トルコがシリア攻撃停止〜トランプ大統領がしたことは何か

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月25日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。トランプ大統領がトルコへの制裁を解除すると発表したニュースについて解説した。

シリア内戦新局面 トルコとロシア、実益確保 23日、トルコ国境に接するシリア北部テルアビヤドに立つトルコ軍の兵士ら(ロイター=共同)=2019年10月23日 写真提供:共同通信社

トランプ大統領がトルコへの制裁を解除

アメリカのトランプ大統領は23日の演説で、「トルコがシリア北部でのクルド人勢力への攻撃を停止し、停戦を恒久的なものにすると伝えて来た」と説明し、トルコへの制裁を解除すると発表した。およそ1年後に迫る大統領選をにらみ、アメリカが中東の紛争から手を引く上で極めて重要な1歩だと強調。自らの不寛容政策を正当化した。

飯田)停戦はアメリカによって生み出された成果だと、強調していたようですが。

戦火を逃れるため、シリア北部タルタムルの方角へ避難する住民たち(トルコ国境沿いの町ラスアルアイン郊外)=2019年10月19日 写真提供:時事通信

国境の安定はトルコとロシアの先導でやっている〜アメリカは何もしていない

宮家)ダメですね。まず、クルドを見捨てた点でトランプさんはアウトです。その上で見ていると、アメリカが勝手に抜けた隙をついてプーチンさんが入って来て、トルコと一緒に話をした。そしてシリア政府をも巻き込んで、トルコとシリアの国境のシリア側の広い範囲からクルド人を追い出すということですからね。それはそれで停戦、兵力の引きはがし、どう呼ぶかは別として、ある程度安定はするかもしれません。けれど、いずれにせよ、アメリカは何もしないわけです。トルコはNATOなのだから、アメリカが音頭を取ってトルコを上手く説得し、ロシアとシリアを排除するべきでしょう。あるいはアメリカが出兵したくないのだったら、例えばNATO軍にも兵力を出させて、その上でトルコ、ロシア、クルド間の兵力の引き離しを監視するとか、もう少し知恵の出し方があると思うのですよ。今のままでは、国境を安定させることは、全部トルコとロシアのイニシアチブでやられている。アメリカにとっては大敗北だと私は思いますよ。しかし、トランプさんはそれをよくも正当化できますね。

飯田)確かにここで紛争が起こって避難民が出て、その難民たちがヨーロッパに向かうことを考えると、NATO加盟のヨーロッパ各国は出す理由というか、むしろ必然がある。

宮家)ええ。そしてその程度のことは、アメリカの役人だって考えつくに決まっているのですよ。しかし、トランプさんは彼らの言うことを聞かなかったのでしょう。トランプさん1人でこんな勝手なことをやって、結局のところ害されるのはアメリカの国益と、我々のような自由と民主主義を求める国々の国益だと思います。

ミズーリから発射されたトマホーク。湾岸戦争は、戦艦が使用された最後の紛争でもあった(湾岸戦争-Wikipediaより)

アメリカが中東にいる理由〜離れることはない

飯田)これをエネルギーの観点から説明する人がいます。アメリカはシェールオイルが出て来て、石油を輸入する必要がなくなったから、中東に関与しないのだと。

宮家)それは俗論です。エネルギーの専門家、もしくは経済の専門家の方の中には、そういうことをおっしゃる方もいる。もちろん間違っているとまでは言わないけれども、アメリカが中東に駐留する目的は、中東の同盟国を守るためだけではないのです。日本を含めた東アジアの同盟国は、中東にエネルギーを依存しているわけだから、アメリカが抜けたらそれ自体が成り立たなくなってしまいます。つまりアメリカが中東にいるのは、東アジアの同盟国を守るためでもあるのです。

飯田)それも目的としている。

宮家)はい。それを考えたら、米国が湾岸地域から抜けるはずがないのですよ。アメリカの戦略家はそんなことを考えていません。そのように考えるのは主としてエコノミストです。間違っているとは言いませんけれども、世の中には経済合理性では説明できない別の見方もあるということです。

飯田)なるほど。アメリカの軍隊のなかに中央軍というものがあって、アメリカの真ん中にいるのかと思ったら、そうではない。まさに中東にいるのが中央軍だと。

宮家)もともと中央軍は、司令部がフロリダにあったのですけれどね。戦争をやるとき司令部は移動しますが、中央軍は1980年代のイラン・イラク戦争の最中に設置が検討されて、1991年に湾岸戦争があったでしょう。あの直前に何とか間に合ったのです。中央軍がなかったら、あの戦争はできなかった。中央軍は米軍の中でいちばん新しい司令部の1つです。

飯田)特に日本については、あそこが生命線。

宮家)生命線ですよ。もし湾岸の米軍がいなくなったら、日本のシーレーンを誰が守るのか。今は第7艦隊と第5艦隊が守っているわけですよ。そこで第5艦隊がいなくなったら、日本のタンカーはインド洋までは行くかもしれませんが、その先がないのですから。第5と第7両艦隊は日本にとって生命線なので、アメリカが出て行くなんて今の日本には考えられません。それをやれば、アメリカは東アジアの同盟国を見捨てることになる。そうするとアメリカはアジア太平洋国家ではなくなってしまうのです。

飯田)北米のみに。

宮家)それでは彼らも困ってしまうので、日米は持ちつ持たれつなのです。エネルギーが自給できたから米軍が中東から離れるなどという、戦略的には驚くべきことを簡単に言わないで欲しいと思います。

飯田浩司のOK! Cozy up!
FM93AM1242ニッポン放送 月-金 6:00-8:00

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