大きな「キープレイヤー」となりつつある「インドの存在」

神奈川大学法学部・法学研究科教授でアジアの国際政治専門の大庭三枝が6月23日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。オンラインで開催された新興5ヵ国(BRICS)首脳会議について解説した。

インド太平洋経済枠組み(IPEF)の発足会合で発言するインドのモディ首相=2022年5月23日午後4時53分、東京都港区 写真提供:産経新聞社

BRICS首脳会議が開幕

ブラジル、ロシア、中国、インド、南アフリカの新興5ヵ国(BRICS)首脳会議が6月23日、オンラインで開催された。中国の習近平国家主席は22日、BRICS関連フォーラムの開幕式でオンラインによる演説を行い、アメリカが中国やロシアなどに科している制裁について、「制裁はブーメランであり、諸刃の剣だ」と述べ、改めて反対の姿勢を示した。

飯田)BRICS首脳会議は、G7サミットが6月26日から行われるということで、それに先立っているのかなと思ってしまいますが、どうなのでしょうか?

大庭)そういう意味もあるのではないでしょうか。

インドと中国の関係が悪化したことにより、より進んだクアッドの枠組み

飯田)メンバーを見ると、ロシアや中国のようにアメリカと角を突き合わせる国もあれば、インドは「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」にも参加しています。「どうなんだ」とも思うのですが、各国で温度差はあるのですか?

大庭)あると思います。そもそも、インドと中国はこれまでも国境紛争を抱えていますし、2020年に死者が出るような大きな武力衝突もありました。インドと中国の関係はよくない状況にあると思います。クアッドについても、ここ2年くらいでかなり進展しました。特にバイデン政権になってから進みましたけれども、その一因にはインドが中国との関係を悪化させたということもあったと思います。

飯田)クアッドが進んだのも。

大庭)クアッドが対中牽制(けんせい)を狙っているという色彩がある以上、どこまでコミットするかについては、インドが最も慎重だと言われていました。それでもここ1〜2年でクアッドが前に進んだのは、インドと中国の関係悪化による要因が大きかったと思います。

飯田)クアッドという枠組みは、日本とアメリカとオーストラリアとインドなので、インド以外の3ヵ国は「中国に対峙していく国々」という印象ですけれど。

大庭)その一方で、米印や日印などの安全保障上の協力も、この10年くらいで進みました。インドがそういうことと関わりがないわけではないのですが、インドは中道を維持したいという意志が強い国です。

飯田)中道でいたい。

大庭)ブルームバーグの報道で、インドに関する記事が出ておりました。

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『インドは、中国とロシアが新興5カ国(BRICS)首脳会議を米国とその同盟国に対するプロパガンダ勝利の機会に利用するのを阻止するため、共同声明を中立的なものにとどめることを交渉で目指している。事情に詳しい複数のインド当局者が明らかにした。インド政府はさらに、新たな加盟基準を決めるよう促すことで同グループの拡大を図ろうとしている中国の取り組みを遅らせることも目指しているという』

〜『Bloomberg』2022年6月22日配信記事 より

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大庭)中国やロシアの意図として、BRICSをどう利用するかという考えはあると思うけれども、そのままストレートに行くかどうかは、わからないところがあります。

クアッドが極端に対中牽制にいかないよう、またBRICSでも対米牽制にならないように重石となるインドの存在

飯田)日本は独特な立ち位置のインドと、独特なつながりを持っています。この関係をうまく維持することも大事ですか?

大庭)インドは国内においても、いろいろな問題を抱えている国ですし、外交的にも付き合いづらい国ではあります。しかし、いまとなっては、インドとどのように友好的かつ緊密な関係を築いていけるかというのも、日本外交の大きなテーマの1つだと思います。

飯田)インドと緊密な関係を築けるか。

大庭)インド自体がさまざまなところで重石になっているというのが、外交を見ている私としては面白い現象だなと思うのです。クアッドのなかでは、あまりにも対中牽制にいきすぎないための重石になっている。かつBRICSにおいて、もしインドが対米牽制にならないように重石になっているのだとすると、インドは1つの大きなキープレイヤーだと言わざるを得ません。インドとともに何かを行うことが、日本にとって、以前にも増して重要になってくるのではないかと思います。

