと、中国としては「やはり核保有国には手を出せないのだ」という認識だけ残ってしまいかねません。「アメリカのウクライナ政策と台湾政策は違うのだ」ということは明確にするべきです。

台湾有事の際、主戦場になる日本

飯田)では、日本はどうするのかということが、喫緊の課題として出てきます。

峯村)台湾有事になった際、日本は間違いなく主戦場になります。いくら祈っても、憲法9条があってもダメです。中国軍の内部文書にも書かれていますが、最初に威嚇射撃をしてくるのは、日本にある米軍基地や自衛隊基地の周辺です。

飯田)米軍基地と自衛隊基地の周辺に。

峯村)「お前たちは出てくるなよ」というプレッシャーを掛けるということが、中国軍の作戦のなかにあるわけです。

飯田)巻き込まれる。

峯村)では、巻き込まれたときにどうするべきなのか。例えば、いまある基地の空港や施設をどれだけ早く修復できるのか。「抗堪化」と言うのですけれども、それを急ぐことです。さらに、台湾は格納庫を地下に潜らせていますが、戦闘機などをミサイルから防ぐためのシェルターをつくる。お金はかかりますけれども、対策することによって、「日本もなかなかしぶとい」と中国に思わせることが抑止力になるのです。

飯田)継戦能力の部分。

峯村)そういうことです。那覇基地もそうですけれども、丸出しで戦闘機を置いているだけです。嘉手納基地も台風除けはありますが、ミサイル除けはない。そのような状況だと、中国のようにミサイルを千数百発も持っている国からすると、「攻撃してしまおう」という考えになりがちです。

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