トランプ大統領再選ピンチ〜4年前と何が違うのか

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(7月17日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。アメリカの大統領選挙について解説した。

トランプ大統領が選対本部長を降格

アメリカのトランプ大統領は15日、大統領選挙に向けた陣営の選挙運動を統括するブラッド・パースケール選対本部長を降格させた。後任にはビル・ステピエン選対副本部長を昇格させる方針である。トランプ氏は、民主党の大統領候補指名を確実にしたバイデン前副大統領に対して支持率で劣勢に立たされており、体制を一新して巻き返しを図るものと考えられる。

飯田)パースケール氏に関しては、引き続きデジタル戦略を主導し、陣営の上級顧問も務めると明らかにしています。

宮家)一応陣営には残すけれど、実質的には権限をはく奪したということです。しかし、4年前も確か8月の段階で選対の責任者をスティーブン・バノン氏という人に代えて、それで勝ったということになっています。だからトランプさんからすれば、まだ7月になったばかりですから、対外的には「特に追い詰められていると思っていない」と言っているのだと思います。

ホワイトハウスのローズガーデンで行われた、新型コロナウイルスに関する記者会見でのトランプ米大統領 2020年5月11日 ワシントン (Photo by Brendan Smialowski / AFP) AFP時事 写真提供:時事通信社

4年前と違う〜コロナによって馬脚を現したトランプ大統領

宮家)しかし、最近ニューヨークタイムズには、今年は「4年前とは少し状況が違う」という記事が出ています。私なりの理解ですが、4年前の相手はヒラリーさんだった。ヒラリーさんは大統領夫人を8年やって、上院議員をやり、要するにワシントンのエスタブリッシュメントそのものだった。トランプさんは、「自分はアウトサイダーで、あいつらが悪いのだ」、「ディープステート、影の政府が悪いのだ」などと言って、颯爽とデューし、国内の対立を煽り、ワシントン不信の不満層の票を獲得してギリギリで勝ったのです。確かにトランプさんは4年前と同じ戦いをするべきなのかも知れない。バイデンさんも40年くらい上院議員をやっている人で、トランプ支持者から見ればディープステートそのものですからね。しかも、いろいろな逸話のある人です。本来ならば、トランプさんはアウトサイダーとして、4年前と同じ戦術をバイデンさんに対して取ればいいのです。しかも相手はお年ですし、トランプさんは今回もかなりいい勝負ができるのではと思っていたのですが、あれあれ、トランプさんはコロナ騒動によって馬脚を現したというか、いまや4年前とは形勢が変わっているのだろうと思います。

「スーパーチューズデー」で予備選が行われた米カリフォルニア州ロサンゼルスでの集会で、聴衆に笑顔をみせるバイデン前副大統領。スーパーチューズデーで獲得代議員数を積みあげ、「本命」に返り咲いた=2020年3月3日 写真提供:産経新聞社

コロナの影響で得意のカウンターパンチが使えない〜岩盤の支持層にも影響が

宮家)トランプさんのやり方は、ヒラリーさんのときもそうでしたが、ボクシングで言えばカウンターパンチが得意です。敵を挑発して、向こうが打って来るパンチをカウンターで「バシッ」と切り返し、相手を倒すというのがお得意なのです。ところが今回はコロナの影響で、バイデンさんはマスクをして地下室に籠ってしまっている。

飯田)全然出て来ないですよね。

宮家)バイデンさんはコロナの影響で、なかなか大規模な集会が開けないのです。しかも、ネット上でやっている集会はとても評判が悪い。私がもしバイデンさんの選挙参謀だったら、「できるだけ外には出ないでください」と言います。失言されたら困るし、記憶力も低下しているかも知れないし、いろいろ問題があるわけですから。ところが、トランプさんからしたら、相手が出て来ないので得意のカウンターパンチが使えず、以前のように対立を煽ることもできない。しかも4年前と比べて何がいちばん違うかというと、それは今回のコロナ騒ぎで極まったのですが、「このトランプという人は本当に大統領の器なのか、統治能力があるのか」という問題が出て来たことです。確かに「影の政府」に不満はあったけれど、「このトランプという男は仕事をきちんとやらずに嘘ばかりついている」と。そういう世論が浸透して来ているのではないかと思います。4年前に彼を支持していた郊外の白人の女性、それから、白人の労働者層。そういう岩盤の支持層と言われた人たちも、最近の世論調査を見るとトランプさんへの支持が減っています。いまがトランプさんにとって、あまりいい状況でないことだけは確かです。

3日、米アイオワ州デモインの劇場で始まった民主党の党員集会(共同)=2020年2月3日 写真提供:共同通信社

浮動票の動く9月に経済がどうなっているか

宮家)しかし、11月の選挙のことをいま言うのは少し早い。勝敗をいちばん左右する浮動票層が動くのは、夏休みが終わった9月の第1週あたりからです。特に、「そろそろ大統領選挙だな」と思ったときに、「経済がどうなるか」「自分の生活は大丈夫か」ということが最大の関心事になると思います。私はまだトランプさんの形勢が悪いとか、負けるなどと言うことは、少し早いと思います。ただし、状況は4年前よりも悪いかも知れない。4年前だってトランプさんの状況は、決してよくはありませんでしたが。

飯田)トータルの票数で言ったら。

宮家)当時は最後まで、みんなヒラリーさんが勝つと思っていました。蓋を開けたら驚いてしまったのですけれど、今回もそれがないとは言い切れない。4年前の苦い思い出があるので、決め打ちは難しいですが、同じことが起きる可能性も残っているのではないかと思っています。

米東部ニューヨーク州オールバニーの州議会議事堂前で、経済再開を求めデモを行う人たち。参加者は「貧困はウイルスよりも恐ろしい」などと書かれたプラカードを掲示した=2020年5月1日 写真提供:産経新聞社

コロナによる景気低迷から反転するタイミングと大統領選が合えば、トランプ氏にも勝機はある

飯田)経済の点から言うと、不思議なことにダウ平均の株価だけはさほど下がらない。日本もそうですが。しかし、それ以外の実態の部分は、かなり傷んでいることが……。

宮家)実態は相当傷んでいるのではないですかね。8月下旬に、いろいろな企業の統計や数値が出るはずです。それを見てマーケットがどう反応するかも大事ですが、マーケットがどう反応しても、大統領選挙という観点からしたら、あまり影響はありません。それよりも、先ほど申し上げた、浮動票を含めた一般の国民が現状をどのように思うか。彼らの多くは自分の生活のことしか考えていませんから。トランプさんが4年やって、自分の生活がよくなったと本当に思うかどうか。よくなるわけがないでしょう、コロナですから。いまは経済収入を断たれ、失業率も大きく上がっています。しかし、経済ですから、そこは必ず反転するときが来るのです。その経済が上向きになるタイミングと、大統領選挙投票日のタイミングが合えば、トランプさんにもまだ勝機はあると思います。

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