2022年4月27日、議会関係者との会合で演説するプーチン大統領=ロシア・サンクトペテルブルク(タス=共同) 写真提供:共同通信社

ロシアのウクライナへの侵攻に対して、インドや中国も賛同しているわけではない

飯田)いまの外交上のポイントとして、ウクライナ情勢は避けて通れないと思うのですが、インドの姿勢はどうなのでしょうか? 旧ソ連時代からロシアと付き合いがあることも考えると、日本側から見て「煮え切らない」という姿勢にも見えますけれども。

大庭)これは中国も同じだと思うのですが、対ロシア外交とともに、対米外交のなかでの自分の立ち位置について、おそらくインドも中国もいろいろと考えているでしょう。しかし、ロシアがウクライナへ侵攻したことに対して、賛同しているわけではないと思います。

飯田)インドも中国も。

大庭)1つは、3月2日に行われた国連総会の緊急特別会合におけるロシア非難決議において、中国とインドが棄権したことが大きく報じられました。

植民地化されたなかから自立を勝ち取った新興国や途上国の方が、国家主権の尊重や領土の一体性の維持に敏感

大庭)それがロシア寄りだと言う人たちがいたのですが、私からすると、「棄権で済んだ」という感じがあります。当然だとは思いますが、1度、帝国主義列強に侵略された国があります。中国は完全な植民地化はされませんでしたけれども、勢力圏をイギリスやフランスによって国内に蔓延らせる結果になりましたし、インドは植民地化されたわけです。そこから自立を勝ち取った新興国や途上国の方が、国家主権の尊重や領土の一体性の維持に敏感だと思います。

飯田)自立を勝ち取った新興国や途上国の方が。

大庭)その辺りのことは、国連総会とは別の機会で、インドや中国からそれが重要だという言及があるわけです。そう考えると、必ずしもロシアの行動に賛同しているわけではないと思います。

飯田)賛同しているわけではない。

大庭)ただし、だからと言って完全にロシアに対して批判的になれるかと言うと、インドはロシアと深い関係があり、また武器の調達先としてロシアが大事だということもあります。それにインドからすると、アメリカだけには寄りたくないので、ロシアとの関係も維持したい。

飯田)インドとしては。

大庭)しかし、ロシアとの関係を切ったり、完全に対立することは無理だけれども、ロシアによるウクライナ侵攻に対しては、インドも中国も賛同しているとは思えません。

飯田)ASEAN各国にも、植民地にされたことを言及する首脳はたくさんいます。

大庭)それがあるからこそ、国家主権の尊重や領土の一体性の維持は、彼らにとって大事なことなのです。関心を抱かないということはないし、ロシアの行動に賛同するのは特殊な国だと思います。

「自由で開かれたインド太平洋」という理念

飯田)その流れのなかで、「自由で開かれたインド太平洋」という考え方が出てくると、その理念は刺さるわけですね。

大庭)理念自体は刺さると思います。中国に対して強く牽制していくことについては、ASEAN諸国を始めとして、かなり警戒感があります。それは一方に寄ることでもあるし、中国との関係も重要なので難しい。しかし、「自由で開かれたインド太平洋」やクアッドもそうですが、いろいろな形の協力枠組みやプロジェクトが出ています。

飯田)中国に対する牽制について。

大庭)IPEFもそうですし、先日、クアッドでは「海洋モニタリングのシステムをつくる」という話も出ました。実際にインド洋や太平洋などの海洋領域で、海賊行為や違法操業、違法な武器や人の取引などが行われているのです。それを取り締まらなければいけないという思いは、アジア諸国も持っているわけです。そういう意味では、彼らの利益になる。そして彼らの関心に沿うような形のプロジェクトには乗るのだと思います。

飯田)自分たちの利益になるようなものには。

大庭)IPEFにしても、デジタルや環境問題に関係するような話題は、彼らにとっても関心のあることです。彼らが関心のあることに乗るような、そういったプラットフォームにはなっていると思います。全体としてのメッセージも、対中牽制という色彩以外のところは、乗れる要素がたくさんあるのではないでしょうか。

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