IT系人材に経費を掛けられない「日本企業の事情」 〜優秀な人材はアメリカや中国に行ってしまう

ジャーナリストの佐々木俊尚が6月1日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。岸田政権の成長戦略である「新しい資本主義」について解説した。

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」

100万人に能力開発 政府が「新しい資本主義」原案を公表

政府は5月31日、岸田政権下では初の成長戦略となる「新しい資本主義」実行計画の原案を発表した。計画では雇用の流動性を高め、成長産業を活性化させる「人への投資」に力を注ぎ、非正規雇用を含む約100万人を対象に能力開発や再就職を支援する。

飯田)人への投資に加えて、科学技術・イノベーション、スタートアップ(新興企業)、脱炭素・デジタル化という4本柱を立てて投資を重点化するということです。

日本企業が育成する多くの社員は「社内事情に異様に詳しい人」 〜いろいろな部署を勤務し

佐々木)悪い政策ではありませんが、「新しい資本主義」ではないですよね。もう少し違うものを考えていましたが、この程度のものかと思いました。

飯田)もう少し違うものを。

佐々木)人への投資ということで、DXなどIT系の人材をつくっていくことはいいのですが、現実はそれほど簡単ではないですよね。多くの日本企業は、メンバーシップ型とジョブ型があると、メンバーシップ型になります。大企業などは特にそうで、新卒を総合職で雇用し、いろいろな部署を回らせるのです。

いろいろな部署を経験しただけの人の転職は難しい

佐々木)メーカーであれば工場勤務もし、総務や管理部門、営業、経営企画もやるという形です。ある人材派遣会社の人と話したことがあるのですが、大企業のいろいろな部署での勤務経験がある人を、日本ではジェネラリスト型と呼ぶそうです。そのジェネラリストと言っている人と話をしてみると、その人は、特定の大企業のなかで「誰に話を通せば通りやすいか」という、「社内事情に異様に詳しい人」ができてしまうだけなのだと言っていました。それはジェネラリストではなく、その会社の専門家ですよね。そのような人の転職は難しいそうです。

大企業の中高年社員をDX人材にすることは困難

佐々木)いまならデザインや開発など、特定分野の専門職で一生懸命やってきた人の方が転職しやすい状況があるのだそうです。40〜50代のジェネラリストとしてやってきた会社の専門家的な人は、日本の大企業にはたくさんいます。この人たちをいまさら「DX人材」に変身させられるかというと、かなり難しいのではないかと思います。

飯田)そうですね。

佐々木)先日、ビジネス雑誌の取材を受けたので、「どのような人が読者として対象ですか?」と聞いたら、「今回はデジタルを使って仕事をうまくやろうという特集なので、デジタルが苦手な40〜50代が対象です」ということでした。でも、40代でデジタルが苦手な人はどれくらいいるのでしょうか。40代は1970年代生まれですよね。

飯田)そうです。私もまさに40歳です。

佐々木)「その世代の人たちは、若いころからパソコンやインターネットもあったではないですか」と聞いたら、「意外に40代でもExcelを使えない人がいるのですよ」と、そのビジネス誌の方はおっしゃっていて、そんなものなのかと驚きました。

飯田)40代で。

佐々木)かといって、Excelを使えればDX人材になれるかというと、そうではありません。IT化というのは、ペーパーレスを含めて、いままで電卓でやっていたところをExcelのマクロを使いましょう、というようなことです。

飯田)IT化は。

佐々木)DXはそうではなくて、ビジネスの構造を、いままでのような「ものをつくれば売れる」という大量生産モデルから、AIを使って「何が売れるかを最適化して計算し、それをもとに生産計画を立てる」という、AIやデータを中心にした産業構造に変えていくということがDXの本質なのです。これはなかなか難しい話です。

飯田)そうですね。

佐々木)いままでExcelのマクロの使い方もわかっていなかったような中高年社員が、いきなりDXの分野にいくのはかなり難しいです。

あいさつする中国の習近平国家副主席(当時、右)と、バイデン米副大統領(当時)=2011年8月19日、北京市内(共同) 写真提供:共同通信社

優秀なIT系人材が日本で育たない理由 〜米中との給料の違い

佐々木)大学院などでAIを研究してきたような新卒の優秀な若者などが、DX人材と言えるのです。

飯田)DX人材として。

佐々木)ところがもう1つ問題があって、このような人材が日本企業にたくさん入ってくればDX化されるだろうという期待はあるのですが、いまの日本企業は未だに初任給が一律20万円前後で、ほとんどの人の給料が同じです。

