新型宇宙船に日本人まもなく搭乗、宇宙開発は新たなステージへ……

「報道部畑中デスクの独り言」(第203回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、民間企業スペースXの宇宙船「クルードラゴン」帰還のニュースを受け、新たなステージへ向かう宇宙開発について—

8月6日 ヒューストンでオンライン合同取材に臨んだ星出彰彦宇宙飛行士(JAXA提供)

「Splash Down!」

アメリカ・NASAテレビの映像から、パラシュートのついた円すい形の物体が、フロリダ州沖のメキシコ湾に“着水”する場面が映し出されると、管制室から大きな拍手が聞こえました。

民間企業スペースXが開発した宇宙船「クルードラゴン」による、初めての有人宇宙飛行。2020年5月31日、ダグラス・ハーリー、ロバート・ベンケンの2人の宇宙飛行士を乗せて打ち上げ。国際宇宙ステーションでは、バッテリーの交換作業を行いました。

バッテリーは先に補給機「こうのとり9号機」が運んだもので、日本製のリチウムイオン電池です。

クルードラゴン着水の瞬間(NASAテレビから)

それから2ヵ月あまり。日本時間の8月3日午前3時40分過ぎ、2人を乗せた宇宙船が無事帰還したというわけです。ちなみに、クルードラゴンには着陸の衝撃を緩和するエアバッグは搭載されておらず、帰還は海に着水して行う設計になっています。

帰還して海に浮かぶ宇宙船は、海面から姿を出すサメのようにも見えました。上空から見た映像では、周囲に多くの船が……見物でしょうか?

その後、収容船に“えい航”されて船内に滑り込みます。新型コロナウイルスの影響で、ハッチを開ける作業は作業員がマスクを着けた厳戒態勢で行われ、約1時間後、ハッチが上に開き、宇宙飛行士が姿を見せました。

アメリカのスペースシャトルが退役してから約9年。この間、国際宇宙ステーションへの有人宇宙飛行は、ロシアのソユーズ宇宙船に限られていました。

クルードラゴンの船内 ハイテク感漂う(NASAテレビから)

ソユーズの1人あたりの往復運賃は、日本円で80億円あまりとされています。運賃はシャトル退役後うなぎのぼりで、アメリカでは独自の宇宙船の開発が急がれていました。

開発にしのぎを削っていたのは、民間企業のスペースXとボーイングの2社。しかし、2015年にも行う計画だった有人宇宙飛行は遅れに遅れました。

スペースXの「クルードラゴン」は、昨年(2019年)3月に無人による国際宇宙ステーションの往復を成功させたものの、翌月、作業中に爆発のトラブルが発生。

ボーイングの「スターライナー」は、昨年12月の無人飛行による地上への帰還は成功したものの、ステーションへのドッキングは断念しました。こちらの有人宇宙飛行の実現は、さらに先になりそうです。

宇宙開発の難しさを示す5年間でしたが、そういったなかでのクルードラゴンの有人飛行、帰還はまさにアメリカの「悲願」だったと言えます。

海面に浮かぶクルードラゴン(写真中央 NASAテレビから)

今回の宇宙船は「試験機」。今後はNASA=アメリカ航空宇宙局が、安全性を入念に評価します。具体的には飛行中のデータの分析、生命維持装置、パラシュートの機能などに異常がないかどうかを精密に調べ、認証審査がクリアされれば、晴れて本格運用「1号機」として打ち上げられることになります。

フライトを担うのは4人、その1人が日本人宇宙飛行士の野口聡一さん。試験機帰還後の記者会見で、野口さんは「過去の経験はあるが、スペースXでは新人だ。仲間との訓練を通じ、多くを学んでいる」と話しました。

野口さんは今回の飛行が実現すれば、スペースシャトル、ソユーズ、クルードラゴンの3つの宇宙船の搭乗を経験することになります。

そして、クルードラゴンにはもう1人の日本人の飛行が控えています。それは、星出彰彦さん。来年(2021年)春ごろに打ち上げられる2号機に搭乗する予定です。

日本時間の8月6日午前にオンラインで開かれた合同取材では、「新しい時代の到来を肌で感じている。そのなかで宇宙飛行士として活動できることは、非常に光栄でわくわくしている」と心境を語りました。

収容船に”えい航”されるクルードラゴン(NASAテレビから)

試験機が帰還するときも、不安はなかったと言います。ヒューストンの近くでテレビを見ていた星出さんは、「(帰還は)非常にスムーズで、私がなかにいたらどういうことをやっていたのかなと思いながら見ていた。同じクルードラゴンに乗れることが、さらに楽しみになった」と言っていました。

訓練はこれから本格化して行くということですが、星出さんの頭はすでに“臨戦態勢”に入っているようです。星出さんは、国際宇宙ステーションでは船長を務めます。

今回のクルードラゴンには、2つの意味があります。1つは前述の通り、アメリカが9年ぶりに“自前”の有人宇宙飛行の手段を手にしたこと。

アメリカ、ロシアとは別に、中国が「神舟」による有人宇宙飛行を着々と進めているなか、来たる宇宙開発競争への大きな足掛かりになって行くでしょう。

宇宙飛行士が姿を見せる 新型コロナウイルスの影響で作業は厳戒態勢だった(NASAテレビから)

そしてもう1つは、有人宇宙飛行に民間企業が参入したこと。まだまだNASAのサポートが必要なものの、NASAは国際宇宙ステーションがいる「低軌道」は民間に任せ、月や火星の探査へ軸足を移したい考えです。

一方、民間企業の本質は利潤をあげること、つまり有人宇宙飛行を含む宇宙開発が、いよいよ利益を生むビジネスになって来たことを意味します。

いわゆる「宇宙旅行」にも現実味が出て来ました。星出さんはこうした状況を「新しい時代」と表現し、「職業宇宙飛行士だけが宇宙に行く時代ではないし、そうあってはならない」と話します。

帰還後の記者会見で野口聡一宇宙飛行士(写真最右 NASAテレビから)

日本のJAXA=宇宙航空研究開発機構は独立行政法人、星出さんはスペースXなどのベンチャー企業について、「フットワークの軽さ」を感じたと言います。

また、野口聡一さんは昨年のニッポン放送の番組で、民間の宇宙船に搭乗することについて、「国の宇宙政策だけではないなかで、プロの宇宙飛行士としてどうからめるのか」と、高い関心を寄せていました。

JAXAの宇宙飛行士と民間企業が、どんな「化学変化」を起こすのか……クルードラゴンの展開は、そんな視点でも注目です。野口さんが搭乗するクルードラゴン運用1号機について、NASAは10月下旬に打ち上げる予定と発表しています。(了)

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