安倍政権の功罪 そして総裁選に挑む人々(2)

「報道部畑中デスクの独り言」(第205回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、自民党総裁選に挑む3人の候補者と、それぞれが掲げるスタンスについて—

自民党総裁選の告示日に開かれた記者会見 新型コロナウイルス感染下で各候補は握手ではなく「グータッチ」だった(2020年9月8日撮影)

安倍総理大臣の後継を決める自民党総裁選挙が9月8日に告示され、石破茂元幹事長、岸田文雄政調会長、菅義偉官房長官の3氏が立候補を届け出ました。午前には各候補が出陣式で気勢を上げ、午後には党本部で所見発表演説会、記者会見と慌ただしい時間が過ぎました。

午後1時から開かれた所見発表。候補者3人のネクタイは、左から石破さんが青、菅さんが黄、岸田さんは赤と、奇しくも交通信号と同じ並びとなりました。

記者会見では、3人の並びは逆に。菅さんの優勢は揺るぎない状況ですが、3人のスタンスにははっきりとした違いがみられ、演説そのものは興味深いものがありました。

自民党石破派の政治資金パーティーで講演する石破茂元幹事長=2018年5月30日午後、東京都内のホテル 写真提供:共同通信社

石破さんは「納得と共感」をスローガンに、内需主導を重視した経済への転換を目指します。「ポストアベノミクスの展開」と銘打ち、消費の活性化、都市・地方間の格差解消のための政策を総動員するとしています。

その1つが、経済金融総合対応会議(日本版NEC)の創設。アメリカでは「経済的安全保障」という理念のもと、国家安全保障会議と同じ機能を期待されて、27年前に設立されました。

所見発表では、記者の間で言われている「あてこすり芸」に磨きがかかった感があります。

「少数意見が尊重されなければ民主主義は機能しない」

「政府を謙虚に機能させる政党でなくてはいけない」

「えこひいきがあってはいけない」

「党は党員のもので国民のものだ。国会議員の党ではない」

具体的な言及こそ避けたものの、安倍一強、公文書改ざん問題、モリ・カケ問題、総裁選で党員投票がスキップされたことなどを暗に批判するフレーズが、随所に散りばめられていました。演説では「グレートリセット」「この国の設計図を書き換えて行く」と結びました。

自民党総裁選の出陣式で壇上に上がる菅義偉官房長官=2020年9月8日午前、東京都千代田区 写真提供:産経新聞社

「安倍政権の継承」を明確にしたのが菅さんで、中央省庁の縦割り解消、規制改革、地域活性化に重点を置きます。所見発表では、まず安倍総理への賛辞から始まりました。

「国難にあって政治の空白は許されない」「アベノミクスを今後も継承し、さらなる改革を進める」「最優先の課題は新型コロナウイルス対策」……毎日の官房長官の会見が、そのまま自民党本部に持ち込まれたような印象を受けました。

秋田県で農家の長男として生まれた生い立ちについても触れながら、地方分権の重要さを強調。デジタル庁の新設などは「菅カラー」と言えるものでしょうか。

ただ、7つの派閥のうち、5つの派閥の“みこし”に乗っている現状からか、終始、原稿を目に落としての演説は、「安全運転」がやや鼻につきました。演説が冗漫になり、聞いていた石破さんが途中でスマホをいじる一幕もありました。

ちなみに菅さん自身は、他の候補の演説中、下を向いて表情を殺していました。この辺りが党内や国民にどう映ったのか、気になるところです。

会見で記者団の質問に答える自民党・岸田文雄政調会長=2020年7月27日午後、東京・永田町の自民党本部 写真提供:産経新聞社

岸田さんは「分断から協調へ」と唱え、経済格差是正を訴えています。「国民の声を丁寧にしっかり聞き、政治のエネルギーに変える“聞く力”を再確認して、新しい時代に向かって行かなくてはいけない」と語ります。

一方、安倍政権については評価しながら、「さまざまな課題も浮かび上がって来た」と指摘。アベノミクスについても成果があったとしながら、「成長の果実がいつか中小企業、地方へという期待があった」として、道半ばという認識を示しました。

すべてが「両論併記」、よく言えば「バランス感覚」とも評せますが、「一体どっちなのだ?」と解釈に苦しむことが多いのも岸田節だと思います。

国会や地方議会には、議事進行係という“お役目”があります。国会で通称「呼び出し太郎」と呼ばれ、「ギチョーーッ」「〜されることを望みまーーす!」と叫ぶあれです。

私が国会を初めて担当した1998年、小渕内閣発足時の議事進行係が岸田氏でした。先輩記者から「あれをやる人は、今後出世する人だ」と言われたことを、私事ながら思い出しました。

ニッポン放送「報道部畑中デスクの独り言」

総裁選は両院議員総会で国会議員票394、47都道府県の地方票47×3=141の535票で争われます。地方票は多くで予備選を行い、得票数に基づいて3票分を振り分けることになります。

菅さん優勢と言われるなかでポイントがあるとすれば、1つは「勝ち方」「負け方」、いわゆる「2位争い」。2位か3位かで、次に向けた布石につながるかどうかが大きく変わって来ます。割合が少なくなったとは言え、党員約100万人の意向は、そういう意味では侮れないと言えます。

もう1つは「地方」です。安倍政権は「トリクルダウン」という言葉を使っていましたが、経済対策の恩恵が地方に浸透する前に、新型コロナウイルスが襲って、道半ばに終わっている感があります。

地方の声をいちばんよく聞いていると自負するのは石破さんですが、菅さんは出馬表明会見で、自らの実績として「ふるさと納税」を挙げて来ました。横浜市議からの“たたき上げ”でもあり、地方重視の姿勢を鮮明にして来ており、地方票にどう影響するかが焦点となりそうです。

盤石に見える菅陣営で死角があるとすれば、5派閥の“呉越同舟”でしょうか。先週(9月2日)の菅氏の出馬会見の直後に、麻生・竹下・細田3派の会長が共同記者会見を開きました。今回の総裁選は二階幹事長が「菅優勢」の流れをつくったと言われ、この3人がそろい踏みの図は、二階派への抵抗という見方がもっぱらです。

前述の党員投票のスキップに加え、各派閥の主導権争い、新政権の“猟官運動”が先鋭化すれば、党員の失望感を生み、党勢の衰退がじわじわとボディーブローのように効いて来る懸念もあります。そして、国民の反発にもつながって行くでしょう。(了)

関連記事(外部サイト)