イージス・アショアの代替策〜イージス艦を増やす案が「現実的ではない」理由

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(11月27日放送)に前統合幕僚長の河野克俊が出演。イージス・アショアの代替案として防衛省が推しているイージス艦を増やすという案について解説した。

地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の米軍実験施設=2019年1月、米ハワイ州カウアイ島(共同) 写真提供:共同通信社

イージス・アショア〜代替策はいかに

防衛省は11月25日、導入を断念した陸上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の代替策に関する試算を、自民党の国防部会と安全保障調査会の合同会議に報告した。防衛省が推す、イージス艦を新たに2隻つくる場合、5000億円程度かかるとの内容で、南西諸島防衛に転用可能なことなどを理由に、イージス艦をつくるという案に賛同する意見が相次いだということだ。

飯田)このイージス・アショアについてはメールもたくさんいただいています。代表して“ぽんた”さんという京都府京丹後市の方からのものです。「私は京都府北部の経ヶ岬にあるアメリカ軍のレーダー基地で働くものです。河野前統幕長には、2015年に視察をいただき、声をかけていただきました。今回のご出演嬉しい限りです」といただいたのですが、気になるのはこのミサイル防衛に関して、「イージス・アショアの配備は政治的判断で凍結となりましたが、その経緯があまりにちぐはぐで、こんなことでいいのかと思わざるを得ません。ミサイル防衛、日本を守るにはどうあるべきか、ご意見伺いたいです」とあります。

衆院安全保障委員会でイージス・アショア配備計画停止について答弁に臨む河野太郎防衛相=2020年6月16日午前、衆院第17委員室 写真提供:産経新聞社

北朝鮮が度重なるミサイル発射実験を行い、日本国内に危機意識が高まる

河野)まずはこのイージス・アショアを導入した経緯から申し上げますが、導入したときの統幕長は私で、防衛大臣は小野寺大臣でした。焦点になるのは2017年なのです。このときにご記憶にある方もいらっしゃると思いますが、北朝鮮がミサイルを何発も撃ったのですね。日本海へ、また日本を飛び越えるもの、ダムを狙うと公言するもの。そしてハワイ、西海岸が射程に入る。最後には、11月29日だったと思いますが、ロフテッドという高い撃ち方で撃ち、それを計算し直すとワシントンまで入ると。それで北朝鮮は核保有宣言をしたのです。それと同時に2017年というのはトランプ大統領が登場した年です。トランプ大統領が言葉で金正恩委員長を攻撃し、国連総会で「このまま行けば北朝鮮を破壊する」と言ったのです。そこで「日本の防衛体制は大丈夫か」という議論になって、ご承知の通り、「イージス艦で落とします」と。そこで落とせなかったら、PAC-3によって近距離で落とすという2層立てだということになったのです。北朝鮮からミサイルがたくさん飛んで来ていたわけですから、国民も非常に危機感を持ったのです。Jアラートなども鳴り、自治体によっては避難訓練もするという状況になったわけです。

飯田)そうでした。

陸上自衛隊新屋演習場で始まったイージス・アショア配備に関する地質調査=2018年10月29日 写真提供:産経新聞社

イージス・アショアの導入を決定

河野)こういう国民の危機感が後押しとなって、これで大丈夫かということになり、いま申し上げたのは2層なのですが、もう1ついるのではないかということになった。20年も30年も研究開発をする余裕はありませんから、できるだけ早くということが条件でした。そこで、当時あったシステムがTHAADとイージス・アショアでしたので、機種選定の結果、イージス・アショア導入を決定したのです。このとき、私の認識は、いま言った経緯ですから、防衛省が旗を振って進めたというより、国民の危機感が背景にあったのです。

飯田)世論の後押しみたいなものですか?

河野)そうです。現に導入が決定したのは、2017年12月の閣議決定なのですが、2018年1月に確か朝日新聞が世論調査をやっているのです。「イージス・アショアの導入に賛成ですか?」というものに対して、66%、約7割に近い国民が賛成だったのです。

飯田)国民の3分の2が賛成と。

「イージス・アショア」配備を巡り開かれた住民説明会で発言する防衛省の五味賢至戦略企画課長(左)=2019年6月8日午後、秋田市 写真提供:共同通信社

納得のいかないイージス・アショアの配備停止とその理由

河野)そういう時代背景があり、我々は進めて行ったわけなのです。そして、今年(2020年)6月、当時防衛大臣だった河野大臣がイージス・アショアの配備計画の停止を表明されました。私はこれについていろいろなところでコメントを求められるのですが、私はこれについて「納得いかない」とコメントしているのです。それはなぜかと言うと、まず北朝鮮の脅威です。いまミサイルは飛んで来ていませんが、北朝鮮は1発の核もミサイルも放棄していないのです。そう言う意味では、本質的な脅威は一切変わっていない。2番目が、やめた理由というのが、ブースターの落下の問題なのです。イージス・アショアが発動されるときというのは、日本の存亡の危機のときなのです。絶対に撃ち落とさなくてはいけないというときなのです。

