ジョンソン首相は田中真紀子氏に相似〜開けてしまった「感情の政治」のパンドラの箱

ニッポン放送「ザ・フォーカス」(12月17日放送)に元外務省主任分析官・作家の佐藤優が出演。イギリスの与党大勝がヨーロッパにもたらす影響について解説した。

ニッポン放送「ザ・フォーカス」

イギリス、第2次ジョンソン政権始動

2020年1月末までに、EU(ヨーロッパ連合)からの離脱の実現を目指すイギリスのジョンソン首相は、総選挙での与党・保守党の大勝を受けた閣僚人事を発表し、第2次政権を始動させた。閣僚は補充にとどめ、離脱に向けた国内の手続きを急ぐ方針。

森田耕次解説委員)EU離脱問題の命運がかかったイギリス下院、定数650の総選挙が12日に行われまして、ジョンソン首相率いる与党・保守党が選挙前の298から365へ大幅に増やして過半数を獲得。労働党は対照的に243から203へ激減しました。2020年1月末までのEU離脱実現を目指すジョンソン首相は16日に閣僚人事を発表して、第2次政権を始動させました。閣僚は補充にとどめて、離脱に向けた国内手続きを急ぐ方針です。イギリスメディアによると、12月20日にも離脱合意案を含む関連法案を下院に送って、下院の審議に入りたい考えだということです。保守党の圧勝になりましたね。

佐藤)選挙直前にこの番組(ニッポン放送「ザ・フォーカス」)に出たときに言ったのですが、感情を煽る方法を取った方が勝つわけで、まさにジョンソンさんはそうしたのです。「状況はよくわからないけれど、イギリスは大国だからな。いつまでもドイツの下にいていいのか!」という感じにやれば、「EUから離脱すると我が国の経済的な状況にこういうマイナスがあって」とか「外交的な孤立を招く」といった(理詰めの)批判よりも、「そんなものは気合いで乗り切れ!」と言っていた方がスカッとしますからね。怖いのは、感情を煽る手法でこれだけ勝てるということ。これを見ている人がヨーロッパにたくさんいるのですよ。ポーランドやハンガリーで感情を煽る政治が始まってくると困ります。ハンガリーにはブダペスト法というものがあって、移民を支援している団体を非合法化することをやっていて、EU評議会からクレームがついているのですよ。そうなると、勢いで「出ていってやる」となるかもしれません。そうすると、感情を煽って勝つ方法がヨーロッパ全域に広がりますよね。

英中部マンチェスターでの与党保守党大会で演説するジョンソン首相=2019年10月2日(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

始まった「感情を煽る政治」 その危険性

森田)イギリス国内ではEU残留を訴える政党が、北アイルランドやスコットランドで議席を増やしました。特にスコットランドは独立問題が再燃するのではないかと言われます。

佐藤)その可能性も十分ありますよね。イギリスの正式国名が「グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国」ですよね。そこに民族を意味する言葉はありません。アイルランド人はいるけれど、北アイルランド人はいません。民族国家になっていくことになると、アイルランドとウェールズとイングランドが分かれて、スコットランドはもともとイギリスとは対立していましたし宗教も違いますから。そういったことになると、イギリスの分解が進む可能性は十分にあります。例えば核兵器をイギリスは持っています。地上の基地にはなくて、潜水艦の基地だけなのです。これはグラスゴーの横で、スコットランドにあるのです。なぜイングランドの防衛のために、我々が核の負担を負わないといけないのだ、ということをスコットランドの独立運動の人たちは言っています。

森田)そうすると、イギリス国内の分断が進む可能性があるし、EUもまた離脱する国が出てくるかもしれませんね。

佐藤)特に中央ヨーロッパのポーランド、ハンガリー辺りは非常に心配です。

森田)そして、イギリスはこれからもし1月末に離脱したとしても、EUとの貿易協定、日本やアメリカとも貿易協定を結ばなければいけません。

佐藤)EUの本丸はドイツですよね。あまりジョンソンさんがドイツへ侮辱的な対応をしていると、「メルケルだから舐められているんじゃないか。俺たちは偉大なドイツだ」「移民はドイツにはいらない」というような勢力が出てきます。こういう形になると、ドイツ人は過去にとんでもない実績がありますからね。ドイツのナショナリズムを刺激したら大変なことになってしまいます。よくパンドラの箱と言いますが、パンドラの箱というのは最後には希望が残っているのです。ところが、希望もないようなパンドラの箱になる可能性があります。ですから、大変なことが起き始めています。感情の政治が始まっているということです。

森田)それが来年どういう動きになるのか。

野田第3次改造内閣 記者会見に臨む田中真紀子文科相=2012年10月01日午後、首相官邸  写真提供:産経新聞社

思い起こされる田中真紀子氏の「感情政治」

佐藤)しかし、我々も感情の政治は経験しています。まぁ私だけかもしれないですけど……田中真紀子さんという方。「森(喜朗)さんは何をやってるんですか、イルクーツクに行って!」と言ったり、彼女は私の部屋まで来ましたからね、私の首実検しに顔を見に。「この部屋は何をやっている部屋ですか」と言って、私の目をじっと見て。凄い迫力がありましたよ。

森田)「上司との付き合い方」(※番組内のコーナー)でもメールが来ていましたよ。「田中真紀子氏のような上司を持った場合、部下としてはどのように付き合えばいいのでしょうか」という。

佐藤)ひたすら耐えるしかありません。その後次官をやった、当時人事課長だった斎木(昭隆)さんがいるでしょう。あるとき(斎木さんに)突然電話がかかってきて、当時はまだ古い電話だからよく聞こえないかったそうで、「人質……大臣」と言ってたので、それで「すぐに警察を呼べ!」と言ったと。それで外に出てもう1回電話をかけたら、「いや、人質になっているのは人事課の職員で、田中(真紀子)さんが立てこもっているんです」と。それで外務省の門まで行ったら当時の官房長の小町(恭士)さんから電話がかかってきて、「斎木くん、君は来ない方がいい。大変なことになるから」と。どうも「斎木を替えろ」と言って職員を脅して、辞令を打たせているそうなのです。当時は、それは凄い迫力でしたよ。

森田)困った人ですね。耐えるしかないのですね。

佐藤)当時の次官がその書類を見て、「こんなのは子ども銀行の札みたいなものだ。まったく意味がない」と言って。外務省のナンバー1とナンバー2がそういうことをやっているわけですから、組織はがたがたですよ。田中さんに外された飯村(豊)さんという官房長がいました。その人が謎の秘密の部屋をつくって、田中さんの悪口を書いたいろいろなメモを外務省の職員に政治家へ配らせているのです。鈴木宗男さんのところに来るときには変装したりして、組織は完全に壊れていました。

森田)学級崩壊みたいなことになってしまったのですね。

佐藤)だから、ジョンソンさんのイメージはよくわかるのです。ジョンソンさんのイメージは、田中真紀子さんが首相になった感じなので、イギリスは大変だと思います。

ザ・フォーカス
FM93AM1242ニッポン放送 月-木 18:00-20:20

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