ALS嘱託殺人〜「死」について国会で議論するべき

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(7月27日放送)に中央大学法科大学院教授の野村修也が出演。医師2人によるALS嘱託殺人事件の報道を受け、日本における安楽死議論について解説した。

京都ALS患者嘱託殺人 JR京都駅の改札を出る山本直樹容疑者=2020年7月23日午後2時24分、京都市のJR京都駅 写真提供:産経新聞社

ALS嘱託殺人、医師がメール削除を指示

難病の筋委縮性側索硬化症(ALS)の女性患者(当時51歳)を殺害したとして、医師2人が京都府警に逮捕された嘱託殺人事件で、元厚生労働省技官の医師・大久保愉一容疑者(42歳)が事件に関するやり取りをパソコンから削除するよう女性に指示していたことが、捜査関係者への取材でわかった。

飯田)また、もう1人の山本直樹氏は海外の大学の医学部を卒業したことにして、医師免許を不正に取得した可能性もあるということです。いろいろなことが出て来ましたが、事件が発覚したときは、安楽死議論との結びつきで展開するメディアが多かったように思います。どうご覧になりますか?

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」

今回の事件は単にアルバイト感覚で行われた殺人にすぎない〜安楽死の問題とは別次元の犯罪行為

野村)今回の事件そのものを見ると、まったく安楽死ではないし、尊厳死でもなくて、単なるアルバイト感覚で行われた殺人事件です。この事件によって、安楽死の議論をもっと深めなくてはいけない、ということにはならないと思います。

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」

安楽死には「消極的な安楽死」と「積極的な安楽死」がある

野村)ただ、この件とはまったく別に、「日本の安楽死はどうあるべきなのか」ということは、議論しなくてはならないと思います。よく「日本では安楽死は一切認めていない」という言い方をされることがあるのですが、安楽死は大きく分けると2つに分かれていまして、消極的な安楽死と言われているものと、積極的な安楽死があります。消極的というのは、延命治療を止めるということです。延命治療はどこかで止めることが必要になりますから、患者さんといろいろな治療の仕方を相談するなかで、死を迎えて行くということはあります。

飯田)緩和ケアなどは、それに当たるわけですよね。

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」

4要件が揃えば違法性はなくなる

野村)それに対して、「積極的安楽死」と言われているのは、薬などを投与することによって命を絶つという行為ですけれども、これは基本的には殺人罪です。しかし、犯罪となるかどうかは、違法性があるかどうかということで決まります。その違法性の判断基準として、4要件が示されています。どのようなものかと言うと、「患者さんが耐え難いくらいの痛みを感じているか」ということです。それから、「死期が迫っている」ということ。次が大事なのですけれども、「他の手段が取り得ないくらい治療を尽くしたか」ということです。そして、もう1つが「ご本人の同意」。この4つが揃えば違法性がなくなるという考えを裁判所も示しているので、法律的にはこの要件を満たしていたかどうかが問題となります。お医者さんが本当に真剣に患者さんと向き合っている場面のなかで、ギリギリの選択があり得るということは、裁判所も認めていることです。その上で今回の事件を見てみますと、まったく質感が違います。特に主治医でも何でもない人が、どうして治療を尽くしたと言えるのか。それを1つ取っただけでも、無責任極まりないということがはっきりしています。そういう意味での安楽死問題とは別次元の犯罪行為として、この事件を見なくてはならないと思います。

飯田)今回の件では、この女性患者がブログやSNSで、自分の置かれている状況をかなり訴えていた。本人の意思の部分は、ある意味で確認はできるのかも知れないけれど、プロセスとして踏むべきことをまったく踏まなかった。お医者さんも、それに対してのアドバイスなどがなかった。ブログなどを見ると、「緩和ケアというと末期がんの話ばかり出て来るのが納得いかない」というような記述もあります。この辺が議論のとば口になるかも知れませんね。

