「キッシンジャーの魔法」は消えつつある

外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が6月3日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ダボス会議でのキッシンジャー元米国務長官の発言について解説した。

ノーベル平和賞受賞者のヘンリー・キッシンジャー氏(米元国務長官)が講演=2007年3月30日午前 東京都港区・ホテルオークラ 写真提供:産経新聞社

ダボス会議でキッシンジャー元米国務長官が演説

米国のキッシンジャー元国務長官は5月23日、ダボス会議にオンラインで出席し、「(2月24日の)ロシアの侵攻開始前の状況」を両国の国境とすることが望ましいと発言。ウクライナ側にクリミア半島や東部の親露派支配地域の奪還を事実上あきらめるよう提案した。

飯田)中国に対して西側からもいろいろな意見が出ているなかで、ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官について、産経新聞での連載コラム「宮家邦彦のWorld Watch」に宮家さんも書いています。

宮家)「キッシンジャーの魔法が消えつつある」という内容で書きました。彼はもう99歳です。長寿で頭脳明晰なのだけれども、彼はダボス会議の会合で、いまの米中関係について、「台湾の問題を米中間の交渉の対象にしてはいけない。アメリカは原則を変えるな、中国も忍耐を続けろ」と言ったのです。

飯田)アメリカは原則を変えるなと。

「米中共同宣言」を発表した50年前は弱かった中国

宮家)おっしゃる通りかも知れない。ただ、それは50年も前の話ですよ。当時のニクソン大統領と一緒にキッシンジャーさんが中国に行ったのは、1972年です。あのころは中国の力が弱かった。そのとき「米中共同宣言」を発表しましたが、台湾の問題は最後まで残ったわけです。それに対してアメリカは、台湾については曖昧戦略で、有事に何をするかは言わない、台湾の独立は支持しない。中国が台湾を国の一部だと言っても、アメリカはただ聞き置くだけで、承認はしない、ということで中国と握りました。

飯田)ただ聞いているだけ。

宮家)「ああ、そうなの」と。要するに完全には「受け入れない」ということです。中国は台湾問題を平和的に解決する、これで全体をパッケージにして、台湾問題は現状維持するということで米中は話をつけた、だから台湾問題はこれまで静かだったのです。ところが最近は中国の軍事力が強くなってきたら、そうはいかなくなるわけです。

台湾問題を安定させる新しいメカニズムを考えなければいけないのだけれど、まだできていない

宮家)キッシンジャーさんがおっしゃることはこれまでは正しいかも知れないけれど、もう50年前に「時代」を戻すことはできない。ある意味で50年前に彼は魔法をかけたのですよ。みんなその魔法にかかってしまって、台湾問題は現状が維持されていた。けれど、時間が経ち、「中国はもう強い、台湾は弱い」となってしまった今、「昔の話をしても仕方がないのではないか」というのが、今回私が書いた趣旨です。あのキッシンジャーのマジックはもう消えてしまっている。要するに「今は台湾問題を安定させる新しいメカニズムを考えなければいけないのだけれど、まだ米中はそれに合意できていない」ということです。

飯田)日米首脳会談のあと、記者団からの軍事的なオプション等について「アメリカは関与するか」という質問に、バイデン大統領は……。

宮家)「YES」と言ってしまった。でも、それを言うのはもう3回目ですから。「3度目の正直」ということもないでしょうが、アメリカは徐々に何かを変えようとしているのでしょう。それを中国もわかっているけれど、これからどうなるのでしょうか。

飯田)そうですね。

李克強首相の言動が注目される理由 〜習近平氏の3期目続投は既定路線だが

宮家)習近平さんの名前が最近、出なくなってしまって、李克強さんの名前が出てきたという報道があるではないですか。

飯田)特に経済面に関して。

宮家)私はあまのじゃくだから、そういう報道はあまり信じません。急に李克強さんの政治力が強くなるはずはありませんからね。確定ではありませんが、党大会で習近平さんの3期目続投はもう既定路線です。

飯田)3選は。

宮家)そういう方向で動いている。しかし、いま経済がこれだけおかしくなってしまうとね。

経済がうまく戻らなければ李首相は辞めなければならない可能性も 〜失敗したときの責任回避として

宮家)独裁国家のナンバー2というのは普通、経済を担当します。中東の大統領や王様の下の首相などはそうです。そういう国では経済がうまくいかないことが多いので、もしうまくいかなかったら首相の首が切られるわけです。つまりナンバー2とはトップの責任回避のための代用品なわけです。

飯田)責任回避のための。

宮家)今回も、「経済がロックダウンでおかしくなりました、どうしますか」となったら、「李克強さん、それはあなたの出番でしょう。あなたは経済の専門家でしょう?」となるのです。10月までに経済対策がうまくいけば、習近平さんはそれを自分の手柄にしますが、もしうまくいかなければ「お前が悪い」ということで、次の党大会で李克強はアウトになる。でも習近平さんは居残る……ということかも知れないのです。だから、彼の名前が出てきたくらいで、すわ政局などと考えてはいけません。水面下の争いはこれからも続くと思います。

飯田)秋までは。

宮家)きちんと3選が決まるまで、習近平さんは静かに眠れないでしょうね。

飯田)しかも毛沢東氏がやっていた、党主席のようなポジションを獲るのではないかとまで言われています。

宮家)党主席になれば、本当の独裁者になるのだけれども・・・。

飯田)終身制ですものね。

宮家)しかし、とても意気揚々とやれるような状況ではないと思います。今の習近平さんは相当、問題を抱えているような気がします。

関連記事(外部サイト)