トランプ大統領の元側近逮捕〜大統領選への影響は?

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(8月21日放送)に慶應義塾大学教授で国際政治学者の中山俊宏が出演。トランプ大統領の首席戦略官だったスティーブン・バノン氏が詐欺容疑で逮捕されたニュースについて解説した。

2017年の保守政治活動協議会にて(スティーブン・バノン-Wikipediaより)

トランプ大統領の元側近が詐欺で逮捕

アメリカ司法省は8月20日、オンラインを通じた募金で多額の金を騙し取ったとして、トランプ大統領の首席戦略官を務めたスティーブン・バノン容疑者ら4人を逮捕したと発表した。バノン容疑者らは2018年ごろから、対メキシコ国境への壁建設を謳い文句にインターネットを通じたクラウドファンディングで資金を募集し、数十万人から合わせて2500万ドル、日本円にしておよそ26億円以上を集め、私的に流用していたとみられている。

飯田)共和党全国大会が間近に予定されているタイミングで、いろいろな憶測を呼んでいますが、いかがですか?

米疾病対策センター(CDC)を視察するトランプ大統領=2020年3月6日、米ジョージア州アトランタ(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

純粋なトランプ主義者であったバノン氏〜大統領選に影響は少ない

中山)トランプ大統領の元側近や、元トランプ政権に入っていた人が捕まるのは初めてではないので、その点については驚きはありません。しかし、バノンさんという人は、トランプ大統領以上にトランプ主義を代表した人です。トランプ大統領は明確に政策理念があるわけではないのですが、何となく雰囲気がある。その雰囲気を言語化してトランプ主義に高めていたのが、バノンさんという人なのです。直接、トランプ政権の政策に携わっているわけではありませんが、トランプ主義を象徴しているような人物ではありました。また、この人はある意味でかなり踏み込んだトランプ主義者ではありますが、お金に汚いという感じの人ではないと思っていたので、こういう不正があったのは意外な感じがしました。

飯田)もっと純粋に、政治活動に没入している感じが。

中山)賛同はできませんが、政治理念で動いている人だと思っていました。

飯田)これまでお金に関する話が出ると、ファンドなどで働いていたりということが経歴を見るとありますが、そんな感じはなかったですよね。

中山)グローバルな反トランプ連合のようなものをつくろうとして、イタリアを拠点にいろいろと動いているので、お金が必要だったということはあるかも知れません。まったくの想像ですけれど、私腹を肥やすというより、そういう運動の資金だったのだろうという推測はできます。トランプ再選のロジックにどういう影響を与えるかということですが、距離をおいていて、政権を辞めてしばらく経っていますから、直接的にマイナス影響が出ることはないと思います。

飯田)そうすると、トランプさんとしては、いまのところコメントを出すということもないし、積極的に関わって行くような感じでもないと。

中山)トランプ大統領は厳しい状況にあると思いますが、この問題で極端に厳しくなるということはないですね。いまはコロナと人種をめぐる騒動を中心に選挙が推移していますので、バノン氏の逮捕でどちらかに大きく傾くことはない気がします。

2月11日、米サウスカロライナ州の集会で演説するバイデン前副大統領(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

トランプ大統領の狙いはバイデン氏の高齢による弱点と民主党の左傾化

飯田)最近は中東情勢など、トランプさんは外交の方でアピールしているように見えますが、どうですか?

中山)国内のコロナのハンドリングと、人種問題のハンドリングが厳しいので、UAEとイスラエルの件は、外交で突破口を開くという要素があったのかも知れませんが、特にイスラエルとUAEの件で大きく支持の構図が変わることは考えにくいですね。それから、もう1つの外交案件だと、「自分の方がより中国に厳しい、タフだ」ということをアピールしています。アメリカ国民のなかでも、中国がアメリカにとって大きな脅威であるという意識が高まりつつあるので、バイデン政権には任せられないというのが、トランプ陣営側のストーリーです。しかし、民主党も全体的に中国に対して厳しくなっていますから、どこまで構図を変えられるかと言うと、そこも若干疑問が残る感じがします。トランプ大統領としては、もっぱらカマラ・ハリスさんを任命したことによる民主党の左傾化と、バイデンさん自身に対する不安を煽ろうとしている状況なのではないでしょうか。

飯田)資質の部分で疑問があると。

中山)そうですね。

飯田)外交で攻めて行くより、そちらで。

中山)そこはもちろんコンスタントにやるでしょうけれども、そこで大きく構図が動くかというと、あまり期待できないような感じがしますね。

ホワイトハウスで記者会見するトランプ米大統領(アメリカ・ワシントン)=2020年7月28日 写真提供:時事通信

中国に対するアプローチの仕方が根本的に変わったアメリカ

飯田)バイデンさんは、もともとオバマ政権の副大統領でもあり、外交委員長も長く務めていた。昔の中国に対するアメリカのアプローチの仕方として、関与して行き、経済が安定すればいずれ民主化して行くのだということを、ずっと支えて来た人という評価もありますが、そこに戻るわけではなさそうですか?

中山)2010年代半ばくらいに、アメリカ人の意識のなかで、中国に関するアプローチの仕方が根本的に変わったのだと思います。いまおっしゃったような、「関与して行けば時間はかかるけれど、いずれ変わる」ということを見直さなくてはいけない、という認識が一気に広がりました。これは何も共和党、民主党という話ではありません。共和党のなかにも、基本的には「関与だ」と言う人がたくさんいました。現役から退いた人は「関与は正しかった」と言いますが、まだまだ政策に携わる人は共和党、民主党問わず中国に対して厳しい。もちろん、若干アプローチの差はありますが、やはりアメリカ人の意識のなかにおける中国のイメージが、根本的に変わったと考えていいのではないでしょうか。

中国の習近平国家主席(左)とトランプ米大統領=2020年5月14日 写真提供:時事通信

アメリカの対中政策〜バイデン政権の方が日本は組みやすい

中山)ただ、どのようにタフになるかについては、いろいろなやり方があるので、きちんと日本としても見分けて行かなくてはいけない。トランプ大統領は「中国共産党が本丸で、そこと喧嘩する」と言っているわけです。しかし、そうではないタフのなり方もあるので、そこは日本としても読み解いて行かなくてはいけない部分だと思います。

飯田)バイデンさんのアプローチの仕方だと、少し違う可能性があるかも知れない。

中山)もう少し国際的な連携を重視しながら、中国がこちらに来る余地も残しつつ圧力を高めて行く。日本としては、そちらの方が乗りやすいのだと思います。日本は中国の脅威を感じつつ、それに備えて行かなくてはならないのですが、何も殴り合いの喧嘩をしようとは思っていないので、バイデン政権の対中政策の方がやりやすい。しかし、一方で民主党は常に中国と話そうとするので、「何を話しているのだろうか」と、そこに不安は感じます。

飯田)なるほど。

中山)トランプ政権はある意味で、それをやっていない。全然やっていないわけではありませんが、どちらかというと喧嘩をふっかけているので、日本としては安心しがちです。しかし、そんなに単純な構図ではなく、いまのトランプ政権が追及している「中国共産党が本丸だ」という構図にどこまで日本が乗れるのかという話になると、若干厳しい感じがしますね。

飯田)地理的に近いということもありますか?

中山)中国のこの地域における覇権的な野望は、もちろん大きな脅威ではあると思います。それに対しては備えつつも、中国と何らかの形で、我々の意思を伝えるための対話をする必要があります。どこかで、日米の間で中国に関する認識がずれて行く可能性があるので、そこをきちんとマネージすることが今後の日米関係、日米同盟の管理の最重要課題になるのではないでしょうか。

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