日韓豪NZがパートナー国としてNATOに招かれた理由 米中対立時代を見据えた新たな「戦略概念」

東京外国語大学教授で国際政治学者の篠田英朗が6月30日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。12年ぶりに改定されたNATOの戦略概念について解説した。

2022年6月29日、マドリードで開催されたNATO首脳会議に参加した日・韓・豪・ニュージーランドの首脳と、ストルテンベルグNATO事務総長(中央)

NATO、ロシア・中国を念頭に12年ぶり「戦略概念」を改定

ヨーロッパの軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)は6月29日、スペインのマドリードで開かれた首脳会議で、今後およそ10年間の指針となる新たな「戦略概念」を採択した。戦略概念の改定は2010年11月以来、約12年ぶり。ウクライナに侵攻したロシアへの姿勢について、現行の「戦略的パートナー」から「最大かつ直接の脅威」に大きく変更。また、中国についても「体制上の挑戦」を突きつけているとし、中国への懸念に初めて言及した。

飯田)また、「インド太平洋地域はNATOにとって重要だ」と明記されたということです。ロシアについて、30日の読売新聞の1面でも書かれています。

『NATOがロシアを敵国認定、中国の「組織的な挑戦」初明記…首脳会議で新たな「戦略概念」採択』

〜『読売新聞オンライン』2022年6月30日配信記事 より

飯田)敵国認定というのは刺激的な言葉だと思いますが、全体をご覧になっていかがでしょうか?

篠田)私もその記事を読みましたが、敵国という言葉は現地では使われていませんでした。ただ、脅威として認識している。その脅威に対抗してNATO構成諸国を防衛するので、要するに敵国ではないかと言われれば、そうなのだと思います。

飯田)敵国という言葉は使っていなくても。

篠田)他方、この敵国という言葉は、日本人は国連憲章という条約に入っていて、国連のなかに敵国という概念があることはよく知られていることだと思います。第二次世界大戦のときの枢軸国のことを敵国と呼んでいて、それが歴史的文書として残ってしまっており、いまは死文化しています。そのようなことを読売新聞は意識しているのだと思います。

NATOは「価値の共同体」としての性格を強めている

篠田)逆に言うと、NATOは軍事同盟だと言われますが、国連と同じように価値の共同体です。文章をきちんと読んでみると、「デモクラシー」、「ヒューマンライツ」、「ヒューマンセキュリティ」など、「人間の安全保障」、「人権」、「民主主義」、「自由」というような言葉が散りばめられています。価値で結びつく同盟関係であり、新しいやり方です。国連も以前はそうだったのかも知れませんが、いまは違う組織と化しています。NATOは軍事同盟の意識は強いのですが、「価値の共同体」としての性格を強めているというところにも、我々は着目していいのではないでしょうか。

人権、民主主義を信じない、相反する価値を持つ脅威 〜アジア太平洋でも同じ価値を持つ国はパートナーである

飯田)価値を同じくする国々であれば、基本的にウェルカムだということでしょうか?

篠田)そうですね。敵国というときに、国連からすると「自分たちの価値規範に反した国だ」という印象があり、かなり強い表現を国連憲章のなかでも取っています。しかし、日本やドイツはもうそのような国ではなくなったということで、死文化しているのです。

飯田)死文化している。

篠田)現在、読売新聞がそのような言い方をしたくなるようなトーンをNATOが採用しているのは、単純に軍事的な脅威だということだけではなく、価値規範の面で相反するものを持っている脅威だということです。「人権、民主主義のようなものを我々は信じているのに、あの脅威はそれを信じていない」というニュアンスが色濃く出ています。ここは日本人としても着目しておくべきところです。

飯田)相反する価値を持つ脅威。

篠田)いろいろなことを軍事的に計算して、取っ替え引っ替えやっているような19世紀辺りの軍事同盟ではなく、信じているものがあるから我々は同盟を組んでいる。そして、アジア太平洋は北大西洋ではありませんが、同じような価値観を持っている国があるとすれば、「それは疑いもなくパートナーである」と認定してくれているのです。我々はそれを重要なものとして受け止めるべきだと思います。

バイデン次期米大統領(ゲッティ=共同)、中国の習近平国家主席 写真提供:共同通信社

中国への「体制上の挑戦」という表現 〜信じているものが違う国とは友達になれない

飯田)中国に対しても「体制上の挑戦」という言葉を使っているところは、「価値観が果たして同じか?」という疑問から来ているのでしょうか?

篠田)「民主主義国」対「権威主義国」の対立という世界観を、アメリカのバイデン大統領は出しています。それに沿って、軍事同盟の同盟機構のネットワークも広がっています。戦略概念の文書を読むと、「突き詰めて感じると」というところが色濃く出ていて、「結局はあの人たちとは仲よくなれない」というニュアンスです。

飯田)権威主義国の人とは。

篠田)信じているものが違うような気がすると。これが「体制上の挑戦」と表現されているものです。信じているものが同じパートナーなら友達ですが、どれだけ仲よくしようとしても、「根本的に信じているものが違うのならば、そこまで友達になれないのではないか」という、かなり率直な表現が使われています。我々としては、せっかくパートナー認定してもらっているので、そこは大切にしていかなければならない重要なところだと思います。

飯田)それを考えると、ロシア・ウクライナ戦争の捉え方も、「価値観を踏み躙る行為をどちらがしたのだ?」という根本を、まずは捉えておかなければならないということですね?

