黒人暴行死事件の抗議デモ〜収束の見通しがつかないもう1つの背景

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(6月8日放送)にジャーナリストの須田慎一郎が出演。米黒人暴行死事件に対する全米での抗議デモについて解説した。

6日、黒人男性暴行死事件を巡り、米連邦議会議事堂周辺で抗議するデモ参加者=2020年6月7日 ワシントン(UPI=共同) 写真提供:共同通信社

黒人死亡事件、週末のワシントンで最大規模の抗議デモ

アメリカ中西部ミネソタ州で黒人男性が白人の警察官に首を押さえつけられ死亡した、5月25日の事件を受けて始まった抗議デモ。この週末も全米の主な都市で行われ、そのうち首都ワシントンでは、事件以降最大の規模となる数万人の参加者がホワイトハウス近くの道路を埋め尽くした。

飯田)西海岸サンフランシスコでも行われ、ゴールデンゲート・ブリッジを数千人が行進するという印象的な映像もありましたが、どうご覧になっていますか?

須田)この抗議デモ、収束の見通しが立っていないというのが現状ですが、「なぜこの見通しが立っていないのか」、これが大きなポイントになると思います。その前に、なぜワシントンでこれだけ大規模な、しかもホワイトハウスの近くでデモが行われているかというと、一言で言ってしまえば、反トランプの動きなのです。5月31日に、トランプ大統領が、デモ隊が押し寄せたためにシェルターに逃げ込んだというニュースが流れました。実は、これはフェイクニュースなのです。逃げたわけではないのです。そういうところを含め、今年(2020年)の大統領選挙において、「トランプ大統領を落選させないと、こういうことが繰り返される」ということを印象付けようとしているのです。

シカゴ経済の展望についてスピーチ(2006年4月11日)(ヒラリー・クリントン-Wikipediaより)

ヒラリー・クリントン氏のツイッター〜11月の大統領選挙に直結

須田)ちなみに今回の抗議デモのスローガンは「Black Lives Matter」という、「黒人の命も大切だ」という言葉を使っているのですけれども、この流れを受けて、前回の大統領選挙でトランプ大統領と争ったヒラリー・クリントン元国務長官のツイッターを見ていたら、抗議デモを取り上げ、そこに「Elections Matter」という一言が入っていたのです。「選挙が大事なのですよ」と。つまり今回の大統領選挙でトランプ大統領を引きずり下ろさないと、こういうことが繰り返されるのだということが、彼らや彼女たちの主張になって来ている。「Black Lives Matter」というのは、さらにその延長線上に「Elections Matter」というものがあるということを念頭に置かないと、今回の動きの本質が見えて来ないのです。アメリカでは抗議というものは、正当な権利で認められています。「抗議のし過ぎだ」という反対が出にくい環境ではあるのだけれども、そこを使ってElections Matterの動きが出て来ている。ですから、冒頭で申し上げたように、すべて11月の大統領選挙に直結するので、収束の見通しの立ちようがないのです。

飯田)収束して欲しくないわけですよね。

須田)収束して欲しくない勢力がいるということです。

米東部ニューヨーク市で行われた、白人警官による黒人暴行死事件の抗議デモ。元警官全員が訴追されても各地でデモが続いている=2020年6月3日 写真提供:産経新聞社

ヒラリー・クリントン氏が流すフェイクニュース〜これがアメリカの政治状況

飯田)トランプ大統領の発言1つ1つがすべて、大統領選挙に向かっているのだと言う人がいますが、反トランプの人たちもこうやって、大統領選挙に直結しているということなのですね。

須田)先ほどヒラリー・クリントンさんのツイッターを見たと言いましたけれども、驚いたのは、2枚の写真をあげていたのです。1つはオバマ政権時代に綺麗にライトアップされているホワイトハウス。「こんなに平和ですよ」というイメージを出しています。次に真っ黒な、まったくライトアップされていない闇に沈んだホワイトハウス。これが5月31日、つまりトランプ大統領がバンカーに逃げ込んだ日なのだとしています。こんなに不穏で暴力に支配されているホワイトハウスでいいのかと。実はこの写真について、おかしいということでAP通信社がファクトチェックしたのです。そうしたら闇に沈んだホワイトハウスは、オバマ政権時代にライトアップされる前に、一旦電気を落としている写真だったということがわかったのです。

飯田)その写真を詳しく調べてみたら。

須田)つまりヒラリー・クリントンさんのような人も、フェイクニュースを流してトランプ大統領攻撃をやっているのだということです。それがいまのアメリカの政治状況だということは、頭の片隅に入れておくべきではないかと思います。

飯田)そうやって、写真の印象だけで釣って行くということですからね。

30日、黒人男性が白人警官に暴行され死亡した事件に抗議し、デモ行進する人々=2020年5月30日 米西部カリフォルニア州(ゲッティ=共同) 写真提供:共同通信社

「トランプ大統領vs抗議」という構図に落とし込んで行こうとする動き

須田)かつてはネガティブ・キャンペーンという、1つの政治手法のカテゴリーとして入っていたのだけれど、それを遥かに上回っていて、フェイクキャンペーン化しているのです。ですからいまのアメリカで起こっている構図は、黒人の方が警官に殺されたという側面が強く、不幸にも亡くなられました。それに対する抗議が起こって来た。抗議の矛先はどこに向かっているのかと言うと、トランプ大統領です。「トランプ大統領vs抗議」という構図に、どんどん落とし込んで行こうとする動きなのだということです。

2月11日、米サウスカロライナ州の集会で演説するバイデン前副大統領(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

フェイクニュースが大統領選にどういう影響を与えるか

飯田)これが実際の大統領選挙にどう影響するのでしょうか?

須田)反トランプ派は反トランプリベラルと言われるのですが、もちろんトランプ大統領と大統領選挙を争っている民主党と、ほとんどの大手オールド・メディアです。ですから、そこは若干フェイクニュースに加担しているという部分もあるので、報道の額面通りに支持の推移は見られない。だからといって優位と言うつもりはありません。ただ大いに劣勢かと言うと、そこも割り引いて見る必要があるのではないかと思います。いずれにしても、大手メディアがトランプ大統領の足を引っ張ろうとして、ある種この抗議デモを通じてキャンペーンを張っていることは間違いない。これが有権者にどの程度のマイナス影響を及ぼすのかということも、見て行かなくてはいけないのだろうと思います。

飯田)一方で、民主党の方の大統領候補はバイデンさん。この方が黒人層に対する発言で失言があったということも伝えられていますが、どこまでこれが影響するのか見えないですね。

須田)そういう問題については、ほとんど報道されないのです。しかし、インターネット上でそういう情報はすぐに拡散しますから、これは蓋を開けてみないとわからないかなと思います。フェイクニュースにどの程度、大統領選挙が影響されるのか。そういう点では、アメリカ大統領選挙史上初ですよ。

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