外務省は大反対だった 「骨太の方針」への「台湾」という文言の盛り込み

ジャーナリストの須田慎一郎が6月13日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。岸田総理大臣がシンガポールで発表した「平和のための岸田ビジョン」について解説した。

2022年6月11日、シャングリラ・ダイアローグで基調講演を行う岸田総理〜出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202206/11singapore.html)

岸田総理大臣が「平和のための岸田ビジョン」を発表

岸田文雄総理大臣は6月10日夜、シンガポールで開催されたアジア安全保障会議(シャングリラ対話)で基調講演を行い、防衛力強化など5つの柱からなる「平和のための岸田ビジョン」を打ち出した。また「自由で開かれたインド太平洋」を実現するための新たな計画を2023年春までに示すとも表明した。

飯田)アジア、ヨーロッパ、アメリカ各地の防衛担当の閣僚らが、安全保障の課題を話し合うというアジア安全保障会議。今回は岸田総理大臣も参加しました。

「骨太の方針」に「台湾」という文言が入ったことで、日本の立ち位置が明確に

須田)先に閣議決定された「骨太の方針2022」は、政府内で大きな綱引きがあったのですが、結果的にあのなかに「台湾」という文言が盛り込まれました。実は、外務省は大反対だったのです。

飯田)外務省は。

須田)「島嶼」という言葉でお茶を濁そうとしたのですが、それではダメだということで、自民党内に議論を生み、「台湾」という文言が盛り込まれた。来年(2023年)の予算編成をしていくにあたり、この文言が盛り込まれたということは、大きなメッセージを出したことになるのではないでしょうか。それを受けてのシャングリラ対話ですので、日本の立ち位置が鮮明になったのではないかと思います。

インド太平洋諸国に海上輸送のインフラ支援を行う

飯田)この予算編成の指針でも、重要な政策について、「財政規律などを妨げるものではない」というような文言が入った。それに重ねて「台湾」というキーワードも入ってくるとなると、「どこに使うのか」ということがおぼろげながら見えてきますね。

須田)国内総生産(GDP)比2%の防衛予算もさることながら、その実現は5年以内という短いスパンでやっていく。加えて、海上インフラの整備ということで、巡視船を含む海上保安設備の供与を行うということです。沿岸警備隊(コーストガード)の分野について、日本は防衛予算に入っていませんが、海上警備というところで、「日本としては、やるべきことをこれからやっていきます」という姿勢を示したこともよかったのではないかと思います。

軍事的なことに加えて経済安全保障でも、「大きな役割を果たしていく」という方向性を示した日本

飯田)もともと海洋法の執行機関は、日本の場合は海上保安庁、アメリカの場合はコーストガードですが、アジア各国への支援は海上保安庁が行っています。

須田)ベトナムには大型巡視船の供与などを積極的に行ってきています。そのような支援を求めている国が多いのです。ニーズがあるのだから、しっかり応えていくこともアジアのリーダーを背負う日本の役割なのだと思います。

飯田)実は新行アナウンサーと取材に行ったこともあります。

新行市佳アナウンサー)オンライン研修のようなことをされていました。

飯田)コロナ禍で人が行くことができないので、オンラインで行うのですね。逮捕術などを教えていました。

新行)実際に現地にいる人にも体を動かしてもらって、「こうなのですよ」ということを伝えていらっしゃいました。

飯田)いろいろな組織や出自がありますが、軍出身の海上保安機関は武器を取り出すタイミングが早いそうです。とりあえず火器で抑え込めばいいだろうとなるのですが、そうすると「警察権の乱用」として、国際的には軋轢になってしまうのですよね。

須田)特に東南アジアエリアは無法地帯で、海賊的なグループが多いのです。武器の取り出しが遅いと、自らの命を失うことになるので、対応が早くなってくるのだろうと思います。今回は岸田総理の方向性として、経済安全保障、特にサプライチェーンの問題についても、「日本はリーダーとして積極的にやります」という方向性を示された。軍事的なことに加えて経済安全保障の分野でも、日本が大きな役割を果たしていこうという方向性を示したということです。これは「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の問題にもリンクしてくる話です。

2022年6月11日、日・シンガポール共同記者発表〜出典:首相官邸ホームページ(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202206/11singapore.html)

対中包囲網となるIPEF 〜入ることで旗幟鮮明に

飯田)インド太平洋経済枠組み。サプライチェーンの話をすると、中国から出ていくプラスワンという話になってきます。そうなると東南アジア諸国連合(ASEAN)各国が第1、第2候補に必ず上がってきますよね。

須田)サプライチェーンの再構築という点でも、安全性を確保してクリーンな商品をつくっていくためにも、「どちらの陣営につくのですか」ということです。あからさまには言わないとしても、東南アジア各国に対して、問いかけをすることになるのだと思います。

飯田)中国との間合いは各国によって違います。あからさまには言えないということは、その辺りの事情もありますか?

