中東和平案〜ユダヤ票へ訴えるトランプ大統領の事情と中東の実情

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(1月29日放送)に慶応義塾大学法学部教授・国際政治学者の細谷雄一が出演。トランプ大統領が中東和平案を発表したニュースについて解説した。

中東和平案を発表し、握手するイスラエルのネタニヤフ首相(左)とトランプ米大統領(アメリカ・ワシントン)=2020年1月28日 写真提供:時事通信

トランプ大統領が中東和平案を発表

アメリカのトランプ大統領が29日、イスラエルとパレスチナの長年の紛争を解決するための中東和平案を発表した。テロ活動の停止など一定の条件の下で、パレスチナに東エルサレムを含む独立国家の建設を認めることが柱となっている。

飯田)東エルサレムを首都にということが、もともとのパレスチナの主張でした。一方でヨルダン川西岸などに、広域に入植地をつくってしまっている現状を認めるのかという感じでしょうか?

大統領選挙のキャンペーンとしての中東和平案発表〜パレスチナでは高まるトランプ批判

細谷)これはいくつかの興味深い問題が含まれています。1つは大統領選挙で、ユダヤ人票を中心として、トランプ大統領が国内向けに中東和平に取り組んで進めているということ。トランプ大統領はパフォーマンスが好きですから、アピールするためにこれを発表したという要素があります。一方で、トランプ政権の下で首都と大使館の移転、テルアビブからエルサレムへと移転しました。これはパレスチナのなかで不満が強まっています。特にトランプ政権がイスラム教に対して敵対的な姿勢を示したことで、イスラムの人たちの間でトランプ大統領に対する批判、不満が非常に強いです。どれだけトランプ大統領がいい案をつくっても、イスラムの過激派、パレスチナの強硬派のなかでは、とてもトランプ政権とは対話ができないという空気があります。

国連安全保障理事会の会合後、イスラエルの入植活動の違法性を指摘する共同声明を発表する非常任理事国10ヵ国の代表=2019年11月20日、米ニューヨークの国連本部(共同) 写真提供:共同通信社

オバマ政権からの方針を受け継いでおり、トランプ政権になって中東情勢が悪化したわけではない

細谷)しかしながらもう一方で、トランプ政権の外交政策はイランともそうですが、派手なパフォーマンスをしたり軍事攻撃をすることがあっても、従来の政権と比べて土台はあまり変わっていません。そういう意味では北朝鮮やイランの問題に関しても、あれだけ派手なレトリックを使いながら、実はそこまで状況が悪化しておらず、コントロールされています。中東和平に対しても、世論という点ではパレスチナ側から歩み寄れない空気ですが、実は2つの政府を確立して行くという方針はオバマ政権のときから変わっていません。ということは、トランプ政権になってから中東情勢を著しく悪化させたとは言えない面もあります。

飯田)記者発表をしたときに、隣にいたのはネタニヤフさんでした。この人、選挙で負けていますよね?

パレスチナ自治区ガザで、イスラエル軍の空爆で破壊された家を調べる女性ら=2019年11月14日(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

ネタニヤフ首相と手を組んで和平が進むのか疑問

細谷)何度かやり直しをして、イスラエルの政局が不安定化しています。逆に言うとネタニヤフ首相は強硬派の首相ですが、基本的にはアメリカのユダヤ・ロビーに受けはいいです。そういうネタニヤフさんをサポートするために、首都の移転や大使館の移転を進めて来ました。トランプ政権はいままで、いろいろな形でネタニヤフ首相をサポートしようとしたにも関わらず、選挙で勝ち切れませんでした。そういう意味では、ネタニヤフ首相といま手を組むことで、どこまで和平を進められるのか疑問符がつきますよね。

飯田)アメリカは仲介としての役割を果たすことができるのか。他に人がいないというところもありますか?

細谷)中東では軍事力が大きな意味を持ちますので、結局はアメリカがパワーを持っているという認識は、中東では強いです。これが大きな矛盾だと思います。

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