ロシアに「爆撃目標から市民を外す」という発想はない

防衛研究所・防衛政策研究室長の高橋杉雄が6月28日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。オンラインでG7サミットに参加したゼレンスキー大統領の発言について解説した。

【ウクライナ侵攻】イルピンの墓地に並ぶ戦争犠牲者らの墓=2022年4月28日、ウクライナ・イルピン 写真提供:産経新聞社

ウクライナのゼレンスキー大統領がG7にオンラインで出席

ドイツで開かれている先進7ヵ国首脳会議(G7サミット)は6月27日、2日目討議が行われ、ウクライナのゼレンスキー大統領がオンラインで参加した。ゼレンスキー大統領は、ロシアの侵攻を冬が始まる前の年内に終結させたいと述べた。先週末、ウクライナ東部セベロドネツクがロシアによって制圧された。また27日、ウクライナ東部ルハンシク州のガイダイ知事は、ロシア軍の激しい攻撃を受けているリシチャンスクの住民に即時避難を呼びかけている。

飯田)「冬の前に」とゼレンスキー氏が言っていますが、これにはどんな意図がありますか?

高橋)希望だと思いますが、現状では難しいと思います。5月の初めにウクライナがハルキウ周辺での反攻に成功したとき、そこでウクライナが勝ち切ることができれば、ウクライナが望む形での年内終結もあり得たと思います。しかし、ロシア側もうまく対応してウクライナの反攻を食い止めたので、現状では、冬が始まる前にある程度の決着がつくというのは考えにくいと思います。

ハルキウ周辺から引き揚げ、その兵力をセベロドネツクなどの交戦に転用したロシア

飯田)当時、ハルキウ……ウクライナ北東部の大きな都市ですが、ここから国境線の辺りまで押し戻し、国境線を一部では越えたという話もありました。しかし、ここにきてロシアが逆に攻勢を強めているようにも見えるのですが、実際には綱引きが続いているという感じですか?

高橋)ロシア側の対応も的確で、ハルキウ南部のイジウムに展開していたロシア軍の補給線が脅かされたのですが、その補給線を守ることにまず成功しました。次にハルキウ周辺から思い切って引き揚げてしまい、その兵力をルハンシク州セベロドネツクなどの交戦に転用しました。

飯田)なるほど。ウクライナが押し返したように見えたのですが、実際にはロシアが退いたという部分もあったと。

高橋)そうですね。勝てないから退いたというところではあると思いますが。

飯田)そこで粘って損失を出すよりも、他へ回した。そしていま回したところが功を奏している。だから膠着しているということですか?

高橋)結局、戦争というのは相手がいるので、ロシアが有利になれば、ウクライナが対策を打つ。ウクライナが有利になれば、ロシアが対策を打つ。お互いが勝ち切らない状態が続いていて、そのなかで消耗し続けている形になっていますね。

セベロドネツクからのウクライナ軍の撤退 〜手遅れにならないギリギリでのタイミング

飯田)セベロドネツクでも、1ヵ月あまりにわたってウクライナが粘り続けていましたが、最後は撤退する形になりました。この判断はいかがですか?

高橋)セベロドネツク自体はウクライナから見て、守りにくい場所にあります。ドンバス地方でウクライナが維持している場所は三角形を横倒しにしたような形なのですが、セベロドネツクは三角形の頂点にあって、2辺がロシアに支配されているような状態です。南北両方から簡単に挟み撃ちにされるような場所にあります。

飯田)挟み撃ちにされる。

高橋)守りにくい場所にあったことは間違いありません。あまりセベロドネツクの維持にこだわりすぎると戦力を消耗してしまうので、本来であればもっと早くに撤退すべきだったと私は思いますが、手遅れにならないギリギリのタイミングで決めることができたのではないでしょうか。

防衛線を整理する必要があるウクライナ

飯田)今後、セベロドネツクを手放したウクライナは、どういう手を打ってくると考えられますか?

