日本の総理大臣の腰が抜ければアジアは壊滅する

元内閣官房副長官補で同志社大学特別客員教授の兼原信克が5月30日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。中露が拒否権を行使して否決された国連安保理の北朝鮮への制裁強化決議案について解説した。

2022年5月24日、記者の質問に答える岸田総理〜出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202205/24quad.html)

国連安保理の北朝鮮への制裁強化決議案、中国とロシアが拒否権を行使して否決

北朝鮮の相次ぐ弾道ミサイル発射を受けて、国連安全保障理事会では5月26日、北朝鮮に対する制裁を強化する決議案の採決が行われたが、常任理事国の中国とロシアが拒否権を行使して否決された。北朝鮮に対する安保理の制裁決議案で拒否権が使われたのは初めてである。

飯田)理事国15ヵ国のうち、13ヵ国は賛成でしたが、中露が反対で否決になりました。日本人からすると「あれだけミサイルを撃っておいて」と思いますが、中露からすると、ここで存在感を示すという意図もあるのでしょうか?

兼原)あると思います。もともと「共産圏対自由圏」の、全然違う人たちでつくられた安保理です。戦勝国でまとまっていて、初めはすべて民主国家と言っていたのですが、そんなことはなかったのです。

飯田)そうですね。

兼原)中国とアメリカが長期的な対決に入って、ロシアは戦争をしている最中ですから、大きな亀裂が入った状態です。北朝鮮は向こうの子分ですので、自分たちを庇う。自分たちに逆らっているのに「協力してくれ」と言われても困るということだと思います。

世界で最も危ない日本 〜「NATO核」のようなものもなく、中・露・北朝鮮に囲まれ

飯田)日本から考えると、北朝鮮はミサイルを撃ってくる。ロシアも中国も核兵器を持っている。こんなに危ないところは世界中を見渡してもないのではないですか?

兼原)いま、最も危ないのは日本です。北大西洋条約機構(NATO)もありませんし、「NATO核」もない。ロシアは「核を使う」と言い始めていて、中国はすごい勢いで核兵器を増やしています。北朝鮮もとうとう核の実戦配備に入りましたから。

ドイツのような「NATO核」も持たない日本

飯田)それに対して、日本には日米同盟しかないということですか?

兼原)核兵器不拡散条約(NPT)という条約があって、日本は原子力を平和利用にしか使わないということで、核の濃縮まで認められた最優等生なのですが、それには「核兵器をつくらない」という前提条件があります。

飯田)核兵器をつくらない。

兼原)いかにアメリカの核を大きく見せるかということが勝負になるのです。ドイツも日本と同じように核を持っていませんが、ドイツはNATO核というNATO独自の核を持っています。しかし、日本には非核三原則があるので、核の話は完全にアメリカに任せています。そろそろ日本も核に関して、アメリカに真剣に絡んでいく必要があると思います。

飯田)絡んでいく。

兼原)お任せ平和主義はダメですよね。

飯田)日本のなかで「アメリカの核をどう使うか」という議論をすると、「戦争する気か!」となってしまって、議論が進んでこなかった気がします。

兼原)安全保障の議論の原点は、国民の命なのです。「国民を守れるか」というところに帰って議論するべきです。「憲法9条・非核三原則を守っていたら、国民が死んでしまった」ということは許されないですよね。

憲法9条が残って国民が死んでしまうことは許されない

兼原)陛下は戦争がお嫌いだったはずなのですが、第二次世界大戦によって、最終的に国民が約300万人も亡くなったわけです。「何を守っていたのか?」ということです。戦後も同じで、国民を忘れて憲法9条のことを言い始めると、「憲法9条が残って国民が死んでしまう」ことになりかねません。それは間違いなのです。

