米「パリ協定」離脱〜最終的に自国のマイナスになる可能性

ニッポン放送「ザ・フォーカス」(11月5日放送)に中央大学法科大学院教授、弁護士の野村修也が出演。アメリカのパリ協定離脱について解説した。

米ケンタッキー州の選挙集会で演説するトランプ大統領=4日(ロイター=共同)

アメリカ「パリ協定」離脱を正式通告

アメリカは、気候変動への国際的な取り組みを決めた2015年の「パリ協定」からの離脱を正式に国連に通告した。これによりアメリカは世界で唯一、この協定に参加していない国となる。

森田耕次解説委員)パリ協定というのは、地球温暖化の深刻な被害を避けるための国際協定で、21世紀後半に世界の温室効果ガスの排出を実質ゼロにして、産業革命前からの気温上昇を2度未満、できれば1.5度に抑えることを目指しています。2015年の12月に採択され、京都議定書に代わって2020年に本格始動することになっております。その後2016年の11月4日に発効しまして、規定では3年後から離脱通告できるということで、トランプ大統領は一昨年も離脱の方針を表明しているのですが、規定に基づいて通告可能になった最初の日である11月4日に離脱の手続きをしたということで、実際の離脱は1年後、来年の11月4日になります。トランプ大統領はケンタッキー州で開いた選挙集会の演説で、「恐ろしくコストが高くつく。不公平なパリ協定からの離脱を通告した」と述べました。トランプ政権はこれまで石炭や石油など、化石燃料産業の振興を図っておりまして、さまざまな環境規制を緩和する方針を示しています。小泉進次郎環境大臣は、5日の閣議後の会見で次のように話しています。

小泉環境大臣)脱退の方針は2年前の2017年6月から表明されていましたが、今回正式に通告がなされたことは極めて残念であります。昨今、台風などの気象災害が頻発しており、気象変動が進めばこうした災害リスクがさらに増大することを考えれば、脱炭素社会の実現は喫緊の課題であります。そのなかで世界が合意したパリ協定の枠組みから世界第2位の排出国が脱退したことは非常に残念です。

森田)小泉大臣が言ったように、アメリカは中国に次ぐ世界2位の温室効果ガス排出大国なのですよね。

G7サミットの会場を後にするトランプ米大統領(中央)=2018年6月9日、カナダ・シャルルボワ(代表撮影・共同) 写真提供:共同通信社

中国や途上国も巻き込んでようやくできた全世界枠組みからの離脱

野村)さきほどお話があったように前には京都議定書があって、これを国際的枠組みとしてやってきたのですが、これには加盟していない国がたくさんあったのですよね。そのなかで1番の排出国である中国をどうやって新しい枠組みのなかに取り入れていくか、というのが大きな問題でした。さらに、途上国の人達から見ると、先進諸国はたくさん排出してそれだけ成長してきました。いよいよ自分たちが成長しようとしているときに、成長の機会を失うようなルールづくりには参画できないということを途上国の人たちは強く言っていたのです。その人たちもみんな巻き込んでようやくできた協定だったのですよ。

森田)190近い国と地域がこのパリ協定には加入しているのですよね。

野村)世界としては、人類がみんなで協力できる枠組みをせっかくつくったのに、なぜアメリカがここから抜けるのだ、という声が大きいことは確かです。

森田)今後、このまま温暖化が進むと世界各地で洪水や熱波、干ばつが深刻さを増すとされていまして、世界の経済損失は年間で20兆円以上という試算もあるようなのです。

野村)確かに温暖化と排出している温室効果ガスとの因果関係について、いろいろな議論があることは確かなのです。だけど、人間としていまできることはある程度限られていまして、自分たちの目の前でできることを効果があると信じてやっていこうという枠組みなのですよ。そうしたときに、アメリカは世界のリーダーとしてこの枠組みを推進していく側に立たないと、みんなが勇気を持って立ち向かうことはできません。さらに言えば、企業というのは目先の利益だけを追求して、排出しないことによってコストが削減できるという目先の議論をしていてはだめなのです。長い目で見て成長をずっと続けていくためには、企業の成長は地球の持続可能性の上に乗っているわけですから、ここを考えなければ企業の成長もないということです。

世界的に脱炭素社会を目指す流れができている

森田)世界の流れは脱炭素になってきていて、再生可能エネルギーや電気自動車の普及が将来のビジネスチャンスになるとも言われていますよね。

野村)実は、投資をする人たち「ファンド」がいますよね。その人たちはいま「ESG投資」という投資のスタンスを取ることを約束しているのです。Eというのは環境なのです。Sは社会で、Gはガバナンスを表しているのですが、環境に配慮した企業じゃないとお金は出さないということが一般化しつつあるのですね。企業の側はSDGs。最近、胸元にカラフルなバッジをつけている人がいます。あれは17の目標というのがあって、世界の人たちの貧困対策などを2030年までにみんなで解決する約束をしているしるしなのです。そこへ企業が参画することによって新しい社会をつくっていこうという動きになっているのですよ。これに参加しなければ、もう世界の投資家はお金を出さないという時代になっているなかで、トランプさんの考えている企業の利益は古臭い感じがするのですよね。

森田)持続可能な開発目標に企業も向かっているし、世界全体が向かいつつある。一方で、フランスのマクロン大統領は「中国とEUがパリ協定の実行に決定的な役割を果たす」と中国との連携を強めるようなことを言っていまして、こうなると中国の政府、企業やヨーロッパが組んでしまうことだってあり得ますよね。

野村)そうですね。それは逆に言うとアメリカにとって損になる可能性もあるわけですよ。グローバルな視点からいちばん望ましいものをもう一度考えて欲しいと思います。

ニッポン放送「ザ・フォーカス」

火力発電に頼らざるを得ない日本〜削減の技術革新が求められる

森田)日本はいま排出に関してはどうでしょうか。

野村)日本はいま原発の問題があって、どうしても温室効果ガスを多く排出する石炭での発電をやらなければいけないわけですね。こういったところで苦しい面があるのですが、京都議定書のときも世界をリードしてきましたし、この問題について正面から向き合っていかなければいけません。ただ、そのために解決しなければいけないのは、仮に化石燃料を使うのならば、なるべく温室効果ガスを出さないような技術革新をしていかなければいけません。これが新しいビジネスチャンスを生んでいくのだと信じて、そこに向かっていかなければいけない時代だという気がします。

ザ・フォーカス
FM93AM1242ニッポン放送 月-木 18:00-20:20

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