高橋)最も東にルハンシク州があり、その隣にドネツク州があるのですが、ドネツク州の中南部にあるバフムトという拠点の辺りまで、どこかのタイミングで防衛線を下げる必要があると思います。

飯田)一旦下げる。

高橋)そうしないと兵力の維持が難しいですし、ルハンシク州はロシアに近く、ロシア側にとって補給が維持しやすい場所なので、どこかの段階で防衛線を整理する決断が必要になってくると思います。

2022年5月25日、モスクワで開かれた会議で発言するロシアのプーチン大統領(ロシア・モスクワ) AFP=時事 写真提供:時事通信

豊富な火力で着実に前進しているロシア軍

飯田)ドネツクやルハンシク、セベロドネツクの戦いに関する報道で、火力の数が10対1で圧倒的にロシアに劣っているという話がありました。だからこそ西側に武器を求めたということですが、どこまで補充されていますか?

高橋)補充されている部分はあると思うのですが、ロシアが多数の物量を投入しているのと、その物量をうまく生かす戦い方をしています。

飯田)ロシア側が。

高橋)ウクライナ国防省が公表している戦況の情報を見ると、ある正面で24時間以上、砲撃しか受けていない地域があり、それが1〜2日続いたあとでロシア軍が前進してくる。その前進をウクライナ軍が食い止めると、そこでロシア軍がまた止まり、24〜48時間の砲撃が始まる。ある意味、火力を重視した慎重な戦い方をしているようで、着実に前進してきているということです。

飯田)それだけ大砲を放っていると、完全に焦土になってから歩兵が出てくるというイメージですか?

高橋)焦土というか、ウクライナ軍が打撃を受けて混乱している間に前進する。立て直して反撃してきたら、ロシア軍の歩兵部隊は一旦止まって、また砲兵で支援するという形です。

「市民生活そのものを破壊する」という意図を持って空爆するロシア

飯田)精密に砲撃してくるというよりは、手当たり次第に攻撃するのですか?

高橋)そうですね。面全体を潰していく形だと思います。実際にドローンの映像などを見ると、穴が無数に開いていますから、文字通り、面を潰すような撃ち方をしていると思います。

飯田)それほど最前線であれば、非戦闘員は避難していると思いますが、一方できょう(6月28日)の報道では、1000人以上の方が買い物をしているショッピングモールが大炎上している映像が出ていました。これには、どのような意図がありますか?

高橋)ロシアとしては、「市民生活そのものを破壊したい」という意図を持って空爆しているのだと思います。数日前のキーウへの攻撃もマンションを狙っていますから、市民の生活を破壊することで戦意を喪失させるような戦い方をしていると感じます。

歴史的にも市民への爆撃で戦意を喪失させることはできない 〜「軍事目的を破壊する方が有効」というのがアメリカを中心とする西側の考え方

飯田)その行為は、国際法上は違反ですよね?

高橋)あまり守られていない国際法ですが、違反ではあると思います。ただ、歴史的に見ても、市民への爆撃で戦意を破壊することはできないのです。ナチスドイツがロンドンを爆撃したときも、それで戦争を諦めることにはならなかった。東京大空襲のときも、それで戦争を諦めることにはならなかったのです。「軍事目的を破壊する方が有効」というのが、アメリカを中心とする西側の考え方です。ロシアはそれとは違う考え方をしているということが、今回の戦い方ではっきり言えると思います。

飯田)ベースとなる考え方によって、つくられる兵器も違ってくる。軍事施設をピンポイントで破壊する目的があるから、ハイマースのようなものが精密に誘導されるということなのですね。

「爆撃目標から市民を外す」という発想はないロシア

飯田)考え方の違いも含め、相手をどう止めるかというのは、よくよく考えなければならない。

高橋)特に不思議なのは、精密誘導兵器で市民を狙うという、これまでアメリカを中心とする西側の戦争ではなかった現象が見られています。間違いなく違う軍事思想に基づいているのだと思います。

飯田)市民が殺されてもまったく動じないし、何も考えない。その意思決定をどう削いでいくかというのは、最高指導者しか止められないということになりますか?

高橋)彼らの考え方として、市民は狙うべきターゲットであり、爆撃目標から外すという発想はないのだと思います。

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