コロナ禍だからこそ可能な「実験的施策」をするべき

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月1日放送)に経済アナリストの森永康平が出演。10月1日から東京発着旅行が追加される「Go To トラベル」について解説した。

【新型コロナ関連】はとバスのチケット売り場前=2020年9月11日午後、東京都千代田区 写真提供:産経新聞社

Go To トラベル、東京発着旅行を追加

政府は10月1日、観光支援事業「Go To トラベル」の対象に、東京発着旅行を追加する。旅行代金の35%分の割引が適用され、15%分の地域共通クーポンの配布と合わせて、補助率は50%に拡大するなど、経済活性化に向けた支援策が本格化する。

飯田)旅行の予約は9月18日にGo To トラベル(で東京都民の旅行や東京を目的地とする旅行に関する商品の割引販売)が始まって以降、全国的に増加しているというようなデータも出ているようです。効果が出ているということでしょうか?

7%くらい値下がりしているGo To トラベル 東京発着旅行の旅行商品予約解禁 旅行代理店では割引商品の販売開始=2020年9月18日午後、東京都台東区の日本旅行リテイリングパルコヤ上野支店 写真提供:産経新聞社

経済指標を見る限りではそれほど「Go To」の効果は出ていない

森永)国が出している経済指標を見ると、それほどでもないという印象を受けます。「効果がない」と言っているのではなくて、「期待していた効果ほどではない」ということです。8月の国内の宿泊者数が、回復の傾向が一服してしまったということもありますし、消費者物価指数の品目を見ますと、宿泊料という項目があるのですが、これが前年同月比で32%下がっています。そのうち、25%くらいは、Go To トラベルで下がっている。ということは、引き算すると、キャンペーンがなかったとしても、7%くらい値下がりしているということです。それは国内の旅行需要が、それほど回復していないことの表れだと思うので、公表されている経済指標のなかから見ると、そこまでの回復はしていない。効果がそこまで見られないということになります。

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」

オルタナティブ・データ〜自家用車で行く近郊への旅行は伸びている

森永)ただし、そこには8月までのデータしかないので、ここでオルタナティブ・データの登場なのですが、携帯の位置情報やクレジットカードの決済情報を見て行くと、直近9月15日くらいまで見ることができますが、これを見ると、近郊、具体例を出すと箱根や江の島、軽井沢あたりの人手はかなり戻って来ていることが、直近のデータでわかります。一方でクレジットカードの決済データを見ると、飛行機や鉄道はそこまで回復していないことがわかります。自家用車で近場に旅行に行くということが、いまトレンドとして見られている動きなのではないでしょうか。これは、コロナの状況下では整合性のある話で、電車や飛行機では第3者と密な関係になりますが、自家用車であれば、家族内で感染者がいなければ大丈夫です。いま効果が出ているとしたら、近郊への旅行なのだと思います。

飯田)先日、私用で軽井沢方面に行きましたが、新幹線はガラガラなのに、道路は渋滞していました。

森永)10月から東京発着が対象になるということで、これがどれくらい影響が出るのか、東京追加で、それほどでもないキャンペーンの効果が、どれだけ押し上げられるかというところが、1つの注目材料だと思います。

新税率に対応したレシート=2019年10月1日未明、東京都品川区 写真提供:産経新聞社

2019年10月〜翌3月までの半年の消費の落ち込みは消費増税の影響

飯田)ただ、もともとの経済のことをマクロに考えると、そもそも消費税の増税があって、冷え込んでいるところにコロナが来た。経済時評を見ていると、「コロナのせいだ」と言うけれど、「本当か?」と思うのですが、どうですか?

森永)私もいろいろなところからお願いされて分析しましたが、「コロナと消費増税の影響」を綺麗に分離して分析することは不可能なのです。ですので、ある意味隠れ蓑になってしまっています。ただ、日銀や内閣府が出しているデータを見ると、大体3月の後半くらいからガツンと落ちている。これはコロナの影響は大きい。逆に考えると、今年(2020年)の1月から3月の半ばくらいまでの消費の落ち込みというのは、増税で解説できます。そう考えると、昨年(2019年)10月に増税をして、10〜12月のGDPがドカンと落ちて、1〜3月もドカンと落ちたということを考えると、少なくともこの半年間は、ほぼ消費増税のみの影響で家計の消費が冷え込んだということです。過去の2回の増税を見ても、増税実施月における家計支出はマイナスになりますが、翌四半期はプラスになっています。今回は1〜3月もマイナスです。ですので、今回の増税の影響はかなり大きかったと言えます。

