レバノン大規模爆発〜背景にある政治指導層の無策

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(8月6日放送)にジャーナリストの鈴木哲夫が出演。電話ゲストに国際政治学者の高橋和夫を招き、レバノンの首都ベイルートで起きた大規模爆発について解説した。

レバノンで大規模爆発=2020年8月4日 写真提供:時事通信

レバノンの首都で爆発、死傷者は5000人超に

中東レバノンの首都ベイルートの地元メディアは、現地8月4日夕方に起きた大規模な連続爆発事件について、死者は135人以上、負傷者は5000人以上になったと報じている。

飯田)6日の朝刊では詳しく報じているところもかなりありますが、首都ベイルートでは広範囲にわたる被害が判明して来たということです。ここで国際政治学者の高橋和夫さんに、今回の爆発について電話でお話を伺います。高橋先生、おはようございます。

高橋)おはようございます。

花火が爆発物に引火〜政治指導層の無策に国民の怒り

飯田)今回の爆発はどうご覧になりましたか? テロではないか、とも思ったのですが。

高橋)私も一瞬テロだろうと思い込んだところがあったのですが、規模があまりにも大き過ぎます。こんなに人を殺して得になる人は誰もいないということで、事故かと思い始めました。

飯田)なるほど。あまりに規模が大きすぎるわけですか?

高橋)そうですね。これまでは車を吹き飛ばすとか、アメリカ軍の宿舎を吹き飛ばすなどということはありましたが、今回の爆発は本当に街1つを吹き飛ばすようなものです。現地からの報道によると、広島の悲劇の小型版だというような報道も流れています。

飯田)現場では、何もなくなってしまったかのような映像が出ていますからね。

高橋)最初に花火工場の事故だと伝えられました。花火が燃え始めて、そばに置いてあった爆発物が発火したということだと思います。映像でも最初に小さな火が燃えて、その後、大きな火になりますからね。

飯田)しかし、どうして花火の横に、こんなにたくさんの爆発物があったのですかね?

高橋)もう6年も前からここに置いたままにしていて、担当の人は危ないから何とかしようと当局に何度も訴えていたのに、何もしてくれなかったということです。国民の怒りは、そんな政治指導層の無策に向けられています。

悪化した経済にコロナ、そして今回の事件〜政治家が無能だという国民のやるせなさ

飯田)レバノンの政情なのですけれども、6日の国際面などを読むと、不安定さに拍車がかかるというようなことが書いてありますが、実際はどうなのですか?

高橋)それは各紙指摘の通りで、そもそも経済が悪い。そこにコロナがやって来て、ますます悪くなる。そのなかでこの事件ですよ。経済が悪いということで、政治指導層に対する国民の抗議運動が高まっていたのですが、ここでまたかと。やはり政治家が無能なのだという、レバノンの人もやりきれない気持ちだと思いますね。

飯田)我々素人は中東というと、宗派対立が各国であるようなイメージがありますが、レバノンという国はどうですか?

高橋)まさにキリスト教徒、イスラム教徒などが、18くらいの宗派に分かれていて、それぞれのコミュニティが力を持っています。ですから力の強い中央集権国家というより、幕末の江戸幕府のようなもので、江戸には将軍様がいるけれど、薩摩もいれば長州もいるというような形です。悪いことに、それぞれが外国と結びつき、イスラエルやイラン、シリア、トルコなどの影響力が入って来て、各国の草刈り場になっているような状況ですね。

飯田)なるほど。爆発直後にイスラエルが「やっていない」という声明を発表したのは、そういうところがあるわけですか。

高橋)そうですね。これまでにイスラエルは何度も爆撃をしているし、暗殺もしています。いろいろなことをしているので、まずみんなが思ったのは、こんな大規模なことをやるのはイスラエルだと、イスラエルの方を向いたのですが、イスラエルは「うちではないよ」と。

飯田)スタジオには、ジャーナリストの鈴木哲夫さんもいらっしゃいます。

政権交代ではなく、システムを取り替えて政治指導層に辞めて欲しい〜誰がやるのかのシナリオが見えない

鈴木)おはようございます。いまの政権は持ちますか? 難民問題を抱えていて、そこへコロナもあった。そして、このようなことが起こってしまった。先ほど伺いましたが、なぜこのような危険なものを置いていたのかという、政権への批判もあります。この間、政権が変わったけれど、それもいつまで持つのかという感じがありますが、どうなのでしょうか?

高橋)国民としては、政権が代わって欲しいということですが、次に出て来そうな顔ぶれを見ても、同じ人がぐるぐると椅子取りゲームをやっているような状況です。ですから国民としては、政権交代というよりシステムを取り替えて、政治指導層みんなに辞めて欲しいと思っているのですが、では誰がやるのかというシナリオが見えない。不満は高まっているけれど、そこからどうやって出て行くのかが見えないというところが、レバノン人の悩みでしょうね。

カルロス・ゴーン被告と妻のキャロル・ナハス =2020(令和2)年1月14日、ベイルート(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

レバノン在住のカルロス・ゴーン被告は?

飯田)レバノンのベイルートというと、思い出すのはカルロス・ゴーンさんなのですが、何か情報はありますか?

高橋)ゴーンさんもおそらく、海岸近くのいいところに住んでいたと思うので、それなりの被害があったと思います。ブラジルの新聞では、負傷などという重大なことにはなっていないと伝えています。レバノンはお金持ちだけがいい思いをする社会ですから、ゴーンさんはそちらの方に入っていて、いい生活をしているところに少し風が吹いたな、くらいだと思います。

経済再開して新型コロナが収まらない状況の中東

飯田)せっかくの機会なのでお伺いしたいのですが、中東全体を見て、コロナウイルスの感染拡大はどういう状況なのでしょうか? あまり日本では伝えられていないのですが。

高橋)コロナウイルスが拡がり始めて、最初は厳しくロックダウンをして対応していたのだけれども、経済を動かさなくてはという国民の要求が強く、警戒を緩めたいま、収まりがつかない状況です。中東でいちばん医療水準が高いイスラエルでは抑え込んでいたのですが、ここへ来てイスラエルでもコロナが拡がり、首相は何をやっているのだと、アラブ人もユダヤ人も苦しんでいるという状況です。

飯田)ネタニヤフさんは、首相に何とか収まったばかりですよね。

高橋)そうなのです。この間の選挙で何とかしがみついて、汚職疑惑があったのですが、今回のコロナで裁判などやっている状況ではなくなってしまった。コロナに救われた唯一の政治家だったのですが、いよいよコロナで危なくなって来ましたね。

飯田)イランはどうですか?

高橋)イランは中国との関係が近いこともあって、早い段階からコロナが入って来ていたのです。しかし総選挙が近く、コロナが拡がったとなると投票率が下がりますから、政府はそれを黙っていました。それもあって感染が拡大してしまい、やはり国民の間で、政府は何をやっているのだと批判が出ています。

飯田)各国が足元に不安を抱えているわけですね。

高橋)そうですね。コロナがなくても不安定なのに、ますます不安定になっている状況です。世界中が自国のことで忙しいので、中東の報道が少なくなっていますが、決して平和になっているとか、幸せになっているという状況ではありません。

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