米主導「IPEF」 TPPの代わりにはならない「根本的な理由」

元内閣官房副長官補で同志社大学特別客員教授の兼原信克が5月30日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」について解説した。

2022年5月23日、IPEF(インド太平洋経済枠組み)関連行事〜出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202205/23usa.html)

インド太平洋経済枠組み(IPEF)

アメリカ主導の新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」が始動した。アメリカ通商代表部のキャサリン・タイ代表は5月27日、日本経済新聞の単独取材に応じ、IPEFの実効性を高めるため参加国がルールを順守しているか監視する仕組みを検討すると表明した。夏までに交渉を始めるとのこと。

IPEFはTPPの代わりにはならない 〜IPEFには関税の引き下げがなく、アジア諸国には美味しくない

飯田)先日、バイデン大統領が日本に来たときに設立を宣言した「IPEF」ですが、これは環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に代わる枠組みになるのでしょうか?

兼原)ならないですね。TPPに入れなくなってしまったので、民主党は労働組合が強いですし、共和党はトランプ支持者の力がとても強いので、自由貿易はアメリカで売れないのですよ。

飯田)売れない。

兼原)外交は安全保障と価値観の他に、ビジネスと貿易が3本目の柱で、これがないと力が出ません。TPPに入れないからIPEFを持ち出してきて、データフローや重要インフラ、気候変動や腐敗防止などをやるのですが、肝心の部分の「関税引き下げ」が入っていないのです。

飯田)関税の引き下げが。

兼原)アジアの国は昔の日本と同じですから、いいものを安くつくって巨大市場であるアメリカに売りたいのです。ところが関税の引き下げが入っていないと、「え?」という話になってしまいます。

飯田)アジアの国々にとって。

兼原)ここでアメリカが戦略的に経済の旗を振ることはとても大事なので、日本や韓国は付き合って「一生懸命やろう」と言っているのですが、データや気候変動への対応は先進国向けです。だから日韓はまだいいのですが、他のアジアにおける途上国の人たちが一生懸命アメリカでものを売ろうと思ったのに、「扉が開きません」と言われると、「え?」という感じになりますよね。日本も後押ししてあげないといけないと思います。

飯田)なるほど。

兼原)ルールづくり自体は間違っていないので、続けたらいいと思うのですが、いちばん肝心の部分が入っていない。ストロベリーケーキのストロベリーがないような形になってしまいます。カステラは美味しいのですが。

飯田)カステラだけでは。

関税引き下げは難しいアメリカ

飯田)関税の話は議会も通らないから難しいということですか?

兼原)そうです。いまはアメリカファースト、ジョブファーストになっています。労働組合はもともとそうです。共和党は自由貿易推進派だったのですが、トランプ支持者が3分の1くらいを固めてしまっています。トランプさんを怒らせると、上院議員も大統領も予備選が通らないのです。共和党は完全に逆を向いていますから、いまはみんなアメリカファーストなのですよ。

中間選挙を前に積極的に動けないバイデン政権

飯田)そうするとTPPに復帰するのは相当難しいですか?

兼原)TPPができないからIPEFをやっているのです。「何かやらなくては」という気持ちはアメリカにもあるのです。

飯田)何かやらなくてはいけないけれど、できることは限られている。

兼原)ホワイトハウスや役人クラスの人は、「何かやらないと中国にアジアの経済を取られてしまう」と思っているのですが、「議会が言うことを聞いてくれない」という感じだと思います。もう少し中国が伸びてきたらやるかも知れませんけれど。いまはまだ経済的な考慮の方がアメリカ議会のなかでは強いのです。「またジョブがなくなるのか」という話になってしまっているので。

飯田)中間選挙を前にしていますね。

兼原)なかなか動かないと思います。

ソロモン諸島が重要な理由

飯田)中国の王毅国務委員兼外相がソロモン諸島を訪問しましたよね。

兼原)アメリカは真っすぐ北太平洋に来られないと、豪州経由になるのです。豪州で1回バウンドして上がってくる。だから第二次世界大戦の際、日本はマリアナからパプアニューギニア、ガダルカナル(ソロモン)、サモア、フィジーと通って、アメリカが来ないようにしたのです。ソロモン諸島はかつてのガダルカナルです。それで珊瑚海海戦があったのです。中国の出方は第二次世界大戦の日本海軍と同じです。みんなが狙っているということだと思います。ソロモンが取られそうなので、ピリピリしているのでしょう。

アングロサクソンであるオーストラリアが中国につくことはない

飯田)オーストラリアも政権が変わりましたね。

兼原)労働党政権になりました。中国も初めは優しくするかも知れませんが、とても横柄な態度を取るので、オーストラリアがカチンと来てしまって、結局、あまり変わらないのではないでしょうか。

飯田)そこは日米豪印4ヵ国の枠組み「クアッド」や「AUKUS(オーカス)」の方が。

兼原)中国は経済的利益ですが、アメリカとは価値観や安全保障が一体化しています。豪州はアングロサクソン一族ですから、徳川宗家の紀州藩のような感じなのです。それは中国にはつかないですよ。

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