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消費を下げた〜キャッシュレス決済のポイント還元の打ち切りとレジ袋の有料化

森永)もう1つ問題があると思っているのが、当時、増税をして3ヵ月後に日銀が取ったアンケートを見ると、「増税以降、支出額はどうしましたか」と聞いたときに、「減らしていない」と解答した人が6割くらいいます。「なぜ減らしていないのですか」と聞くと、「キャッシュレス決済のポイント還元があったから」というのが1位の理由なのです。私はその6月末にこの制度が切れるタイミングで、おそらくポイント還元を延長するのだろうと思っていたら綺麗にやめて、翌日の7月1日からはレジ袋の有料化。あれは言ってみれば、エコ税みたいな話です。本来タダでもらえていたものに課金しているわけですから、増税したようなものです。税金周りのことや国民の消費の押し上げ策に関しては、とても律義に、コロナとは関係なく、「もう期限終わったので切ります」、「決めていたので導入します」と律儀にやる。「どっち向いて仕事しているんだ」ということをやって来たわけですから、消費は落ちるでしょう。

【新型コロナ・特別定額給付金申請開始区役所混雑】特別定額給付金のオンライン申請が始まり、マイナンバーカードの取得手続きなどで混雑する浪速区役所の証明発行窓口=2020年5月11日午後、大阪市浪速区 写真提供:産経新聞社

効果があった定額給付金〜今後の施策はないのか

森永)気になるのは「今後どうしてくれるの」ということです。定額給付金も結局、1回で終わっています。あれも当時やろうとしているときには、「意味がない」とか、「所得制限つけなければダメだ」とか、いろいろ言っている人が多かったわけですが、6月の家計調査を見ても、消費者物価指数を見ても、家庭用の耐久財などは思いきり跳ねているわけです。そう考えると、一部は貯金に回ってしまったかも知れませんが、消費に回った分は指標に表れるくらい出ていますし、貯金に回ったとしても、将来の消費の源泉になるわけですから、無駄なわけがないのです。「意味がない」と言っていた人たちは、データ見ろと。効果があったことが証明されたわけですから、これから冬にかけて、第3波が起こると、より経済は冷えこみますから、何かしら施策を打つ必要があると思うのですが、残念ながら、そのような報道は未だに聞こえません。

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コロナ禍だからこそできる実験的な施策

飯田)所得制限なしに全員に10万円ずつ出した定額給付金は、ベーシックインカムの社会実験になったのではないでしょうか。

森永)おっしゃる通りですね。最近、ベーシックインカムが注目の的になり始めていますけれども、あのような制度は机上の空論でなく、実際にやってみなければわかりません。どのくらいインフレ率に影響があるのか、給付の際、手でやった方が早かったというようなことは、やってみて、初めてわかったことです。ベーシックインカムの議論が日本で出て来ることはいいのですが、「0か100か」というような議論をしたがるのです。「賛成か反対か」というような。まずは実験的にやってみて、本導入する前に「どれくらいの問題が出て来るのか」ということを試すべきです。それは通常ではできません。しかし、変な言い方ですけれど、コロナを前向きに捉えられるのであれば、ある意味口実になるのです。「こんな状況なのだから、仕方ない」と言えばできるのです。例えば数万円、何かしらの条件を付けて、それまでの時限的施策として給付する。そして国民の消費を浮揚させて、かつ将来のベーシックインカムのテストをやってみる。こういう柔軟な発想が必要なのではないでしょうか。

飯田)その効果測定によるオルタナティブ・データも使って、総合的に判断する。そうすると、デジタル庁の話も含めての一歩につながりますね。

森永)そういうときには30〜40代の若い人を入れるべきです。技術的なところが理解できないということもありますし、現役世代が議論に入っていないということ自体がおかしい。その人たちとその次の世代が大きく影響を受けるわけですから、当事者が議論に入らずに、上がってしまった人たちだけで、「ベーシックインカムが」などと議論しても、「それはあなたたち関係ないからね」という話になってしまいます。新しい発想でやっていただきたいと思います。

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