モスクワのクレムリンで、ベラルーシ大統領との共同記者会見に臨むロシアのプーチン大統領(ロシア・モスクワ) AFP=時事 写真提供:時事通信

戦後75年以上、アメリカ大統領と核で突っ込んだ話をした総理大臣は1人もいない

兼原)どうやって国民を守るかということが重要なのですが、いちばん大きな問題は、実は核の問題です。1つの核が落ちると、100〜200万人が死んでしまいますから。核兵器を相手に使わせないようにするということが、最も大切な問題なのですが、日本はずっと寝ていたのです。

飯田)寝ていた。

兼原)泰平が75年以上も続いたので、昏睡状態になってしまっているのです。誰も考えていないですし、アメリカは「日本はこの話はしないものだ」と思い込んでいます。下のレベルでは始まっているのですが、国レベルではまだですね。

飯田)国レベルで話が始まっていない。

兼原)核は最高指導者が仕切る話です。日本の総理がアメリカの大統領と、核について突っ込んだ話をしたことは1度もありません。「大丈夫だから、よろしく!」と言われているだけで、「何が大丈夫なの?」と聞いた総理は戦後75年以上、1人もいません。

今後日本を対象として、さらに中露の中距離核は増えていく 〜それに対する議論がない

飯田)かつての外交文書などが公開されていますが、ソ連がアメリカには届かないけれどヨーロッパには届く核をつくろうとしたときに、ソ連がヨーロッパ正面から退く代わりに、もしかすると極東に軍力を持ってくるかも知れないということがありました。

兼原)そのときは中曽根元総理が頑張られて、当時の米レーガン大統領に「アジアを犠牲にしてヨーロッパ人を助けるのか?」と?みついたのです。それで「ゼロオプション」という考え方ができて、米露は中距離核を持たないことになりました。しかし、中国が核を増やしてしまったので、中距離核の禁止条約もなくなってしまったのです。これからさらに中距離核は増えていきます。日本はその対象になっていくのですが、それに対して「どうするのか」という議論がないのです。

このままでは戦術核が使われ、日本が壊滅したあと停戦協議が始まり、「日本がいない平和」が回復することに

飯田)中距離核ということは、まさにユーロのミサイルのときと同じで、日本には届くけれどアメリカ本土には届かない核ということですか?

兼原)「戦術核」と言われますが、自分が死ぬ核が戦略核なので、中距離核も日本にとっては戦略核と同じなのです。落ちたら私たちは死んでしまいます。そして私たちが死んだあとに停戦協議が始まると、日本がいない平和が回復するのです。これが最悪のシナリオです。

飯田)日本が完全になくなってしまう。

兼原)日本が壊滅したあとに停戦協議が始まって、和平協議になると、東京がいない平和になるわけです。これが最悪のシナリオであり、ドイツはそれが怖かったのです。東西ドイツだけがいなくなり、ヨーロッパが平和になる。

飯田)いまもそうですが、ドイツは当時、フランスもイギリスも核を持っているので「狙われるのは自分たちだけではないか!」と。

兼原)そうです。東西ドイツのなかで、核をつくりたいという雰囲気が何となくありました。西ドイツのシュミット元首相が「ふざけるな!」と言いまくっていましたが、そういうことが原動力になってNATO核は生まれているのです。

安倍元総理が発言した「核シェアリング」 〜アメリカの核を日本の飛行機や潜水艦に乗せてもらう

飯田)いま日本が、まずは国内で議論しないことには政治も動かないし、アメリカも動かないのですね。

兼原)そうです。アメリカの核の抑止力をどうやって強化するかということです。アメリカは大きな国なので、大きな核爆弾をたくさん持っていますから、彼らは出先で小さい核を使うことが好きではないのです。「任せておけよ」しか言わないので、「任せておいて本当に大丈夫か?」とドイツは思ったわけです。でも日本はずっと「大丈夫だろう」と思って、ここまで来てしまいました。ロシア・中国・北朝鮮と、これだけ周りを核保有国に囲まれて、「そろそろ本当に心配になってきたな」というところだと思います。アメリカに対して安倍元総理が「核の話をしてくれ」と言い始めました。よくおっしゃったと思います。

飯田)「核シェアリング」というアイデアが出てきました。これは「一緒に引き金を引く」というような感じですか?

