ギンズバーグ判事の死去が与えるアメリカ大統領選への「恐ろしい影響」

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(9月25日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。アメリカ、ギンズバーグ判事の死去が与える大統領選への影響について解説した。

ルース・ベイダー・ギンズバーグ-Wikipediaより

ギンズバーグ判事の死が「オクトーバー・サプライズ」になる

RBGの愛称で広く親しまれたルース・ベイダー・ギンズバーグ最高裁判事が、9月18日に亡くなった。ギンズバーグ氏は27年間にわたる在任中、女性やマイノリティの権利擁護に努め、リベラル派のアイコン的な存在として絶大な人気を誇り、尊敬を集めた。

飯田)映画にもなるくらいですものね。

宮家)直接会ったことはありませんが、知的な素晴らしい女性だと思います。彼女の死は、それ自体が大きなニュースなのですけれども、恐らく大統領選挙にも大変な影響があるのではないかと思います。最近、アメリカの共和党系の友達と、民主党系の友達と久しぶりにウェブ上で話したのですが、彼らは2人とも立場は違うけれど、異口同音に、「これはオクトーバー・サプライズだ」と言うのです。大統領選は4年に1回、11月の第1週に選挙の投票がありますが、その直前の10月に何かすごいことがあって、選挙戦の形勢が一転してしまうということを「オクトーバー・サプライズ」と言います。これまではトランプさんが劣勢です。全体のせいぜい40%強は獲れるけれど、過半数は獲れない。バイデンさんが強い候補だとは思いませんが、あれだけトランプさんに失政が続いていますから、世論調査では民主党の方が強いし、激戦州でも接戦だけれども、民主党の方が強そうだと。これでこのまま11月に突入して行くだろうと、みんな思っていたのです。

女性の権利を訴えるデモ行進で掲げられたギンズバーグ判事の似顔絵(米モンタナ州、2018年)(ルース・ベイダー・ギンズバーグ-Wikipediaより)

ギンズバーグさんによって出た欠員を大統領選の前に補充しようとする共和党

宮家)ギンズバーグさんは癌を患っていて、これまでもかなり危なかったのです。お元気になられたり、また入院したりということを繰り返していたので、まだ大丈夫だろうと思っていたところで遂に亡くなってしまった。日本と違い、アメリカでは、最高裁の判事は大統領が指名して、それを上院が承認するのです。現在9人いますが、保守派が5人、リベラル派が4人です。保守派だけれども、いまの最高裁長官はかなりバランスの取れた人だった。それで司法府への信頼が維持されて来たのですが、トランプさんは選挙のときから、とにかくこの最高裁を変えなくてはいけない、リベラルの連中を追い出さなくてはいけないと言っていたのです。しかし、追い出すと言っても、判事は終身制ですから簡単には追い出せない。そこで、欠員が出たら新しく保守派を入れるという方法を取ったわけです。トランプ政権の時代にこれまで2人判事が亡くなっています。2人とも保守派だったので、保守派を補充した。ところが、リベラルのギンズバーグさんがここで亡くなってしまうと、選挙の1ヵ月前で新たな判事を決めるかどうか自体が大問題になる。4年前に同じような状況になったとき、共和党は上院でオバマ政権指名の候補を承認することに反対したのです。だから、同じように今回も大統領選が終わってからでいいではないか、勝者が決まってから決めさせればいいではないかと民主党は言うのですが、「違う、いまやるのだ」と、まるで4年前が嘘だったかのように、共和党は態度を豹変させています。

ホワイトハウスで記者会見するトランプ米大統領(アメリカ・ワシントン)=2020年7月28日 写真提供:時事通信

トランプ氏に有利となるか、バイデン氏に有利となるか

宮家)民主党にとって最悪の事態は、11月3日の前に、保守派の新しい判事の候補が決まって、上院がそれを承認する。そうすると6対3になるわけです。5対4とはまるで違います。圧倒的に保守が強いでしょう。共和党の、特にトランプさんの支持者は「よくやった」となる。「トランプさんは気に入らないけれど、これだけやったから仕方ない、今回も支持するか」ということで、トランプさんへの投票率が上がるのではないかと言われています。一方で民主党の人たちは「そうではない」と。トランプさんがそんなことをすれば、リベラルの人たちが怒って、より多くの人がバイデンさんに票を投じるから、逆に投票率が上がるのは民主党の方だと言う人もいます。

18日、オンラインの米民主党大会で、司会役を務める女性の後ろの画面に映し出されるバイデン前副大統領とハリス上院議員の写真(ゲッティ=共同)=2020年8月18日 写真提供:共同通信社

これまで民主党がやって来たことがすべてひっくり返される可能性も

宮家)しかし、私の友人は2人とも、「状況はまたトランプさんに有利になりつつある」と言うのです。アメリカ国民の良識を信じたいと思いますが、もし本当に保守派が6対3でアメリカの最高裁を支配するようになったら、例えばオバマケアという国民健康保険、妊娠中絶の問題、宗教の問題、移民の問題など、民主党がいままで進めて来たリベラルな政策が、もう1回法令審査をやったら「違憲」となり、すべてひっくり返される可能性が出て来ます。これを民主党の人たちは恐れているし、逆に共和党はこれを狙っている。特にトランプさんの周りは狙っていると言われています。これは相当大きな話だと思います。我々にとっては「最高裁の判事がまた1人変わる」という感じだったのですが、実際にはもっと奥が深そうだということです。

飯田)ゴアさんとブッシュジュニアのときのように、最後は裁判沙汰になるという可能性もあります。

宮家)トランプさんは自分の過ちを認める人ではないですから、負けても「郵便投票は不正だらけだ」などと言い出すかも知れません。となると、最後は最高裁に行きます。そうなれば6対3で勝てると思っているのです。

飯田)そこは、流石に判事の人たちが憲法や法律に則って判断する。

宮家)それが常識なのですが、これまで、トランプ政権の下で常識の多くが覆されているではないですか。それだけが怖いですよね。

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