米中通商協議 中国はいかに戦わずして勝つかを考えている

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(4月5日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。トランプ大統領が通商交渉のために訪米していた中国の劉鶴副首相とホワイトハウスで対談したニュースについて解説した。

米中、貿易協議を再開 ライトハイザー米通商代表、ムニューシン米財務長官(ロイター=共同)、中国の劉鶴副首相=2019年3月28日 写真提供:共同通信社

トランプ大統領、中国の劉鶴副首相と会談

トランプ大統領は通商協議のために訪米している中国の劉鶴副首相と、日本時間で4月5日午前5時半からホワイトハウスで会談した。このなかでトランプ大統領は中国との通商合意がかなり近づいており、4週間以内に合意に達する可能性があると述べている。

飯田)4週間以内に合意に達する可能性があると述べた、という部分はどう見たらいいのでしょうか?

宮家)去年(2018年)からずっとやっている話です。去年も年内にと言っていたのが2月にずれ込み、2月が3月になって、いまは4月。それがあと4週間と言っているわけだから、もう5月にずれ込むのだということです。すなわち6月になってもおかしくないということ。時期について、いちいち真に受けていてはいけません。

米中閣僚級貿易協議を前に撮影に応じるライトハイザー米通商代表部(USTR)代表(左)、中国の劉鶴副首相(中央)、ムニューシン米財務長官(右)(中国・北京)=2019年2月14日 写真提供:時事通信

中国は完全合意が見通せなければ簡単には応じない

宮家)ただ、状況としては何らかの合意をしなければいけないときに来ている。マーケットに対して、中国経済に対して、そしてアメリカ経済全部を考えても、何らかの妥協をしなければならない。しかし中国はモノは買っても、アメリカが狙う本丸の規制、補助金、システム、そういったことは絶対に変えないと思います。そうなると本丸ではない部分、すなわちモノを買うことになるわけです。
そうすると問題が2つあります。1つはニューヨーク・タイムズを読んでいると、1兆2千億ドル分を中国が買うなんてことを、米側関係者が言っているわけです。だけど去年、中国がアメリカから買った額が1,200億ドルです、その10倍も買えるわけがない。一体何を買うというのか。下手に半導体などを買うようになったら、技術も盗まれてしまうかもしれない。
もう1つの問題は、中国が政府で買うと決めたということは、買わないことも決められるということです。これはアメリカ経済が中国の政府の意向で翻弄されてしまう、影響下に置かれてしまう、ということも意味します。それでいいのか? という議論が米国でもうすでに起きているから、この問題はそんなに簡単にはいかないのです。また、トランプさんが成果を誇示したいのは分かりますけれど、中国は完全に合意してからでないと習近平さんは出しません。先日の米朝首脳会談が行われたハノイみたいに、退場されたらたまったものではないので、全部首脳会談の前に固めます。つまり、それにはもう少し時間がかかるということです。

飯田)これはそう見た方がいいのですね。

宮家)しかも、できたものは中途半端なものです。これからも続きます。

飯田)これに関してはエピソードがいくつもあると、宮家さんもおっしゃっていましたよね。

宮家)スターウォーズみたいに沢山あります。

ワシントンで始まった米中の閣僚級貿易協議(アメリカ・ワシントン)=2019年2月21日 写真提供:時事通信

いかに戦わずして勝つかを考える中国

飯田)アメリカとしては安全保障の面だとか、あるいは中国の統治機構にまで踏み込みたい。そこが狙いだから、絶対にすれ違いますよね。

宮家)絶対にすれ違います。私が中国なら「何を言っているのだ?」となる。トランプさんもいつクビになるか分からないし、中国も彼がいなくなったら儲けものだと思っているでしょう。だからいまは、モノを買ってお茶を濁しておけと。キツネとタヌキの化かし合いがまだ続いているということです。

飯田)新興の覇権国を目指す国と、旧来の覇権国がぶつかるという話もよく聞かれます。

宮家)でも、中国は新興でしょうか? 彼らにしてみれば自分たちは3000年の歴史ある大帝国だと思っているかもしれません。その意味では新興国というよりも、昔の大国が戻って来て、アメリカに「アジアまで何しに来たの? 100年前に来たばかりでしょう、こっちは3000年続いているのに、何だお前は」という見下しがあるでしょうから、やはり覇権争いですよ。

飯田)でも、さすがに干戈(かんか)を交えるというか、ぶつかることは…。

宮家)ドンパチはないですよ。

飯田)貿易などの面でバトルを繰り広げるということでしょうか。

宮家)中国はドンパチやった途端に経済制裁を受けることになります。そうなると、中国経済はあっという間に止まります。ですからそんなことは絶対にしません。その意味では中国は賢くて、戦わずしてどうやって勝つかを考えます。孫子の兵法を考えていると思います。

飯田)かつての米ソ冷戦になぞらえて、米中新冷戦と言う人もいますけれど、そこで例えば代理戦争的に局地戦がいくつも起こることは考えづらいのでしょうか。

宮家)代理戦的局地戦と言っても、中国の代理は誰にも務められません。中国には同盟国がないですから。北朝鮮ということはあるかもしれないけど、あれも代理戦争というよりは、北朝鮮の核問題が悪化しているということでしょう。周辺国でラオスやカンボジアもありますが、米国の同盟国がそこと戦争なんかするわけない。

飯田)経済面で港を取ったりすることはあっても。

宮家)東西冷戦のようなブロック同士というものではなく、中国対その他の国、という構図になる可能性ならあります。だからこそ中国はあまり無茶はしないと思います。いまの状態を冷戦と言うかは議論を呼ぶところですが、少なくとも冷戦の反対語、熱戦はいまのところないと思います。


サイバー攻撃を武力攻撃とみなすか否か〜まだ議論に至れない日本

飯田)一方で、ファーウェイのケースもあります。データをとるといったところでの争いもある。

宮家)そこはホットな冷戦ですよね。サイバー戦争はとっくに始まっていて、毎日やっています。別に驚くことではないですよ、やり返せばいいのだから。日本はやり返さないけれどね。

飯田)やり返さないと技術がたまらないと言いますよね。

宮家)やり返すために技術を磨かなければいけない。でも技術はすぐに陳腐化するから、またどんどん開発しなくてはいけない。やるかやらないかですよね。日本はやっていません。

飯田)既存の法律とか、あるいは戦力放棄の9条にまで引っかかってしまう。

宮家)だけど向こうから見れば、日本がやられているのに反撃しなかったら、向こうは止めないでしょう。考え方が古いのではないかな、日本は。

飯田)国会の議論もそこまで追いつかないどころか、議論自体あまりしていない。

宮家)アメリカでは、国際法上サイバー攻撃が通常の兵器による攻撃と同じ武力攻撃とみなすかどうか、という議論が何年も前になされています。サイバー攻撃に対して、通常の兵器で攻撃してもいいかという、そういうところにまで踏み込んだ話をしている。彼らはやるつもりです。

飯田)おおまかな法的整理がついたということでしょうか。

宮家)サイバー攻撃で、下手をするとアメリカの電力網やダムが決壊してしまったり、すごいことが十分起こりうる状況です。原爆は使わないまでも、大量破壊兵器と同じだと。それならばちゃんとした反撃をしなければいけないという議論がありました。日本ではとてもそこまでの議論に至っていません。

飯田浩司のOK! Cozy up!
FM93AM1242ニッポン放送 月-金 6:00-8:00

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