違法議論を回避した“コロナ時短訴訟” 東京都の「時短命令は違法」と認定も「規定自体は合法」

ジャーナリストの佐々木俊尚が8月17日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。営業時間短縮命令を受けた「グローバルダイニング」が東京都に損害賠償を求めたコロナ時短訴訟について解説した。

都の飲食店時短命令めぐる訴訟 東京地裁、違法と認定 グローバルダイニング・長谷川耕造社長=2022年8月16日午後、東京・霞が関 写真提供:産経新聞社

飲食店側が控訴取り下げ、違法判決が確定

新型コロナウイルス対応の特別措置法に基づき、営業時間短縮命令を受けた飲食チェーン「グローバルダイニング」が「命令は憲法違反である」などとして、東京都に損害賠償を求めた訴訟の控訴審第1回口頭弁論が8月16日に東京高裁であり、閉廷後にグローバル社側が控訴を取り下げた。これにより時短命令の違法性を認めた上で、同社の請求を棄却した1審の東京地裁判決が確定した。

飯田)2021年3月の緊急事態宣言が終わるころに出された時短命令でした。

東京都の時短命令は違法と認定 〜時短命令の規定自体は合法と判断

佐々木)少しわかりにくいのですが、これはグローバルダイニング側が負けたという話ではなく、東京都の命令がよくなかった、違法だったことを認定した判決でした。グローバルダイニング側の判断は「これ以上裁判をしても進展がなさそうなので、これで終わりにします」ということでしょう。お金目的ではなく、「東京都の違法性を認めて欲しかった」という裁判であり、それが認められて確定したということです。

飯田)8月16日の口頭弁論のなかで、「小池都知事には証人として出てもらって、話をして欲しい」と実施を求める上申書を提出していましたが、その必要はないとして都は拒否したとのことです。

「要請ならば、従わない権利もある」飲食店側 〜「要請だが従ってもらわなければ困る」東京都

佐々木)証人尋問が採用される可能性が低いというのが、取り下げ理由の1つになっています。グローバルダイニングは「感染対策をしていれば、営業を続けてもいいではないか」と言っていたのですが、東京都は「それではいけない」と言ったわけです。緊急事態宣言が終わる直前になって営業時間短縮命令を出したのですが、その多くがグローバルダイニングのお店でした。東京都も一罰百戒を狙って、狙い撃ちしたのだと思います。

飯田)グローバルダイニングを。

佐々木)海外ではロックダウン・都市封鎖という強制的な命令を出して、「外出をするな、店の営業はやめろ」ということを行ったわけです。しかし、日本はあくまで時短要請、自粛要請です。「要請なら従わない権利もあるだろう」と飲食店が言うのに対し、「要請だが従ってもらわなければ困る」というのが東京都の立場だったのです。

法的根拠も曖昧、空気の圧力での時短要請

佐々木)「要請だったら強制力はないはずでは」というのがグローバルダイニングの考え方でした。根幹を言えば、我々は一体、何を根拠に感染抑止をしていたのかということです。法的根拠もあまりなく、気が付いたら空気の圧力で、何となく「自粛しなければ」というところに追い込まれた。飲食店側から見れば、空気の圧力だけで営業停止にされるのはたまらないですよね。

飯田)店を潰すわけにはいかないと。

佐々木)根拠がよくわからないまま、ここまできてしまいました。それでよかったのかどうかは難しいところです。

憲法議論を回避し、今回も曖昧に済ませてしまう 〜次に別の病気でパンデミックが起きたときにどう対応するのか

飯田)原告のグローバルダイニング側は憲法違反の部分を争点にしていました。営業の自由が憲法解釈上はあるだろうということです。判決文を見ると、憲法判断までは踏み込みませんでしたね。

佐々木)踏み込みませんでした。本当はそこまで踏み込んで、「次に別の病気でパンデミックが起きたときに、日本はどうやって対応するのか」を議論しなければいけなかったと思います。憲法論議をしないでやり過ごすことはできないのだけれど、国をあげてそこを回避しているような気がします。政府や東京都だけでなく、国民側も含めてです。「なあなあ」で済ませてしまうのが日本的ですね。

「感染予防か経済を動かすのか」そのバランスをどう取るのか 〜それを決めて実行するのが政治

飯田)生存権も、憲法上で認められている基本的人権の部分です。結局、憲法上の権利と憲法上の権利がぶつかるときには、それをどう調整するかですよね。

佐々木)まさに政治だと思います。感染防止か、経済を動かすのかというのは二者択一ではありません。どちらもやらなければならない。そのバランスをどのくらいのところで取るのかどうかです。「0か100か」ではないわけです。バランスをどう取るかの議論をし、政治的な実行力で「この辺りのバランスにしよう」ということを信頼された政治家が決めるのが、理想的な政治だと思います。

その都度、状況が変化してきた経緯のある新型コロナウイルス感染症

佐々木)「0か100か」と答えがはっきりしているものを決めるのであれば、政治家はいりません。AIか何かにやらせればいいのです。でも答えがない、0か100かの間で、感染と経済の間でどのような割合にするのかを決めるというのは、きちんと議論しなければいけないし、判断する能力が社会に求められていると思います。しかし、日本はゼロリスク的なものを選びたがるところがあり、どちらかに極端に振れようとするので、議論になりにくいですね。

飯田)しかもそれが局面によっても変化します。まだウイルスについてまったくわからない初期の状況であれば、安全を重視しなければいけません。しかしウイルスのことがわかってきて、ワクチン・特効薬が出たという状況にもなり、そこへまた変異したウイルスが出てきた。状況によって物差しの右左が動いていきますね。

佐々木)新型コロナワクチンがなかったころは、感染抑止に振り切るしかありませんでした。放っておけば人が死んでしまうわけですから。

飯田)海外ではロックダウンまでいきました。

佐々木)いまはワクチンの有効性が明らかになり、オミクロン株「BA.5」についても、オミクロン株に対応したワクチンが出てきています。ワクチンを打っていれば経済を動かせるようになってきているので、その都度、状況は細かく動くわけです。ところが、それをわかっていない人は「前と話が違う」と怒るのです。「状況が変わっているので、前と言っていることが違うのは当然だ」とお医者さんは説明するのですが、なかなかわかってもらえないですね。

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