習近平氏〜新型コロナによる内外からの批判をどうかわすか

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(5月22日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。新型コロナウイルスの影響で延期されていた中国全人代が開幕されるニュースについて解説した。

人民大会堂で、政府活動報告を聴く中国の習近平国家主席(中国・北京)=2020年5月22日 写真提供:時事通信

22日開幕の中国全人代、香港の治安法制審議へ

新型コロナウイルスの影響で、およそ2ヵ月半延期されていた中国の国会に当たると日本のメディアが報じる全人代(全国人民代表大会)が、22日に開幕する。この全人代のなかで、香港の反政府活動を摘発するための治安法制が審議される。中国の国営・新華社通信が21日に伝えた議案によると、「香港の国家安全を維持する法律制度と執行メカニズムの確立に関する決定(草案)」が盛り込まれたということである。

飯田)香港への締め付けも強くなるということですか?

「暴徒はいない、暴政だ」 香港・九竜地区でデモ行進する大勢の人たち=2019年10月20日(共同) 写真提供:共同通信社

批判を封じ込めるためにも、香港の治安維持の法整備を進めたい習近平氏

宮家)習近平さんも他の世界の指導者と同じで、パンデミックによって相当追い詰められていると思うのです。現職の政治家が、感染拡大と経済の停滞について、ある程度の責任を負わなければいけないということは、トランプさんも安倍さんも同じです。特に中国の場合は、そもそも自分のところで始まった疫病であり、情報を隠したということで外国からも厳しい批判が出ています。国内的には経済活動を再開したとは言っても、いろいろな報道を見ていると、倒産は多いし失業率は高いし、経済が思ったようには戻らない。それどころか、生活水準が下がって行くと社会問題にもなりかねないわけで、習近平さんからすると、薄氷を踏む思いで綱渡りを強いられていると思います。ようやく全人代を開くことができたけれど、1つ間違えると、水面下で彼に対する批判が出て来る可能性があるので、それだけは封じ込めたい。そのなかで、香港は幸いいま誰も関心がないし、利用するチャンスなのです。一国二制度を完全にするためと言いながら、実際には、厳しい措置を取ることが当然考えられるので、香港の人たちにとっては、とんだ迷惑だろうと思います。

実弾発砲で高校生重体 警官隊とにらみ合うデモ隊の若者ら=2019年10月1日、香港(共同) 写真提供:共同通信社

いま香港で大規模な反対デモを行うことは難しい

飯田)去年(2019年)の抗議活動は記憶に新しいところではあります。

宮家)あのときは、逆に台湾でいまの総統の再選につながったわけですが、今回はどうでしょうか。大規模な反対デモができるかどうか、仮にやったとしても、あれほど人は集まれないでしょう。私は当時、実際にデモを見に行きましたが、ものすごい人が出るのですよね。でも、いまあれをやるわけには行かないから、なかなか反対運動も盛り上がるのが難しい。そうなると、どうも中国の思い通りに動きそうな気がします。

飯田)メディアも外からはいま入りづらくなっているし、なかからどこまで報じられるかですものね。

宮家)厳しい締め付けがありますから、以前のように、世界中の支持を集める形で運動が拡大して盛り上がるということはないかも知れません。

中国、全国で新型コロナの哀悼活動 北京駅で黙祷をささげる人たち=2020年4月4日午前10時 写真提供:産経新聞社

非常に難しいゲーム〜ナイフを抜いた方が負ける

飯田)海上での活動も、南シナ海や外に向けてプレッシャーを強めていますよね。

宮家)この間、ベトナムの漁船が沈められました。中国は新しい行政区をまた2つつくりました。海の上でもアメリカとの関係はよくない。特に、この間セオドア・ルーズベルトという空母でコロナ騒ぎがあって、彼らは2ヵ月間活動できなかった。南シナ海に一種の「力の空白」ができたところへ中国はすかさず入って行って、「戦わずしてものを持って行く」スタイルはまったく変わっていません。我々は、海の問題も忘れてはいけません。南シナ海の問題は必ず尖閣にも来るわけですから。

飯田)尖閣を守ろうということになると、いま、中国は白い色の公船である「海警」を出して来ています。日本も海上自衛隊はあるけれど、基本は海上保安庁に頑張ってもらう方向へ行かなければならない。

宮家)非常に難しいゲームですね。普通の喧嘩はナイフを抜いた方が勝ちなのですが、ここではナイフを抜いたら負けなのです。一方が軍隊を使ったら、相手側に自衛権行使を理由に軍事反撃を事実上認めてしまうことになる。いまのゲームはそこまで行かない範囲内、すなわち海上保安庁と沿岸警備隊同士で、あくまでも海上警備行動の一環として、にらみ合い、相手を抑止することが基本です。ただ、問題なのは中国の「海警」は実質的に軍隊と同じで、人民解放軍の指揮下にあることです。その意味では、中国のやり方は非常に戦略が一貫している。海警レベルでちょっかいを出すが、いつでも海軍を使えるという状況であることは間違いありません。ですから、我々も絶対に気を抜くことはできません。

飯田)もともと軍艦だったものの色を塗り変えているので、相当大きなものでしょうし。

宮家)海上保安庁の方々には、頭の下がる思いです。彼らは、小さい規模の海保で一生懸命にやって下さっているのですが、何しろ多勢に無勢ですからね。海上自衛隊を使うのは最後の手段です。その前に、海上保安庁の方の船や人員、待遇を整備しなければいけないと思います。

日中首脳会談 中国の習近平国家主席中国の習近平国家主席(右)と握手する安倍晋三首相=2019年6月27日午後、大阪府大阪市北区 写真提供:産経新聞社

習近平氏を日本に迎える意味

飯田)千葉市緑区の“浅野”さんという男性からメールをいただきました。「日本政府は習近平氏の来日のために模索しているという報道もありますが、こんなコロナの状況下でも日中関係の方が大事なのですか?」と。

宮家)日中関係も大事であることは間違いありません。そもそも、この問題は一応こちらから招待したものです。いつも言っていることですが、中国がこちらへ来るのであれば彼らはいろいろな協議に応じざるを得ないので、これは日本の立場を理解させるいいチャンスなのです。その気持ちはいまも変わらないのですが、現状のようなパンデミックが起きてしまって、中国がこれだけ追い詰められている状況では、パンデミック以前のような協議がどれだけできるかどうかは疑問です。訪日を仮にやるとしても、今秋にできなかったら、来年(2021年)には第2波が来るかも知れないし、実際には、訪日実現が難しくなる可能性も出て来たかなと思っています。

飯田)秋から冬にかけての来日が流れると、来年の春かと言われています。

宮家)でも、絶対に大丈夫だと言える状況ではないですよね。当分、習近平氏の訪日は、外交上の課題ではあるけれど、現実的には動かしにくいのではないでしょうか。

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