兼原)そうですね。自分で核をつくるのではなく、「アメリカの核を撃たせてくれ」「日本の飛行機や潜水艦にアメリカの核を乗せてくれ」ということです。

25日、教師や学生代表との座談会で重要演説を行う習近平氏。習近平(しゅう・きんぺい)中国共産党中央委員会総書記・国家主席・中央軍事委員会主席は25日午前、青年節(5月4日)を前に北京市の中国人民大学を訪れ、思想政治科目のスマート教室、博物館、図書館を視察した。(北京=新華社記者/鞠鵬)=配信日:2022(令和4)年4月26日、クレジット:新華社/共同通信イメージズ

事前に細かく合意して決める 〜自衛隊がアメリカの核部隊に入り込む感じ

飯田)「自分たちの意思で撃つことができるのか?」という議論がありますが。

兼原)アメリカの核なのでアメリカがOKしないと撃てませんが、「どこに撃つのか」「いつ撃つのか」「どの組織にマネージするか」など、細かく一緒に決めます。自衛隊がアメリカの核部隊に入り込む感じです。

飯田)自衛隊が。

兼原)撃つのは日本の潜水艦などですが、アメリカが核兵器を持ってくるので、両方で合意して撃ちます。その瞬間に合意するのではなく、事前に細かく合意して決めます。その体制に持ち込まなくていいのかということです。

飯田)細かく決めるときには、当然ながら情報の共有も行われますよね。

兼原)それはもちろん、情報・ターゲティング・組織・お金など、すべて共有します。NATOではそうなっています。

核シェアリングによって核による攻撃を抑止することができる

飯田)日本としても、それをやることによって「日本に撃ったらアメリカが本当に出てくることになる」と周りに思わせることができますね。

兼原)撃つと核兵器の敷居が下がって、核戦争が始まってしまうということです。ロシアのやり方では割と早い段階で、小さな核ですが、「核兵器を使うぞ」と言ってきます。「これでロシア人の意地を見せる。そこで止めろ」と恫喝するやり方なのですが、「そこで止まらない」ということを見せないといけないのです。

飯田)そこで止まらないと。

兼原)「やってはダメですよ」という姿勢を見せないといけません。核兵器は鉄砲を持っていることと一緒なので、こちらが果物ナイフを見せても、意味がありません。土下座したら撃たれてしまいますから、鉄砲を持った相手には、鉄砲を構えて「やめなさい」と言わないと、向こうは真面目に考えないですよね。

飯田)「撃ったら大変なことになるぞ」と。

兼原)「要するに、俺が決めればいいのだな」と向こうが思ってしまうと、いつやるかわからなくなるのです。口先だけでなく「やったらダメだ」と見せなければいけません。

飯田)アメリカがどんなに口先で「助けてやる。大丈夫だ」と言っても、それだけではないということですね。

兼原)そこがいちばん怖いところで、核兵器は軍事的にいろいろな使い方ができるのですが、心理兵器なのですよね。

飯田)心理兵器。

日本の総理大臣の腰が抜ければ、アジアは壊滅する

兼原)相手の最高指導者の腰が抜ければいいわけです。「これ以上やったら核を使うぞ!」というのは、プーチン大統領がやっていることですよね。そう言われれば、核を持っていない普通の指導者は、腰が抜けますよ。

飯田)確かにNATOは直接介入しなくとも、抑止されているようなところがありますよね。

兼原)「NATOが介入するかも知れない」と思うから使わない。しかし日本には日本しかいませんので、日米同盟が最強の同盟ですから、日本の総理大臣の腰が抜けたら、アジアは壊滅します。もう、アメリカは戦えないですから。サイパンに退くというような話になっていくので、日本が要なのです。だから日本さえ外してしまえば、中国もロシアも勝てるのですよ。日本には自衛隊が約25万人いて結構強いのですが、総理大臣の腰が抜ければ軍隊は崩れますから。

関連記事(外部サイト)