須田)しかし、経済安全保障の分野で言えば、近い将来、インド太平洋経済枠組み(IPEF)に入ること自体が旗幟鮮明にするという意味合いを持つので、明らかに対中包囲網以外の何者でもありません。「さあ、どちらの陣営に入るのか」ということは、遠からず決めなくてはならないことだと思います。

中国が軍事的に台湾を侵攻し始める新たな「レッドライン」の模索

飯田)他方、リアルな安全保障の問題に関しては、岸信夫防衛大臣も出席しましたし、国防大臣会合等々も行われています。リアルな部分はガチンコということになってきますか?

須田)ロシア軍と中国軍の爆撃機の共同飛行に日本がクレームをつけましたので、中国サイドはどのような反論をしてくるのかと思ったら、意外におとなしかったですね。

飯田)なるほど。魏鳳和(ぎ・ほうわ)国務委員兼国防大臣が来たということで、台湾について「一方的な現状変更はやめろ」と日本側は言い、中国側は「もし台湾に手を出してきたら」という話はいろいろしているようです。

須田)ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降、どのような状況になれば中国が軍事的に台湾を侵攻し始めるのかというレッドラインが、どう変化したのか。かつては「台湾が独立する動きを示した」というレッドラインが明らかになりましたが、どうもそこだけではなく、ハードルが下がっているのではないかという観測が出てきた。

飯田)そこからハードルが下がった。

須田)習近平国家主席が3期目を迎えるなかでの「遺産づくり」ということもあるかも知れない。新たなレッドラインの模索がこれから始まるのだろうと思います。

日米の台湾への動きに神経質になる中国

飯田)会議に先立って、米中の国防大臣会談もありました。そこで中国側が特に気にしていたのが、台湾に対する武器供与です。その後、さらなる武器供与が発表されました。アメリカとしてはウクライナを見ながら、「ここはやっておかなければならない」ということになりますか?

須田)武器供与すると同時に、台湾海峡有事に対して、米軍がどのような関与の仕方をしてくるのか、コミットメントをしてくるのかという点では、意図的なバイデン大統領の失言などもあり、かなり強い牽制を行いました。

飯田)そうですね。

須田)しかし、言わないことが現状のアメリカの基本方針だと言いつつ、きちんと明言し始めたのです。加えて、自衛隊の制服組の台湾派遣についても、中国サイドは強く反応しています。日米間で今後、どのような動きを示してくるのかというところで、中国サイドも神経質になっていると思います。

飯田)産経が報じています。派遣するのは防衛官僚の「背広組」のようです。

『政府が対台湾窓口機関の台北事務所に防衛省の「現役」職員を派遣する方針を固めたことが3日、分かった』

〜『産経新聞』2022年6月4日配信記事 より

飯田)「背広組」ということは、「半歩踏み出す」というようなこともあるかも知れませんが、メッセージとしては大きいですね。

須田)関係性の強化に対して、相当強い警戒感が出ているのだろうと思います。

米中間では制服組同士の軍トップのホットラインが存在するが、日中間にはない 〜棚上げになっているのはなぜか

飯田)特に安全保障だと、何かあったときには現役レベルで連携しないといけないところは多いですよね。

須田)実際に「こうなれば、こうなります」というシミュレーションのような動き、あるいは、そのような部分をきちんと構築しないといけません。いざ台湾有事になり、「何をどのようにやるのか」という話になっても意味がないですから。

飯田)いきなりそこで初対面の制服組同士が対応できるかというと、リレーションが取りづらいところでもありますね。

須田)念頭に入れておかなければならないことは、一方で米中は制服組の間に、軍トップのホットラインがあるということです。何か問題が起こったときに、すぐ連絡を取り合うことができる。不測の事態が起こらないような関係構築ができているなかでの緊張関係の序章といったところなので、ある種のセーフティネットがある。日本もそのような関係をつくっていく必要があるのではないかと思います。

飯田)ホットラインについては、これまでも日本側は求めていますが、棚上げになっています。

須田)なぜ棚上げになっているのか。「米中でやっているからいいのだ」というような日本軽視なのか、では、なぜ日本が軽視されなくてはいけないのかというところにも立ち返って考えてみるべきだと思います。

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