飯田)ミサイルが、こちらに向かって飛んで来ているというときですものね。

河野)平時に、ブースターが基地の外に落ちて来るとなれば大問題だと思いますが、そういう危機的な状況のときですから、「まずは撃ち落とす」というのが優先なのです。そのブースターについても、やりようがあったと思うのです。情勢の変化がないのに、いきなり飛んで来るということはないと思うので、情勢の推移を見て、避難をしていただく、あるいはシェルターをつくって住民の方々の安全を確保するという手段があったと思いますし、現にこのブースターの問題が解決されなくても、陸上自衛隊のむつみ演習場のある萩市の方々には受け入れるという決断をしていただいていたのです。その直後に自らやめるということになってしまったので、これはなぜなのかと思いました。ということで、私としてはいまでも納得がいかないのですが、そのときの議論としては、「いままでの防御」と言っているのも限界があると。やはり攻撃も考えなくてはいけないのではないかという議論になったので、それならばわかるということなのです。そこで、敵基地攻撃をどう持つか、持たないかという議論になり出したのです。

飯田)安倍総理の退任会見でそれを言い、さらに談話も出ましたよね。

河野)そうです。ただ、談話は閣議決定されていないので、安倍総理の気持ちを述べられたという位置づけなのです。私としては、もともと納得がいかなかったのですが、もう1度白紙に戻して、「攻撃も考えて検討しよう」ということだったので、「そういうことならばわかる」ということだったのです。

飯田)なるほど。

29日付の北朝鮮の労働新聞に掲載された「超大型多連装ロケット砲」の試射(コリアメディア提供・共同)=2019年11月29日 写真提供:共同通信社

イージス艦を動かすには300人の人員が必要〜人員をどう確保するのか

河野)しかし、この敵基地攻撃の話は先送りになってしまい、いまこのイージス・アショアの代替策として、石油採掘リグの上に置くとか、民間の商船の上に置くとか、専用艦をつくるとか、イージス艦をつくるなどという案が出て来たわけです。そして、いまは報道によると、イージス艦をつくる方向でやっているということなのですが、イージス艦をつくると言っても簡単な話ではなく、海上自衛隊としてはイージス・アショアがあると言う前提で、それを陸上自衛隊が運用するということでした。それで今後はイージス艦は8隻で打ち止めにして、イージス艦は大体300人くらい乗っているのですが、よりコンパクトな90人くらいの船を毎年2隻ずつつくって、東シナ海の中国への対応に持って行く方向に舵を切り、その最初の艦が先立って進水しました。「くまの」という船です。そして、ここからまたイージス艦を2隻持つということになると、人はどうするのか。人とお金の資源は限られていますから、もう1回考え直さなくてはいけないということになります。私ももうリタイアをしましたけれども、海上自衛隊としては、そんなに簡単な話ではないと思います。

飯田)いまの話を伺うと、ミサイル防衛がそちらにリソースが割かれるということになると、今度は東シナ海をどうするという問題に発展し、ミサイル防衛だけではなくて日本の防衛全体の話になって来るわけですね。

河野)人という観点から考えますと、コンパクトな船、FFMというのですが、フリゲートですね。この船に必要な人員は90人なのですが、これを帝国海軍もやったことのないシフト制というものを導入します。2クルーつくって、これで人員を効率的に使って、船をよりよく動けるようにする。しかも乗員は1クールは休める。

飯田)これは陸上で休めると。

河野)そうです。そうやって少ない人員をやりくりして、負担を軽減し、なおかつコンパクトにしましたので、それほど人員も必要ないのです。こういう方向に知恵をしぼって持って行ったわけです。

飯田)なるほど。

河野)ところが、イージス艦を持つとなると、300人くらいいるわけです。単純計算で600〜700人をもう1度準備しなくてはいけなくて、しかも教育もしなくてはいけない。

飯田)そうですよね。いきなり配置することなんてできないですものね。

河野)だからこれも人員という観点から、相当負担がかかって来ると常識的に想像できます。

南北軍事境界線がある板門店で握手するトランプ米大統領(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=2019年6月30日(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

制約があり人員の確保が難しい海上自衛隊

飯田)しかも海上自衛隊は募集が大変だと言われます。

河野)やはり船の上となると、時間が制限され、Wi-Fiも常時つながらない。陸上にいるよりも制約がかかるのは事実です。それを乗り越えてもらって、使命感を持ってもらい、海洋国家日本の防衛のために参加してもらおうと、八方手を尽くしていますが、大変募集が厳しいのは事実です。

飯田)そもそも少子化で若い人の数が減っているなかで、取り合うと。いろいろなことを考えてやっていたのに、一気にご破算になってしまったような。

河野)一気にご破算とまではならないかも知れませんが、イージス艦を2隻つくることになると、相当な組み替えをしなくてはならないのは事実だと思います。

2日午前、北朝鮮の国防科学院が東部の元山湾で行った新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「北極星3」の試射=2019年10月3日 写真提供:時事通信

日本をいかに守るか〜防衛オンリーでいいのか

飯田)一方で敵基地攻撃能力の議論はまったく進んでいないということで、二者択一のような議論をする人もいるではないですか。しかし、両方必要なのですよね?

河野)防御はもちろん大事ですが、防御と攻撃がコンビネーションして日本の防衛体制が高められるのです。「攻撃は一切持たず防御だけ」となるとアンバランスになるということと、一般論として、攻撃兵器と防御兵器を比べた場合、防御兵器の方がお金がかかります。歴史を紐解くと、防御と攻撃のシーソーゲームなのです。一般論としては、攻撃が先行して、それに対して防御が追い着く。やはり防御側は不利な面もあるのです。「防御オンリー」というのはどうなのでしょうか。目的は、「日本をいかに守るか」ということですので、「そのためには何を持つべきか」という論点から、議論を進めていただきたいと思います。始めから制約をかけるのではなく。

飯田)大目的が何かと。

河野)そうです。

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