ロシア戦勝記念日「前日」にビデオメッセージを出したゼレンスキー大統領の狙い

二松学舎大学国際政治経済学部・准教授の合六強が5月10日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。戦勝記念日でのプーチン大統領の演説に対して「根拠がない」とした英ウォレス国防大臣の批判について解説した。

演説するゼレンスキー大統領=Ukrinform/時事通信フォト

プーチン大統領の演説について、イギリス国防相が「根拠のないおとぎ話のようだ」と批判

ロシアのプーチン大統領は5月9日、第二次世界大戦での対ドイツ戦勝記念日の式典で演説を行った。このなかでプーチン大統領は、ウクライナと欧米によって「絶対に受け入れられない脅威が我々の国境で直接つくり出されていた」と主張。「ロシアは予防的に侵略者を撃退した」と述べ、ウクライナへの侵攻を正当化した。これを受け、イギリスのウォレス国防大臣は「根拠のないおとぎ話のようだ」と批判。「NATOや東欧がロシアを侵攻する計画はかつてなかったし、いまもない」と指摘した。

「戦争宣言」の観測を出していたウォレス国防大臣

飯田)各国の反応が出てきています。イギリスのウォレス国防大臣の発言ですが、この人は「戦争宣言するかも知れない」と言っていた人ですよね。

合六)ウォレス国防大臣がまさに「戦争宣言」の観測を出した張本人です。ただ、そのとき発言したラジオを聴くと、「具体的な情報はないのだが」として留保しています。可能性を言うことによって、プーチン大統領を牽制(けんせい)していたのです。

飯田)なるほど。

合六)プーチン大統領に宣言をするつもりがあったかどうかはわかりませんが、もしあったのに牽制されて言わなかったということであれば、これはアメリカ・イギリスが侵攻前からやってきた、「先に情報を出すことによって行動を遅らせる」という戦略の効果があったということも考えられます。

ウクライナでは5月8日を「追憶と和解の日」として新たに設定 〜ゼレンスキー大統領が5月8日にメッセージを発信

飯田)ゼレンスキー大統領もメッセージを出していますが、どうご覧になりますか?

合六)ゼレンスキー大統領のビデオメッセージは2回出ています。5月8日と9日に発表されました。

飯田)2日連続ですか。

合六)よく考えていただければわかると思うのですが、ウクライナも旧ソ連の国です。同じソ連のなかでドイツと戦って勝ったということで、長らく5月9日が戦勝記念日とされていました。

飯田)ウクライナでも。

合六)もちろん、いまも5月9日は戦勝記念日なのですが、クリミア併合以降、2015年から5月8日を「追憶と和解の日」として新たに設定し、第二次世界大戦だけではなく、ドンバスで亡くなった方々を追憶する。そして国家と国家の和解、人々の和解を祈る日としたのです。

飯田)「追憶と和解の日」として。

合六)5月8日は、アメリカやヨーロッパでも戦勝記念日です。「どのように過去の戦争と向き合うか」というところで、ウクライナは2015年以降、ヨーロッパ的なアプローチを取っていて、その際、象徴として赤いポピーの花を胸につけます。ポピーはイギリスでは、第一次世界大戦のリメンバランスデーでつけられる象徴なのですが、これを採用してヨーロッパ的な式典をやっているのです。

対ドイツ戦勝記念日の式典に出席したロシアのプーチン大統領(中央)=2022年5月9日、モスクワ(タス=共同) 写真提供:共同通信社

2014年以降、ヨーロッパの道を進むウクライナ

合六)軍事パレードもウクライナでは5月9日ではなく、8月末の独立記念日に行います。「ロシアとウクライナは兄弟国だ」とよく言われますが、明らかに政治レベルだけではなく社会レベルでも、特に2014年以降は違う道を進んでいます。

飯田)兄弟国だと言われていたけれど。

合六)単に「EUに加盟したい、NATOに加盟したい」ということではなく、記念式の催し方などの面でも、ヨーロッパの道を進んでいた。この流れのなかで、今回ゼレンスキー大統領は5月8日にもメッセージを出したのだと思います。

飯田)2015年ということは、合六さんがキーウにいらっしゃったタイミングですね。

合六)ですので、よく覚えているのです。2015年4月に到着したのですけれども、その年から「5月8日に祝う」ということが盛り上がっていて、「旧ソ連なのになぜ5月8日なのだろう」と思っていたら、実は新しい法制度でその日を設定したということだったのです。

飯田)「追憶と和解の日」ということで。

合六)当時は「国家主導で記憶をとらえ直すのか」という批判も国内外であったのですが、戦争が起こって以降、世論にも着実に変化がみられます。5月9日は単に戦争に打ち勝った日というだけではなく、「追悼・追憶の日」とする人が多くなっています。単に過去の栄光を称えるのではなく、直近の8年間にドンバスで亡くなったウクライナの戦死者たちを追憶する日になっているのだと思います。

「不戦の誓い」であったはずの戦勝記念日

飯田)日本にとっては8月15日かも知れませんし、ヨーロッパにとっては5月8日であり、ロシアでは5月9日ですけれども、そもそもこれは先の大戦を追憶し、反省する日です。もともとロシアが行っていた5月9日の式典にも、そういう要素はあったのですよね。

合六)戦勝記念日は「不戦の誓い」であり、“Never again”なのです。「二度とこういうことがあってはならない。そのために私たちはどうするべきなのか。ここには戦勝国も敗戦国もなく、ともに手を携えて新しい平和をつくっていこう」という日なのです。

飯田)二度と戦争を起こしてはならないと。

合六)かつてロシアにおける5月9日にも、例えば2005年の60周年の式典では、日本から当時の小泉首相も訪問されていますし、ドイツのシュレーダー首相やアメリカのブッシュ大統領も参加しています。戦勝国・敗戦国は関係なく、またアメリカ・ヨーロッパ・ロシアも関係なく、この日をきっかけに「不戦の誓い」を新たにしようという形で催されていました。

飯田)そうでした。

合六)それがここ最近のロシアでは、プーチン大統領によって政治利用されている部分があって、いかに愛国心を高めるか、いかに自分の求心力を高めるかというところが強調されています。今回は戦火のなかで行われた異例の式典であり、まさにそれを重視したのだろうと思います。

プーチン政権によって、政治的に使われている「不滅の連隊」

飯田)ここ数年、愛国心を高揚させるようなやり方を、いろいろなところで行っているということも聞きます。先の大戦で亡くなった英雄たちの石碑が各地で建てられたり、亡くなった方の写真を掲げながらの行進もあるようです。

合六)戦争で亡くなられた祖父や曾祖父、あるいは戦争に身を捧げた祖母の遺影などを抱えて行進する。5月9日にも実施されていましたけれど、話によると、市民側から出てきた非政治的な「追憶のためのイベント」として始まったものが、ここ最近はプーチン政権によって、政治的に使われているところもあるようです。

飯田)「不滅の連隊」と呼ばれる行進もあります。「不戦の誓い」として、「我々とつながっているものなのだ」というアピールだったものが、いつの間にか愛国心高揚のやり方になっているということですね。

合六)愛国心を高揚すること自体に問題はないのでしょうけれども、それが権力や政治につながっているところが極めてロシア的ですし、プーチン的であると言えるのではないでしょうか。

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