野村)やった人たちの行為がよかったのかどうかという話には、まったくなりません。問題なのは、患者さんのお気持ちが、先ほど申し上げた4要件でしっかりと受け止められていたのかどうかを、議論しなければならない。ただ、やはり苦しみながらも、最後の死の迎え方は簡単に決められるものではありませんから、ここはもっと熟議を尽くさなければならないところであって、こんな事件が起こったから極端な軽い議論の仕方として、「こういう事件は日本が安楽死を認めていないから起こるのだ」というような、逆に医者を称している彼らの行為自体を正当化するような議論は、絶対にしてはいけない。そこは切り分けなければいけないと思います。

京都・ALS女性患者嘱託殺人事件 医師2人を逮捕 容疑者京都府警に移送 JR京都駅の改札を出た容疑者=2020年7月23日午後2時24分、京都市のJR京都駅 写真提供:産経新聞社

山本容疑者は不正に医師免許を取得か

野村)今回の容疑者の1人は、医師免許自体も不正に取得したのではないかと言われています。

飯田)山本容疑者については、そのような報道も出ています。

野村)報道ベースではありますけれども、厚生労働省で技官をやっていたときに、医師免許の試験に関する業務に携わっていたため、どうも抜け道を知っていたのではないか、或いはそういったものに協力していたのではないかということも言われています。医師免許を与えるときに、外国の医学部を出たというのも一応は認めているのだけれども、それについては厚生労働省の審査が必要なのです。この審査が十分に行われていないのではないかという疑問も出て来るので、しっかり議論しなければいけないと思います。

飯田)いろいろな論点が出て来たので、議論が拡散するような部分がありますけれども、1つ1つ切り分けて絞って行かなければならない。これから高齢化が進むなかで、最後にどのように命を看取って行くのか、エンディングをどうするのかということは、もっと掘り下げなくてはなりません。タブー視されるようなところはありますが。

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」

死をどう位置付けるか〜国会で議論すべき

野村)その問題について、海外では立法を試みてやっているのです。裁判所は、起こった事件に対する判断をするところで、一般的な制度をつくるところではありません。いま私がご紹介したものも、ある事件についての判定基準でしかないわけですから、この世の中で実際に何をルールにするかということは、やはり民主的統制の取れている国会という場所でしっかりと議論しながら、国民の総意の下にルールをつくることが大事です。この事件とは切り離して、高齢化社会を迎えているなかで、日本という国が死をどうやって位置付けるべきなのか、真剣に議論して欲しいと思います。

飯田)がんについては、「がん対策基本法」というものがあります。自らもがんに苛まれていた、当時の民主党の山本孝史議員が尽力されて、最後には超党派でつくったということがありました。ALSもそうですし、命そのものをどう取り扱うのか、柱のようなものが必要になります。

野村)超党派というところがキーワードだと思います。国民の総意を拾い上げることが大事なので、ぜひ議論を進めて欲しいと思います。

【政治 臨時国会召集】参院本会議に臨むれいわ新選組の木村英子(左)と舩後靖彦=2019年8月1日午後、国会 写真提供:産経新聞社

いろいろな専門家や患者の声も聞きながら立法化するべき

飯田)安楽死が進んでいる諸外国も、キリスト教的な価値観など、宗教の裏打ちがあるではないですか。そうすると議員さんもそうですが、知識を持っている人たちや放送、宗教哲学の分野の人も、本当は一緒になってやらなくてはいけないですよね。

野村)そうです。法律をつくるときには通常、審議会が開かれます。その審議会のなかでもっと議論を深めて、いろいろな専門家の人たちや、患者さんの代表の方々の声も聞きながら立法化することが大事だと思います。

飯田)れいわ新選組の舩後議員が、「『死ぬ権利』よりも『生きる権利』を守る社会にして行くことが大切だ」とコメントしています。尊い言葉ですね。

野村)生きづらい社会なのだとすれば、そちらを改善することが、まずは大事なのではないかと思います。

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