日本人がマグロを食べられない事態も ウクライナ侵攻の影響でひっ迫する食料需給

ジャーナリストの佐々木俊尚が6月1日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。今後の日本の景気について解説した。

豊洲市場で行われたマグロの初競り=2022年1月5日午前、東京都江東区の豊洲市場 写真提供:産経新聞社

7日ぶりNY株が反落

連休明け5月31日のニューヨーク株式市場のダウ平均株価は、先週末と比べ222ドル84セント安い3万2990ドル12セントで取引を終えた。ハイテク銘柄中心のナスダック総合指数は49.74ポイント下がって、1万2081.39。一方、円相場は1ドル=128円70銭付近で取引されている。

飯田)7営業日ぶり反落となったダウ平均ですが、アメリカの原油先物相場が上昇し、インフレの長引きが懸念されて売りが優勢になったようです。アメリカの原油先物ですが、米国産標準油種(WTI)は1バレル当たり115ドル26セントとなっています。一時期はマイナスになるのではないかというような需要の蒸発がコロナ禍にありましたが、いまは1バレル100ドル以上となっています。

佐々木)完全にコストプッシュインフレになってしまって、スタグフレーションになったと言うアナリストの方もいます。デフレ脱却は、コストプッシュインフレでは不可能であると。インフレであるのはいいことなのですが、上乗せされた価格が雇用や給料に回らないと、消費市場は活性化しません。

飯田)いい循環になっていかない。

佐々木)現状、上乗せの金額は原材料として海外に流れているだけで、ほとんど消費増税と変わりません。異なるのは、消費増税は国にお金が流れますが、今回は海外にお金が流れているだけということです。

食料自給率が50%ない日本

佐々木)エネルギーは日本にはないので輸入するしかない。これはどうしようもない状態です。もう1つは、食料です。1億人も人口がいる国で、食料自給率が50%を切っている国は多くありません。理由はいろいろと言われていますが、最も大きいのは土地が狭いということです。国土自体は広いのですが、6〜7割が森や山岳なので、耕せる農地が少ないという問題があります。

飯田)農地がない。

佐々木)以前、食料系アナリストの方に話を聞いたことがありますが、自給率を100%にするには、耕地面積がいまの4倍くらいないと無理だということです。一時、農水省が「食料が足りないから、みんな芋を食べた方がいい」と言い出したことがあったらしいのですが、戦前の日本かと思いました。しかし、芋を仮に食べたとしても足りません。

米農家を優遇してしまった戦後農業政策の失敗 〜補助金が入るので畑に転用しなかった

佐々木)日本の戦後の農業政策が失策したということもあります。これだけ自給率が低くて海外から作物を輸入しているのに、一方で米は余っているではないですか。

飯田)そうですよね。長らく減反政策などをやってきました。

佐々木)減反で大量に水田を減らしたにも関わらず、米は余っている。本当は減反した分を畑などに転用すればよかったのですが、米農家を優遇してしまった。米をつくっていれば、いろいろな補助金が入ってくるという仕組みにしてしまったので、みんな米から離れられなくなり、野菜をつくる方向性にならなかった。それが長年蓄積されて現在に至るのです。

大規模な耕作地が少なく、農業法人が増えないという構造的な問題も

佐々木)それに加えて、日本は段々畑や棚田など、傾斜地が多いので大規模化しにくい。機械を入れにくいので、ウクライナの小麦畑のような大平原でつくる方法とは違うのです。そうすると、小規模の零細農家ばかりが多くなってしまって、結果的に農業法人が増えないという構造的な問題が絡み合っています。

【ロ軍に備えるウクライナ兵 南部州編入要請に猛反発】ウクライナ南部ヘルソン州の北方で、ロシア軍の侵攻に備えるウクライナ軍の戦車 2022年5月9日(ゲッティ=共同) 写真提供:共同通信社

ウクライナ侵攻のような非常事態が起こると輸入が滞り、食料需給のひっ迫が起きてしまう

佐々木)その結果、自給率が極めて低いので、ウクライナ侵攻のような非常事態が起きてしまうと、あっという間に食料需給のひっ迫が起きてしまう。一時は自給率が下がっていることに対して、どうしようもないので食料安全保障で調達先を増やせばいい、多様化させて一国に頼るのではなく、いろいろな国から輸入すればいいということが農水省の基本方針の1つになっていました。

飯田)そうですね。

佐々木)しかし、ウクライナ侵攻のような問題が起きたり、コロナ禍のようにグローバルサプライチェーンが棄損して上手くものが動かなくなってしまうと、途端に機能しなくなるということも起きます。

飯田)いまはウクライナの小麦について言われています。ウクライナからのものは日本にはそれほど入ってきませんが、飼料になる部分もなくなってしまうので、実は肉の値段も上がっているという問題があります。

ロシアからの輸入が多い蕎麦粉

佐々木)グローバリゼーションの時代で、すべてはつながっているのだと思います。ちなみに日本の蕎麦屋さんの蕎麦は、大半をロシアから輸入しています。ロシアは実は蕎麦の輸出大国なのです。

飯田)そうすると、日本の立ち食い蕎麦屋さんなどの安価な部分が苦しくなるかも知れない。

ロシアからの水産物は制裁対象外なのに高騰するウニやイクラ 〜「入ってこなくなるのでは」というマインドから

佐々木)心理的なマインドの問題もあって、たとえば水産物だと、ウニなどはロシア産が多いと言うではないですか。禁輸して経済制裁で入ってこないのかと思いきや、そうではなく、実は水産物は経済制裁の対象に入っていないのです。

飯田)そうなのですか?

佐々木)おそらくそれをやると、日本の中間業者が大変なことになってしまうので、難しいのだと思います。それなのに、ウニやイクラがものすごく高騰しているのは、おそらくマインドの問題です。業界がこのままいくと入ってこなくなるのではないかと心配するので、みんな押さえに入った結果、価格の高騰が起きているという感じです。

円安で購買力が弱いために、他国に競り負けて買えない 〜和食発祥の日本でマグロが食べられない事態も

飯田)蟹などもそうですが、ウクライナ侵攻が起こる前から、コロナ禍が明けてアメリカなどがバルクで買っていくので、日本の企業はなかなか手出しができないという話も聞きました。

佐々木)マグロなどが典型ですよ。日本食が世界中に広がった結果、日本人しか食べていなかったマグロが世界中で食べられるようになった。しかも日本は円安などで基本的な購買力が落ちていますから。

飯田)30年もデフレを続けていたら、そうなりますよね。

佐々木)そのため、他の国に競り負けて買えないという事態が続いています。和食発祥の国なのに、日本で和食が食べられなくなる日がいずれやってくるのではないか、という事態も考えられます。

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