自民党総裁選〜自民党内のパワーバランスのなかでどう日本の舵取りをするか

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(9月2日放送)にジャーナリストの佐々木俊尚が出演。自民党の総裁選について、また、「自民党とは何なのか」という根本的な問題について解説した。

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」

自民党総裁選、岸田政調会長と石破元幹事長が立候補を表明

岸田政調会長)このたび行われます、自民党の総裁選挙に正式に立候補することを表明いたします。

石破元幹事長)このたび行われる自由民主党の総裁選挙、同志の皆様方のご推挙をいただいて立候補する決意をいたしました。

 

岸田文雄政調会長と石破茂元幹事長は9月1日、安倍総理大臣の後任を選ぶ自民党総裁選挙への立候補を表明した。自民党では1日、今回の総裁選について党大会は開かず、両院議員総会での簡易方式で選出することを決定した。菅官房長官は2日にも立候補を表明するとみられている。

会見に臨む菅義偉官房長官=2020年8月31日午前、首相官邸 写真提供:産経新聞社

菅、岸田、石破と3氏立つ〜両院議員総会での選出に決定

飯田)構図が「菅、岸田、石破と3氏立つ」という形だろうということが事実上、決定しました。

佐々木)自民党の総裁選が日本の首相を選ぶこととほぼ同じというのは、55年体制のときの自民党、社会党の時代とまったく同じです。当時は総裁をどう選ぶのか、そこに民主的な手続きが必要かどうかという議論になりました。昨日、一昨日と青年局長の小林史明議員などが党員投票にかなり迫りましたが、執行部がそれをはねつけました。

飯田)小泉環境大臣が乱入して、という報道もありました。

佐々木)過去の事例を見ると、必ずしも党員投票をしているわけではないので、特に今回のような安倍政権の引継ぎ、継承で残り任期1年という状況であれば、党員投票ではなく、両院議員総会で決めるのはあり得ない話ではありません。本来、民主主義的には党員投票となるのかも知れませんが、「自民党党員とは何なのか」という根本的な問題があります。

会見で記者団の質問に答える自民党・岸田文雄政調会長=2020年7月27日午後、東京・永田町の自民党本部 写真提供:産経新聞社

自民党とは何なのか〜地方の保守基盤はもはや消滅

佐々木)自民党の党員数は、平成のはじめは500万人くらいの大人数でした。いまは100万人くらいです。これは戻った方で、自民党がいちばん弱かった民主党政権時代は、70万人台だったと言われています。なぜこんなに減っているかと言うと、かつていた大半の党員は、自民党が地方の保守基盤を中心にしていた時代の農協や医師会、郵便局長会、建設業界などの組織党員が大半だったのではないかと思います。ところが、いまの自民党は地方の保守基盤がないに等しい状況です。戦争が終わったころ、農業人口は約3000万人でした。人口9000万人のうち、3分の1は農民だったのです。いま、農業人口は200万人を切っています。地方の保守基盤は、もはや消滅しています。完全にその時代の風に頼る、都市政党になって来ています。

自民党石破派の政治資金パーティーで講演する石破茂元幹事長=2018年5月30日午後、東京都内のホテル 写真提供:共同通信社

もはやリベラル政党である自民党

佐々木)自民党は保守政党の顔をしています。安倍さんが年末に読んだ本として百田尚樹さんの本を出したり、憲法改正草案に基本的人権より秩序が大事などと書いてあったり、何となくタカ派のイメージを出しています。しかし実際に内容を見ると、第2次安倍政権になった7〜8年間の政策は、大半がリベラル政策です。輝く女性や働き方改革なども含めてです。もちろん、安全保障法制が右翼的だと言う人もいますが、世界の情勢を鑑みれば、そちらに舵を切らざるを得ない状況です。それは野党が政権を獲っても同じことだと思います。そういう意味で言うと、もはや自民党はリベラル政党ではないでしょうか。

飯田)労働組合に代わって、賃上げを交渉しに行ったりしていましたよね。

佐々木)テレビ朝日のABEMAプライムに毎週出ているのですが、昨日(1日)は石破茂さんに生出演していただきました。第2次安倍政権が始まる前の、野党時代につくった憲法改正の草案は過激で、「家族はすべての中心である」とか、「自由や権利は制限が必要で、秩序を優先すべき」などとされていたということです。

飯田)国防軍とか。

佐々木)その草案に対して石破さんは、「あの草案は、そのままで変わっていない」とおっしゃるのですが、「石破さん自身は、あのときと考え方は変わっていませんか?」と聞いたら、「変わっていますね」とおっしゃっていました。近年、稲田さんがLGBTや選択的夫婦別姓に言及していました。石破さん自身も、選択的夫婦別姓がいいと言っています。中身はリベラルの政策を取り込んでいるのです。自民党の鵺(ぬえ)のようなところが強くて、55年体制の昭和の時代も、保守政党でありながら社会的分配のようなものを、田中角栄元首相の地方公共事業で実現しました。右も左もやることを全部取り込んでしまうので、もはや野党の出る幕がないということをやり続けて来たわけです。それがいまの自民党にも引き継がれていて、やはり中身はリベラルです。自民党の総裁をどう選ぶかという話ですが、結局いまの自民党党員は、いるのかいないのかよくわかりません。

飯田)批判的なメディアは「党員投票をやらないから非民主的な決め方だ」と言いますが、100万人足らずの党員で決めるということですね。

佐々木)日本人の人口で考えると、100人に1人もいません。しかもいまの自民党党員は、党執行部が議員に対して「お前たちが何とかして党員を集めろ」と、「1人1000人だ」などということをやって集めているのです。下手をすると、年間4000円の党費を肩代わりして出すこともあるわけで、有名無実な感じがしなくもない。

衆院本会議で、新型コロナ特措法に基づく2020年東京五輪延期についての質疑に答弁を行う安倍晋三首相=2020年4月2日午後、国会 写真提供:産経新聞社

自民党内のパワーバランスのなかでどう日本の舵取りをするか

佐々木)自民党は、党内の派閥争いで民主主義を実現していたということを、55年体制を振り返ってよく言われています。昔、派閥政治は批判されていましたが、結果的に野党ではなく、自民党党内のパワーバランスこそが民主主義の必然だった。これがいいか悪いかは別にして、そういう現実がありました。その状況に、自民党がいま戻りつつあるのかも知れません。そのなかで石破派、岸田派や清和会などがあって、それぞれがどういう形でパワーバランスを取り、多様な価値観や世界観のせめぎ合いをしながら、どう日本の舵取りをして行くのかということを、もう1度、根本から考えなければいけません。これを民主主義と言うのかどうかはわかりませんが。

飯田)いままでは、うまいこと多様な民意を吸い上げて来たのですね。

佐々木)その鵺的なところが、自民党の強さでもありました。そういう派閥的なものをもう1回引き継いで、21世紀的にアップデートし、形を変えてつくり直すのがいいのかも知れません。現状では立憲民主党、国民民主党、または合流新党が政権になる政党に育つかと言えば、期待薄ですよね。そう考えると、非民主的だ、派閥政治だと言われながらも、ある程度そこに期待しつつ、いい民主主義社会、いい日本社会の舵取りが生まれることを期待するしかないと思います。

飯田)逆説的に言えば、自民党が終わらない限り、政治が大きく変わることはなさそうですね。

佐々木)そうですね。

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