飯田)新卒でほぼ一律です。

佐々木)一方、大学院でAIを研究して専門性を磨いてきた25歳前後の若者がいたとしたら、そのような優秀な人材は、アメリカや中国のIT企業に行けば、初任給でも年収1000万円ぐらいになります。そのような人たちを日本企業に押し留めておくインセンティブは何なのかというと、現状ではあまりない。

飯田)難しいですね。

佐々木)そのためには、日本の企業体系を変えなければいけません。アメリカや中国の会社であれば、同じ会社のなかでも、IT系の開発を行える人材の方が専門性が高いので、給料は高いのです。

IT系人材の給料が安い日本 〜DXということで人材が必要でも経費を掛けられない日本企業の体質

佐々木)日本企業だと、IT系の人材の方が給料は安いのです。日本特有の情報システムのビジネス構造があって、どこかの大企業が社内システムをつくるときに、外部の会社に委託したとします。それをやるのがいわゆるシステムインテグレーター、略してエスアイヤー(SIer)なのですが、SIerは何をするのかというと、大量の安い人材を投入して人力でシステムを構築させるのです。これはよくブラック労働の典型と言われています。

飯田)ブラック労働の典型。

佐々木)それをやるためには安い給料でIT人材を雇うしかないので、「ITは給料が安い」というイメージが10〜20年くらいずっとあったのです。だからDXの概念が出てきて、急に「優秀な人材が必要だ」と言い出しても、いままで散々安い給料でIT人材を使い潰しておいて、「いまさら何を言っているのだ」という話にもなる。

飯田)社内も、いままでそこにお金を掛けてきていないのだから、いまさら掛けられないだろうとなってしまう。

佐々木)そうなのです。

終身雇用、年功序列の功罪

飯田)考えてみると、日本的な労働慣行のようなもので、若い人たちの働きに対して見合った給料を払わず、「我慢して働いて50〜60代になれば、いい給料がもらえるからな」というシステムでずっときてしまった。

佐々木)いわゆる終身雇用、年功序列というものですよね。「いまさらそのようなものなど通用しないだろう」と思っていると、そうでもない。いまは管理職の人も仕事が忙しくて、「非正規を増やした分、正社員の仕事がきつくなっている」とよく言うではないですか。

飯田)言いますね。

佐々木)だから遊んでいる人など誰もいないだろうと思いきや、この前ある企業のアンケート調査を見たら、「あなたの会社に働いていないおじさんやおばさんはいますか?」と言う身もふたもない質問があったのですが、何と半分くらいの人が「いる」と答えていたのです。働いていない人はまだいるものなのかと思いました。

「働かないおじさん」はいまも存在するのか

佐々木)かつてパソコンが日本企業に導入されて、まだ終身雇用が安定的だったころに、「ソリティア社員」という言葉がありました。会社に来てもすることがないから、50代くらいの中年社員が1日中、会社のパソコンでカードゲームのソリティアをやっている。そんな人を「ソリティア社員」と言っていましたが、そのような人はとっくに絶滅したかと思いきや、未だにいるようなのです。

飯田)自分は一生懸命頑張っているし、忙しいと思っているけれど、外から見ると「あいつはサボっているな」と思われる可能性もあるということですね。

佐々木)そのようなおじさんやおばさんも、子どもが学校に行っていて「働かないといけないのだけれども、収入は減っている」というような問題も起きています。社会的包摂の観点から見ると、そのような中高年社員も大事に扱って、きちんと給料を払わなければいけない。

飯田)そのような人でも。

佐々木)昭和の時代は遊んでいて能力が低い社員でも、「クレヨンしんちゃん」の野原ひろしや「サザエさん」のマスオさんのように、凡庸な人でも普通に家を建てて専業主婦の奥さんがいるような生活ができたわけです。

飯田)かつての時代は。

佐々木)いまのように「優秀でないと生きていけない」ということも、少し平等ではないなという気もします。そのような人はそのような人で、そこそこの生活ができ、優秀な人は優秀な人で大きく稼げるという両輪が併存できるのが、よりよい社会なのではないかと思います。

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