イランがウラン濃縮活動再開〜アメリカとの対立の裏にあるもの

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(11月6日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。イランとアメリカの対立から、世界情勢におけるパワーバランスの難しさについて解説した。

ハサン・ロウハーニー-Wikipediaより

イランのロウハニ大統領がウラン濃縮活動の再開を発表

イランのロウハニ大統領は5日、経済制裁を再開したアメリカへの対抗措置として、ウラン濃縮活動を再開することを発表した。2015年に締結した核合意で課された義務の履行を、また1つ停止することになる。

飯田)イランでは今年(2019年)5月以降、核合意で課された義務の履行を段階的に停止しておりまして、今回は第4段階の停止ということになります。

佐々木)誰も戦争を望んでいません。イランはアメリカと戦争して勝てるなんて夢にも思っていないし、アメリカもイランと戦争をすれば、原油の調達が大変な状況になります。日本にとっても死活問題ですが、中東で火種が起きることは誰も望んでいないのに、戦争が起きそうになってしまっています。元を正せば、これはイランとサウジアラビアの宗教的対立と言われています。イランがイスラム教のシーア派で、サウジアラビアがスンニ派である。この2つはずっと対立しているわけではなくて、もともとはイラクが間にあったのです。イラクがフセイン政権で強かったので、2ヵ国ともイラクと対立していました。そのため、サウジアラビアとイランは割と仲がよかったのです。

飯田)敵の敵は味方ということですね。

首都バグダードで銃撃戦を行う米軍兵士(イラク戦争-Wikipediaより)

サウジアラビアとイランが対立する理由

佐々木)3つのパワーバランスがあったので、火種にならずに済んでいたのだけれど、湾岸戦争とイラク戦争でアメリカがイラクのフセイン政権を引っこ抜いてしまった。その結果、重しがなくなったら、サウジアラビアとイランが対立するようになったのです。こういう国際情勢はバランスの上だけで成り立っています。「こうすれば上手く行く」ということはなくて、生き物の生態系と同じです。この害虫を取り除けば上手く行くだろうと思って殺したら、バランスが崩れて別のところに火種が起き、変な毒虫が発生するのと同じことです。イランとサウジアラビアが対立して、イランがドローンか何かでサウジアラビアの油田を爆破するようなことが起きてしまう。元を正せば、アメリカがフセイン氏を追い出してしまったのが悪かったのではないかという、自業自得な話なのだけれど、そのせいで世界中が大変なことに巻き込まれています。誰も望んでいないのに、戦争はパワーバランスのちょっとした乱れで起きてしまう。日本人はヒトラーや東条英機という悪者がいたから起きたのだ、悪者を排除すれば戦争は起きない、と牧歌的に思っていますが、実は第一次世界大戦は誰も戦争を望んでいませんでした。ヨーロッパは軍事革命が起きてから戦争が多発して、18世紀の終わりまで戦争をやりまくっていたのだけれど、19世紀に入ってほぼ100年間、戦争はない状態だったのです。絶対に戦争をしたくないので軍事同盟をみんなでつくり、お互いにそれを張りめぐらせていたら戦争は起きないと思っていたところに、サラエボでオーストリアの皇太子が暗殺されました。これは戦争ではなく、民間人が暗殺したものです。しかし、それがきっかけで平和のために張りめぐらせた軍事同盟が、ドミノ倒しのように崩れてしまって、第一次世界大戦につながったのです。

サラエボ市庁舎を出て車に戻ろうとする大公夫妻(暗殺の数分前に撮影)(サラエボ事件-Wikipediaより)

誰にもその先にある戦争の大きさは予想できない「べき乗則」

飯田)オーストリアとセルビアの関係だったものが、なぜ、その後でドイツとフランスが何100万人という人を殺し合わなければいけなかったのか。

佐々木)なぜロシアまで参戦しなければいけなかったのか。これは“べき乗則”と言われるもので、プレートとプレートがぶつかって地震が起きると、その地震は小さい地震のときもあれば、東日本大震災のようなものにもなる場合もある。地震は必ず起きるのですが、小さいのか大災害になるのかは誰にも予測できない。戦争はまさにそうで、第一次世界大戦はもしかしたら、セルビアとオーストリアの小さな紛争で終わっていたかもしれないのです。でも、たまにそれが大戦争になってしまうことがある。人間には予測できないのです。トランプさんがいなくなれば大丈夫、イランを潰せば大丈夫などという、悪人排除の論理だけでは防げないような悲しい結論に達するわけです。

飯田)クリアカットな解決策は魅力的で、みんなそれに飛びつくのですが。

佐々木)因果関係にどうしても囚われてしまうので、原因を取り除けばいいと思ってしまいがちですが、決してそんなことはないのです。

飯田)現状を丸々肯定するわけにも行かないとなると、少しずつ変えて様子を見ることを繰り返すしかないわけですか?

イランのロウハニ大統領(右端)と会談する安倍晋三首相(左端)(アメリカ・ニューヨーク)=2019年9月24日 写真提供:時事通信

世界は常に不安定であることを認識し、危機感を持って受け止める

佐々木)安定している状態はないのです。世界はやじろべえみたいにふらふらしていて、倒れそうだけれど保っているという状態が普通なのです。我々はどうしても正常化バイアスで、「こうなったら安定している」と思いがちですが、大抵は不安定なのです。その不安定な状態をどうやって保つのかというのは不断の努力で、不安定なものを不安定な状態で保たせるという発想を持つべきだと思います。

飯田)走り出してしまっているものをどうやって止めるのか。しがらみがないということでは、日本はその可能性もあるけれど、過信はできないということですね。

佐々木)イランとアメリカの間に立つということは、安倍さんもイランに行ったように可能なのですが、容易ではありません。しかし、その努力を続けることが大事です。日本は何もできないではないか、と言ったらそれで終わってしまうので、日本も努力をしてイランやアメリカに働きかけ続けることは重要だと思います。

飯田浩司のOK! Cozy up!
FM93AM1242ニッポン放送 月-金 6:00-8:00

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