「フィリピン大統領選でマルコス元上院議員圧勝」で気になる中国との今後の関係

慶應義塾大学総合政策学部准教授の鶴岡路人が5月12日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。フェルディナンド・マルコス元上院議員が当選を確実にしたフィリピン大統領選挙について解説した。

フィリピン南部タグンで5日、集まった支持者の歓声に応えるフェルディナンド・マルコス氏(通称ボンボン・マルコス)=2022年5月5日 写真提供:産経新聞社

フィリピン大統領選でマルコス元上院議員の圧勝に数百人が抗議

5月9日投開票のフィリピン大統領選で当選を確実にしたフェルディナンド・マルコス元上院議員に対して、学生を中心とする約400人がマニラの選挙管理委員会の建物の周囲で、選挙に不正があったとして抗議活動を行った。

飯田)マルコス氏というと、独裁と言われ「ピープルパワー革命」で倒された故マルコス元大統領の長男です。歴史を見ると、「この人が大統領になるのか」という感じもありましたが。

鶴岡)まさに国を追われた人ですからね。

飯田)アメリカに亡命しましたものね。

ポピュリスト的な政治家には世襲の人が多い 〜本来は反対の方向だが、知名度によるもの

鶴岡)その長男だということです。興味深いのは、他の国でもそうですけれど、ポピュリスト的な政治家には世襲の人がかなりいるということです。これを世襲と言っていいのかはわからないですけれども、フランスのルペンさんもまさにそうです。本来はあまり結びつかないはずなのです。親が政治家で恵まれた家庭に育った人ですが、本来のポピュリズムはそういうことに反対するという方向が強い。

飯田)「エリートは何もわかっていない」と言って上がっていく感じですよね。

鶴岡)それでも世襲の人がポピュリズム的な流れに乗る1つの要因は、やはり知名度なのです。知名度がないとポピュリストは務まらないのです。誰も注目してくれないと困るので、いいイメージや悪いイメージを含めて、知名度が武器になる。そういうことではないでしょうか。

ドゥテルテ政権を引き継ぐが「中国にべったり」ということにはならない

飯田)今回の大統領選で、マルコス氏は政策に関してあまり具体的なことを言わなかったようですが、ドゥテルテ政権を引き継ぐということになると、中国との間合いは近い形になりそうですか?

鶴岡)これもいろいろな議論がありますけれども、「中国にべったり」ということではないと思います。ドゥテルテ大統領自身、そこまで中国に寄っていたわけではありません。言いたいことは言うし、中国からしても「予測不能な指導者」というイメージがあったのだと思います。

アメリカとASEANが首脳会議を開催

飯田)南シナ海の情勢等々を考えると、ASEAN各国は中国との間合いを気にしながら外交も行うというところですが、12日からアメリカとASEANが首脳会議を開催します。

鶴岡)これは注目です。もちろんアメリカとしては、ウクライナ情勢についてASEANに対し、もう少しこちらに来て欲しいということだと思います。制裁まではいかないにしても、ロシアを非難することはして欲しいのだけれど、なかなか難しいところだと思います。

飯田)難しい。

鶴岡)岸田総理がインドネシア、ベトナム、タイなどに行きましたけれども、少しずつ成果はあるにせよ、「こちらに引き寄せた」というところまでは達していません。

ロシア軍から奪った戦車の上に立つウクライナ兵=2022年3月27日、キエフ郊外(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

ウクライナ侵攻により、「今後もロシアの兵器に頼っていて本当にいいのか」という議論が始まりつつあるインドやベトナム

飯田)ロシアとの関係性を考えると、インドなどもそうですが、兵器を入れていました。その辺りのつながりは大きいですか?

鶴岡)やはり兵器に関しては大きいです。大きいですが、これだけロシア軍が苦戦し、その姿が明らかになってしまうと、「今後もロシアの兵器に頼っていて本当にいいのか」という議論が既に始まりつつあるのです。

飯田)ロシアの兵器でいいのかと。

鶴岡)アジアで言えばインドやベトナムです。兵器を買うということは、安くてコストパフォーマンスのいい兵器が欲しいということもありますが、それを通じて相手国との関係を強化することが重要なのです。

飯田)兵器を買うことで関係を強化する。

鶴岡)ロシアとの関係を強化することが得だった時代はあったわけですけれども、今後を考えると、ロシアとの関係強化を行う価値は下がるわけです。兵器の信頼性も怪しく、ロシアとの関係強化に政治・外交的なうま味がないとしたら、「他の国から兵器を買った方がいいのではないか」という議論になってもおかしくありません。

インドやベトナムがロシア以外から武器を買う場合、韓国からという可能性も

飯田)そう考えると、インドやベトナムは両方とも中国と国境を接していて、かつ紛争も抱えていた。ロシアから買わないということになっても、中国から買うわけにもいかない。選択肢が狭まってきますね。

鶴岡)そうなのです。アメリカの兵器はスペックが高すぎますし、値段も高すぎて手が出ない。性能はトップ級のものでなくても、もう少し安い兵器が欲しいとなると、実はあまり選択肢がないのです。もしかしたら、ここに出てくるのは韓国かも知れない。

飯田)韓国! なるほど。

鶴岡)韓国は武器輸出に積極的なので。

飯田)ここで、「では日本が」というわけにもいかないですよね。

鶴岡)現実的には難しいですね。

日本がインドやベトナムに武器を輸出することは難しい

飯田)本来、装備品の輸出についても緩和できないかという話になりつつあるわけですが、ニーズとの齟齬のようなものもありますか?

鶴岡)正面装備としての戦車や、ウクライナ情勢で注目を集めている榴弾砲などを、ベトナムやインドに対して日本が輸出できるかと言うと、かなり政治的なハードルがあると思います。

飯田)関係強化という意味で考えると、もし実現できたら大きいですか?

鶴岡)大きいですけれども、日本側も覚悟が問われると思います。

東南アジア諸国でのウクライナ情勢への関心は日本ほど高くない

飯田)そう考えると、ウクライナで起こったことが東アジア、インド太平洋地域にもいろいろな影響を起こしてきますね。

鶴岡)本当にそうなのです。ただ、日本ではウクライナ情勢への関心は極めて高いのですが、日本を離れて東南アジアの国に行くと、毎日トップニュースでやっているというわけではありません。その辺りの温度差が相当あるということは認識しなければならないと思います。

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