マーダン・ギャパー〜中国によるウイグル族への人権弾圧は日本人も考えるべき問題

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(8月7日放送)に元内閣官房参与で前駐スイス大使、現TMI総合法律事務所顧問の本田悦朗が出演。中国の収容所内部を撮影して話題となっているウイグル人男性の動画について解説した。

新疆ウイグル再教育キャンプと思われる施設=2019年6月2日 写真提供:時事通信

ウイグル族のマーダン・ギャパーさんが中国の収容所の内部を撮影

マーダン・ギャパーさん(31)は、ウイグル人でありイスラム教徒の男性で、仕事はモデル。この男性が撮影した動画が、いまニュースになっている。イギリスの放送局BBCはこのほど、ウイグル人のマーダン・ギャパーさんが中国新疆ウイグル自治区の強制収容所内で、携帯電話で撮影したとする動画を入手した。ギャパーさんの家族がBBCに提供したこの動画では、窓に鉄格子のはまった部屋のなかで、ギャパーさんが左手をベッドに手錠でつながれている様子が映し出されている。中国政府が「再教育施設」と呼ぶ場所には、過去数年間で100万人ものウイグル人が拘束されたとみられている。

飯田)当然こういうものが出るとなると、ギャパーさんご本人の身の危険というところもあるのですが、親族の方はインタビューで、「それであっても国際的な目で救い出さなくてはならないので、リスクを背負ってでも公開した」と答えています。

本田)そうですね。よく映像を外に出せましたね。これがきっかけになって、いろいろな問題提起ができればという気がします。

飯田)この中国の問題ですが、BBCは駐英中国大使に、ウイグルの人が目隠しをされて列車に乗せられている映像を見せ、迫ったりもしています。

外国による香港への干渉を決して許さない駐英中国大使 15日、英ロンドンで記者会見を開いた中国の劉暁明駐英大使=2019年8月15日 写真提供:共同通信社

中国によるウイグル族への人権弾圧は日本人も考えなくてはいけない問題

本田)ワシントンD.C.にある世界銀行で、ソ連が崩壊した後、中央アジアを担当していたことがあります。ウズベキスタン、カザフスタン、トルクメニスタン、アゼルバイジャン、キルギスという国を担当しました。あの辺りを駆けめぐって、国づくりを手伝っていました。その世界銀行から出張するグループのメンバーに、生まれがウイグルで、民族的にはウズベキスタン、パスポートが中国人……ですから国籍は中国で、高校・大学での教育はアメリカという女性がいらっしゃって、一緒に中央アジアを手伝っていました。ウイグルというのは、言葉や文化はトルコに近く、中国とは文化もまったく違います。人権弾圧が問題ではあるのですが、ともすると日本では内政問題というか、内政干渉をしてはいけないという自己抑制が働いてしまいます。そうではなくて、中国内部の人権問題に我々はもっと関心を持つべきです。ウイグルだけではなく、チベットでも人権弾圧が起こっていて、その問題を解決する1つの論理として、緒方貞子さんが提唱された「人間の安全保障」というものがあります。普通、安全保障というのは国家の安全保障なのですけれど、国家がうまく機能していないときに、「直接、国際的な救済の手を差し伸べましょう」ということは、まさに人間の安全保障の発想なのです。ですから、我々も真剣に考えなくてはいけない問題だと思います。

人民大会堂で、政府活動報告を聴く中国の習近平国家主席(中国・北京)=2020年5月22日 写真提供:時事通信

サプライチェーンに組み込まれている中国企業の関連会社に人権侵害に加担している企業が含まれていれば、日本企業も関わっていることになる

本田)特に日本の企業は、中国にサプライチェーンを持っています。中国企業とたくさん密接な関係を持っているので、サプライチェーンの企業自身が人権を侵害しているのは問題外ですが、サプライチェーンに組み込まれている中国企業の関連会社には、人権侵害に加担している企業が含まれているかも知れない。それが将来、知れ渡ってしまうと、当該の日本企業が国際的な批判にさらされる。いわゆるレピュテーションリスク、評判リスクというものにさらされてしまうということを、日本の経営者は十分注意するべきだと思います。

飯田)オーストラリアのシンクタンクが、ウイグルの人権弾圧に関わっている世界的な企業を発表しました。日本企業も入っています。

本田)入っていますね。

「中国式法治」香港に拡大 中国の習近平国家主席を映す北京市内の大型ビジョン=2020年5月(共同) 写真提供:共同通信社

中国の存在に敏感になっているオーストラリア・ニュージーランド

飯田)こういう人権問題に対して、欧米諸国はより一層敏感になって来ているのですか?

本田)非常に敏感ですね。特にオーストラリア・ニュージーランドは敏感になっていて、人口の比率からしても、オーストラリア・ニュージーランドの中国系の人の比率が高まって来ています。それが国政を動かすという状況も、そう遠くないのではないかというほど影響を受けています。首相もアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、日本に呼び掛けていますが、連帯して中国とどう対峙するかを考える、そういう時代になって来ました。

飯田)このところ、『Silent invasion〜目に見えぬ侵略』という本が売れています。あれを読むと、いかに巧妙に中国がその国の政治に入り込んで行くかが見えますよね。

飛鳥新社『目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画 Kindle版』著:クライブ・ハミルトン(画像はAmazonより)

中国の世界支配の道具として「一帯一路」が使われている〜それに乗ることは危ないということが各国わかって来た

本田)中国自身も相当な危機感を持っていて、やはり外貨が足りないのです。以前は資金流出、資本逃避が起こっても、経常収支黒字でカバーできていたのです。しかし、米中の貿易摩擦で経常収支黒字が減ってしまった。そこに中国の特権階級が資本逃避をして……国債の収支上、誤差脱漏という名前で出て来るのですが、よくわからない……それがどんどん出て行ってしまって、外貨が足りないのです。にも関わらず、一帯一路という戦略を維持していますので、スリランカのハンバントタ港、ギリシャのピレウス港、イタリアのトリエステ港など、地中海の港を押さえようとしているのです。そして資金を貸し付け、返せなかったら99年の租借権と、主権の制限をするのです。これは国際法違反です。もし返せなかったら普通は猶予があるのですが、それをすべて無視して中国の利権を世界に広げようと、つまり中国の世界支配の1つの道具として、一帯一路が使われているのです。それにみんなが気付き始めました。どこの国も資金が足りず、インフラが大事です。しかし、中国の図式に完全に乗ってしまうと危ないということが、最近わかって来たのではないかと思います。

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