日本外交の今後〜インドの「クアッド」加盟が意味すること

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(10月9日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。茂木外務大臣が国連関連の閣僚級会合に参加し、途上国へのワクチン普及のために138億円を拠出することを表明したというニュースについて解説した。

日米豪印外相会合を前に、記念撮影に応じる(左から)ジャイシャンカル印外相、茂木敏充外相、ペイン豪外相、ポンペオ米国務長官=2020年10月6日午後5時20分、東京都港区の外務省飯倉公館 写真提供:産経新聞社

途上国のワクチン普及へ138億円を拠出〜茂木外務大臣がオンライン会合で表明

茂木外務大臣は10月8日夜、オンラインで開かれた国連関連の閣僚級会合に参加し、新型コロナウイルスのワクチンを途上国に普及させるため、2021年から5年間で1億3000万ドル、およそ138億円を拠出すると表明した。途上国にもワクチンを行き渡らせることで感染収束を促し、2021年夏に予定されている東京オリンピック、パラリンピックに世界中から選手、関係者が来日できる環境を整える狙いもあるようだ。

新行市佳アナウンサー)サウジアラビアの外相と会談したり、アメリカ、オーストラリア、インドとの外相会談にも参加したり。ここのところの茂木外務大臣の動きはどうご覧になっていますか?

日印外相会談 会談に臨む、インドのジャイシャンカル外相(左)と茂木敏充外相=2020年10月7日午後0時35分、東京都港区の外務省飯倉公館 写真提供:産経新聞社

日米豪印戦略対話(クアッド)の意味

宮家)頑張っていますよね。総理は変わったけれども、外交は継続です。幸い外務大臣は変わらなかったのですから、いままでやって来たことを変わらずに淡々とやっておられるということです。いいことだと思います。特にワクチンも大事ですが、もっと大きいのは、アメリカとオーストラリアとインドと日本による、いわゆるクアッド(QUAD)という会合です。昔クアッドと言うとWTOでクアッドというものがあって、それはアメリカ、日本、EU、カナダだったのです。それで交渉を回していたのですけれども、中国が入ってきて、コンセンサスができなくなってしまった。クアッドは私にとってはWTOの世界だったのです。日本の安全保障は昔は日米安保しかなかったのですが、そこにオーストラリアとインドが入って、安全保障の世界でクアッドができる、というのは、隔世の感があります。この民主主義で普遍的価値を共有する国々が、現状をしっかりと維持して行こう、いままで以上に世界経済、世界の秩序というものを発展させようという動きがあるということは非常にいいことだと思います。それをコロナウイルスの真っ最中に、日本が主催したのです。これはすごい出来事だと思いました。

新行)しかもポンペオさんは当初、韓国やモンゴルに行く予定だったのを、そこはキャンセル、延長して、日本に来てこのクアッドをやるのだという。

宮家)トランプさんが感染してしまったから、帰らざるを得ないのだけれども、やはりこのクアッドだけは、そして日本とだけは話をして帰ると。ここに重要性が表れているということです。韓国は怒っているかも知れませんけれども、そこは仕方ないですよね。

インドのナレンドラ・モディ首相(インド・ニューデリー)=2019年5月21日 写真提供:時事通信

クアッドのなかでのインドの存在〜他の3国とは微妙な違いが

新行)このクアッドには関連してメールもいただいています。「インドと中国は国境紛争を抱えているものの、第3世界のリーダーと見られていた時代もあり、ソ連とも武器輸入も含めて友好関係があり、決して西側一辺倒の国ではないと思います。クアッドのうちインドにどの程度の熱意があるのか?」ということを“瀬戸は夕凪”さんからいただきました。

宮家)いいご質問だと思います。以前は私自身も同じことを考えていました。「インド亜大陸」と言いますよね。インドは島国ではないのです。アメリカが世界でいちばん大きな島国だと思うし、その次の大きな島国はオーストラリアで、日本も島国、イギリスもそうですが、島国の同盟としての日米安保を考えてみると、インドは少し違う。しかも、一応はユーラシア大陸に続いている亜大陸国家なわけです。そして、おっしゃる通り、非同盟の雄であって、昔はアメリカとの同盟なんて考えもしなかった。ですから、インドの対応が、残りの3国とは微妙に違うところがあるのは事実だと思います。

インド軍死者20人に 16日、インド北部で防空壕をつくるインド兵(アナトリア通信・ゲッティ=共同)=2020年6月16日 写真提供:共同通信社

中国とは手を切ったインド〜クアッドにインドの後に入る国は

宮家)他方で、やはり最近の中国のやり方を見ていると、オーストラリアと大喧嘩をしているし、日本とも尖閣などで揉めているし、アメリカとは貿易で大騒ぎしているのですが、あのインドともカシミールの国境付近で大喧嘩しているのです。最近の中国の外交政策は、自己主張が強くて、非妥協的で、しかも攻撃的です。こういうことをやれば、流石のインドも怒りますよ。インドの外交も中国については、いままで以上に脅威になりつつあるのだと認識し始めているのです。逆に言えば、インドがクアッドにこういう形で入るということは、中国との関係が悪くなっていることの反映なのだろうと思います。

新行)なるほど。

宮家)ですから、「インドをどう思いますか?」と言われたら、確かに熱意には温度差が多少あるかも知れませんが、「ある一線は超えて来た」という感じがします。しかし、このインドが入った後、次に気になるのは、「インドの次はどこだ」ということです。クアッドというのは、4ヵ国という意味です。これがクアッドではなくて、クインテットと、5ヵ国となるかどうかということがポイントです。では一体どの国が入ることができるかと考えると、韓国は入れないし、フィリピンもフラフラしているし、ベトナムは共産国家で、インドネシアは少し遠い。なかなかいないですね。

習主席、国連総会の一般討論演説=2020年9月11日 写真提供:時事通信

したたかな中国外交〜日本は大風呂敷を広げない

新行)川崎市にお住まいの“てっちゃん”さんからもいただいています。「途上国へのワクチンで巨額の援助ですが、世界で4番目の大きな額、いつも控えめな日本の援助のアピール。中国のような強かな援助外交も日本の将来を考えると必要なのでは」ということです。

宮家)したたかなのですが、中国は大風呂敷を広げているようで、実は風呂敷の中身は小さかったということが多いのです。日本の場合、大風呂敷はないのですが、言ったことはきちんとやるのです。そのことは、世界の各国が知っています。確かにおっしゃることは正しいのですが、大風呂敷を広げてできないくらいなら、いまの日本の真面目なやり方の方がいいと私は思います。

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