安倍総理中東訪問〜評価に値するここまでの外交

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(1月15日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。安倍総理の中東外交について解説した。

オマーンのアスアド国王代理(右)と会談する安倍首相=2020年1月14日、マスカット(共同) 写真提供:共同通信社

中東歴訪中の安倍総理がオマーンの国王代理と会談

中東歴訪中の安倍総理大臣は14日、オマーンの首都マスカットを訪れ、アスアド国王代理と会談した。中東情勢の緊張緩和に向けて協力して行くことで一致している。また、海上自衛隊の中東派遣についても理解を求め、国王代理は「日本の取り組みを高く評価し、協力したい」と応じている。

飯田)今回はサウジアラビア、アラブ首長国連邦とめぐり、最後がオマーンです。前国王が亡くなったばかりというタイミングでもありました。

佐々木)オマーンともUAEともきちんと話をつけて、石油の確保を1歩進めたという意味では、今回の中東訪問は高く評価されるべきだと思います。いまの状況はイスラム教シーア派のイランと、スンニ派のサウジアラビアを中心とした湾岸諸国との対立が背景にあって、それぞれにアメリカとロシアその他が乗っかり、もう少し小さい規模で言えばISの残党やシリアにいるさまざまな勢力が被さっているという複雑な情勢です。これを何でも善悪で片付けたがる人はアメリカが嫌いなので、「ソレイマニ司令官万歳」と言ったりしています。

飯田)人情に厚い英雄であったと。

サウジアラビア・ウラー近郊でムハンマド皇太子(左)の歓迎を受け握手する安倍首相=2020年1月12日(代表撮影・共同) 写真提供:共同通信社

中東情勢悪化で割を食うのはエネルギー依存している日本

佐々木)やたらとイランを持ち上げたがりますが、一方でイランは国内に対して、抑圧的な政治をしているのです。ソレイマニ司令官殺害に関しては、イラン国内でそれを褒め称えるデモが起こっています。要するに、中東情勢は「誰が善で誰が悪かわからない」、部外者が一方的にそれを判断することはできない場所なのです。日本に何ができるのかと言うと、何が善か悪かを考えずに、戦乱が起こらないようEUやアメリカと努力することと、石油を確保することです。日本の石油の大半は中東から来ています。

飯田)9割が中東だということですね。

佐々木)そのうちの8割くらいは、問題になっているホルムズ海峡を経由しているわけですから、アメリカとは状況が全然違うのですよ。

飯田)アメリカにはシェールガス、シェールオイルがあります。

佐々木)もはやエネルギーが自立してしまっているので、「中東の石油なんて要らない」とトランプ大統領は言ってしまっているわけです。中東にお金をかけたくないので、トランプ氏としては中東から距離を置きたい。でも、アメリカがいなくなったら中東が平和になるわけではなくて、シーア派とスンニ派の対立がある限り、戦乱の可能性は常にあります。

飯田)むしろ、アメリカの重しがなくなることで発火してしまうかもしれません。

佐々木)そうすると、いちばん困るのはエネルギーで依存している日本です。ヨーロッパはあまり中東に依存していないのです。若干は依存しているのですが、それも中東からは海路ではなく陸路を使って来ます。もう1つは、ロシアから来るパイプラインでの石油や天然ガスが多いので、中東の石油に激しく依存している先進国は日本がいちばんです。ちなみに中国も依存しています。日本としては困るので、戦乱を避けつつサウジやUAEやイランと仲よくするという、微妙な綱渡りを強いられているわけです。

【日イラン首脳会談】イランのロウハニ大統領(左)を迎える安倍晋三首相=2019年12月20日午後、首相官邸 写真提供:産経新聞社

評価できる安倍総理の中東外交〜イランとアメリカのパイプ役としても上手く機能

佐々木)今回の件に関しては、安倍総理は相当に上手くやったと思います。まず、アメリカを中心とする有志連合には参加しませんでした。ただし、地域の安定を保つために護衛艦は派遣する。しっかり派遣はするけれど、ホルムズ海峡には行かずにオマーン湾などで活動する。イランにも話をつけて、UAEやサウジ、オマーンにも話をつける。ソレイマニ司令官殺害の後、イランが米軍基地に報復したではないですか。実際に、その後イランから「これ以上エスカレートする気はありません」という連絡が、日本政府に来ているのです。「イランとも回路を開いたまま、湾岸諸国ともアメリカとも上手くやる」というのが安倍政権の外交方針だと思いますが、いまのところは上手く行っていると思います。

飯田)イランから日本へ連絡が来たというのは、日本のことを慮ってということもあると思いますが、一方でトランプさんといちばんつながっているのは安倍総理だということを考えると、下手に発火しないように念には念を入れて、日本経由でも伝わるようにしたということですね。

佐々木)そもそも、イランとアメリカには国交がないので。

飯田)どこか中立国的なところを通さなければいけないということですね。

佐々木)実際にツイッターが回路になっていたという指摘もあって、イラン側が英語でツイートしたものに対してトランプ氏もツイートし、その後で両者とも沈黙を保ってエスカレートさせないようにしていたという指摘を、日本のブロガーの方が書いていますが、なるほどと思いました。そういう回路と日本経由の回路など、いくつかのものを使ったのだと思います。

飯田)正式な中立国関係のパイプは昔ながらの外交の方針ですが、それで言うとアメリカの利益代表はスイスだと言われています。そのオフィシャルのルートだけでなく、いろいろなところを使ったと。

佐々木)「日本の外交は何の役にも立っていない」と怒る人がいますが、きちんと役に立っているし、地域の安定にも貢献できています。遠く離れた中東に関与できているのは素晴らしいことです。

飯田)ソレイマニ司令官殺害の後で、真っ先に支持を表明したのはイギリスでしたが、日本は間をおきました。その後、イギリスに対してはザリフ外相などが批判をしていますが、日本に対しては何か言って来たということはないですね。

佐々木)激しい抗議が起きたという話はまったく出ていないですね。イランとしても数少ない西側とのパイプですから、そこを大事にしたいという気持ちがあるのだと思います。日本とイランは歴史関係も古いし、90年代はイラン人にビザを免除したりもしていましたから、大量に日本へ来ていた時期もありました。その後いろいろな問題があってなくなってしまいましたが、日本とイランの関係は大事にするべきでしょう。

米軍、中東に3千人増派へ  イランのソレイマニ司令官殺害について話すトランプ米大統領=2020年1月3日、米南部フロリダ州(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

核合意に日本が参加できる可能性もある

飯田)その延長で言うと、今回の問題も含めて、核合意をどうするかということだったではないですか。

佐々木)これが完全にゼロになったかというと、そうでもないようで、アメリカは完全に離脱してしまったのでイランは怒っているのですが、EUはまだ核合意を維持したい気持ちがあるようです。日本がそこに関与しつつ、核合意を再度取り付けて、トランプ氏の意向を改めさせることができるかが次の課題になるでしょう。

飯田)前回の核合意では、日本は蚊帳の外でしたものね。でも、常任理事国でなくてもドイツは入っているわけです。

佐々木)オバマ時代と比べるとトランプ・安倍関係の方がより友好なので、そこに関与する余地はあるのではないでしょうか。

関連記事(外部サイト)