篠田)ロシアが侵略国だからということで、まったくその通りなのですが、戦略概念という文書にも、「国際規範を中心にした秩序」という言い方が繰り返し出てきます。わかりやすいところでは、軍事力を使って他国の領土を変えてしまうことは絶対に許さないと。その認識から突き詰めて考えると、「人権の問題や民主主義に対する考え方も、どうもその脅威となっている国々は違うらしい」ということを、はっきりと言わざるを得ないのではないかという認識があるのです。

BRUSSELS, BELGIUM – FEBRUARY 11: Flags of members of North Atlantic Treaty Organization (NATO) wave outside of the NATO Headquarters in Brussels, Belgium on February 11, 2020 ahead of NATO Defence Ministers’ Meeting to be held tomorrow. Dursun Aydemir / Anadolu Agency AA/時事通信フォト 写真提供:時事通信

「自由で開かれたインド太平洋」と重なるNATOの概念

飯田)今回、アジアからは日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの4ヵ国が「アジア太平洋パートナー国」として招かれています。「同じ価値観を持った国々である」と言われているのですが、「自由で開かれたインド太平洋」の概念などとも重なってくるのでしょうか?

篠田)そういうことだと思います。自由で開かれたインド太平洋の「自由で開かれた」という部分は、まさに国際規範を守っていく、そして「自由で」というニュアンスでは、民主主義や人権を守っていくという秩序のある空間として、インド太平洋を位置付けていきたいという決意表明のようなものです。その推進役として、クアッドの国々が自分たちで努力していきたいという位置付けになっているので、大きく重なってくるところかと思います。

「自由で開かれたインド太平洋」を一時「平和で繁栄した〜」に変更しようとしたバイデン政権

飯田)一時期「平和で繁栄した」という言葉に変えられそうになったことがありましたが、「平和」という言葉と「自由で開かれた」という言葉では、少しニュアンスが違ったのですよね?

篠田)トランプ政権からバイデン政権に変わった際、トランプ政権がつくり上げたものをもう1度バイデン政権のスタッフが精査したときに、同じ政策をするにしても言葉遣いまで同じにするのかどうかということで、少し差をつけるために、クアッドなどのパートナーシップを違う呼び方にしてもいいのではないか、という動きが多少見られました。

飯田)違う呼び方に。

篠田)ただ、「政策で一貫性があった方がいいだろう」というのが日本などの考え方だったので、バイデン政権側も納得しました。価値観を内包している部分があったので、仮に同じようなことを言っているとしても、価値観の部分がコロコロと変わってしまうとみんな戸惑ってしまいます。そのために一貫性があった方がいいだろうということで、「なるほどその通りだ」となった経緯があったのです。

飯田)「平和で繁栄した」という部分で、平和ということは戦争がないという状態であり、圧政のなかで戦争がない状態でも成立してしまうではないかと。そうではなく、「自由で開かれた」という価値観こそが大事なのだということです。言葉遣いに関して、緊張状態にあるときはセンシティブになってきますよね。

篠田)それは外交や政治の分野だけでなく、ビジネス業界においても、緊張関係になればなるほど、「いまの言葉遣いはどのような意味だったのだろう?」と感じるところはあると思います。そして、同じようなことを言っているような場面にもかかわらず、多少言い方を変えたときに、「なぜ変えたのだろうか?」というような印象を与えることがあるとすると、政治の場合にも当てはまります。

飯田)なぜ変えたのかと。

篠田)国際政治のように1つの組織ではなく、いろいろな組織が調整しながら動いているところでは、言葉というのは人間と人間、組織と組織を結びつけて信頼感を培っていく重要なツールなので、簡単に変えられると困るのです。「いままで我々は信頼し合っていたと思っていたのに、どうして変えたのだ」ということになり、「気にしないでくれ」と言っても気にしてしまいますよね。

飯田)そうですね。

篠田)平和がいけないという問題ではないものの、変更してしまうと、「どうして変更してしまったのだろう」という気持ちになります。「自由で開かれた」という言葉のなかに当然、平和や繁栄しているというニュアンスが含まれているという方針でやってきたので、これからもそれでいこうということであれば、「わかりました」ということになったのだと思います。

飯田)変更せずに。

篠田)バイデン政権もトランプ政権が決めた言葉なので、本当は変えたかったのだと思いますが、そこはパートナーを尊重するということになりました。NATOの文章も一貫して使っている部分や、新しく導入した部分、同じ国についても少し言い方を変えている部分があります。そこは注意を払うので、1つひとつ、しっかりと説明ができる理論家が揃っているということも事実だと思います。

今後のNATOとアジアの関わり方

飯田)今回は東アジアについての言及もかなりありましたが、今後、NATOはアジアとはどのような関わり方をするのでしょうか?

篠田)ロシアが直接の脅威であるということは、ロシア・ウクライナ戦争をしている最中なので、誰が見てもそうだろうという話です。しかし、アメリカのバイデン政権は民主主義対権威主義の対立において、米中対立がそのなかにあるという世界観の認識もはっきり表明しています。

飯田)米中対立が。

篠田)「NATOはロシアに専心して中国のことを忘れたのか?」という懸念が当然出てきます。従って、この戦略概念のなかでも、直接のナンバーワンの脅威はロシアであるものの、構造的な対抗勢力、「体制上の挑戦」という言い方をすると、もっと巨大な存在としての超大国である中国があり、それはNATOとしても忘れてはいないということです。

飯田)NATOとしても。

篠田)「インド太平洋地域にあるパートナーの存在が軍事上も、そして価値規範もより一層、重要になってくるということでよろしいですね?」という記者会見があれば、「もちろん、その通りです」と答えざるを得ない。「そのためにインド太平洋地域のパートナーにもわざわざお越しいただいております」というつながったストーリーになっているのです。そこが文書上でも、記者会見の写真においてもはっきりと表明されています。「米中対立の時代もNATOはそのなかで生き抜いていく」という決意表明なのだと思います。

関連記事(外部サイト)