「はやぶさ2」記者会見で考えさせられた“あるべき組織の姿”

「報道部畑中デスクの独り言」(第224回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、探査機「はやぶさ2」に関する記者会見で見られた「あるべき組織の姿」について—

JAXA相模原キャンパスで行われた記者会見

探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」から採取したカプセルを地球に持ち帰る「歴史的快挙」から1週間が過ぎました。現在はJAXA相模原キャンパスで、カプセル開封に向けた慎重な作業が続いていることと思います。

2020年は夏に東京オリンピック・パラリンピックで国民を感動の渦に巻き込み、暮れは「はやぶさ2」の帰還(付け加えれば、国民的グループ「嵐」の活動休止も)、感動づくしで1年の幕を閉じる……そんなシナリオを描いていた人も多かったと思います。新型コロナウイルスはそんなシナリオを一変させましたが、今回の快挙が暗い世相のなかで放たれた、一筋の光であったことは間違いないでしょう。

小欄ではカプセル分離から帰還までの管制室の様子を見て、メンバーから緊張は伝わって来たものの、ピリピリした感じではなく、気心の知れた、チームワークのよさを感じたとお伝えしました。

私はこの印象を受けて、12月6日に行われたカプセル着陸後の記者会見で、JAXAの津田雄一プロジェクトマネージャ(以下 津田プロマネ)と宇宙科学研究所の国中均所長に、管制室の雰囲気、チームワークの考え方をたずねました。そこでは非常に興味深いやり取りが展開されました。

データを見つめる管制室のメンバー(12月6日未明 モニター画面から撮影)

まずは津田プロマネの回答です。

「今回の運用も非常にチームワークのいい状態で進められたと思っているし、いい雰囲気でやっていた。いろいろな難しいことを乗り越えたチームだからああいう雰囲気で、ただし締めるべきところは締めてやれたのだと思う」

「私はこういう雰囲気、チームをイメージしてずっとマネジメントをして来たつもり。探査機はすごく操作が難しく、誰一人としてすべてを理解しているわけではない。そういうメンバーで難しいミッションをやって行くときにはコミュニケーションが重要で、かつ『相手のことを考えながら自分のやるべきベストを尽くす』『安心してベストを尽くせる』『怖がらずにすごい提案ができる』『責任を負い過ぎずに、でもすごいことをやりたいと思う』……こういう雰囲気が必要。そのためには直接的に『これをああしろ、あれをこうしろ』ではなくて、『チームからこういうことをやるべきだ』という提案が挙がって来るような、自発的なチームづくりが重要と感じた」

「宇宙研(宇宙科学研究所)のいろいろなミッションを見ても、うまく行っているときはそういうことが発揮されていたと思う。それを私は心がけてやって来て、幸い『はやぶさ2』は本当にメンバーがよくて、それがうまく行ったなと思っている」

パソコンの画面を確認する津田プロマネ(左)と国中所長(右)(12月6日撮影)

一方、国中所長の回答は次のようなものでした。

「いや、僕はちょっと違う……」

開口一番の言葉に場内から笑いが漏れ、津田プロマネも苦笑いを浮かべていました。国中所長はさらに続けます。

「仲良しクラブではない、これは我々の仕事であるから。緊張関係を持ち、敵対関係があり、対峙の関係があって、緊張関係を醸成して互いにクリティサイズ(=批判)する方法でもって、きちっと仕事はやるべきだと思う」

「僕はそういう意味ではあまり賛成ではない。だからこそ僕は敢えて探査機運用班については厳しい方法を指導したつもりだし、2回目の着陸の是非については問うたつもり。2回目の着陸は絶対やるなという意味ではなくて、やるのであればきっちりその証拠を見せろというように言ったまでだ」

「宇宙科学研究所は他のJAXAの部門とちょっと違って、教育機関を持っているために、卒業生がそのまま職員になっているケースが多い。私の同級生もいっぱい研究所にいたりする。そういう関係はいいときはいいが、悪いときはなあなあ関係になって、緊張感の薄れた“ヌルイ”仕事になる可能性があるのではないかと、私は危惧している。そういう意味で緊張関係、緊張状態が必要だと思っている」

「適正な規模の科学、宇宙科学というのも問われる内容だと思っていて、無尽蔵に費用やリソースを消費することは許されない。JAXAの予算の規模のなかで、もしくは日本の国力の範囲のなかで、どれが適正かという議論は当然されると思う。だから、そのなかで我々がいつも国民・国家から批判されることを考えた上で、正しく誠心誠意をもって物事を運べるような組織やチームであるべきと思っている」

カプセルの入ったボックスがJAXA相模原キャンパスに到着(12月8日撮影)

国中所長がリュウグウへの2回目の着陸を前に寄せたメッセージが思い出されます。

「第2回タッチダウンをキャンセルし、地球帰還を優先させる考え方は、達成した成果を早期に刈り取り、着実に成功を収める安全で確実な選択肢と言えました」

こう述べた上で、「『はやぶさ2』本体とチームの現在の実力で、安全性を担保した上で第2回タッチダウンを成し得ることが極めて高いことを確認しました」……厳しい葛藤の上で、組織として挑戦に「GOサイン」を出したのです。

チームワークと緊張感……組織に関する2人の考え方は好対照です。組織はどうあるべきか……これは時代や環境によっても大きく左右されるものであり、立場によっても大きく異なって来ます。

津田プロマネの考え方は、まさに現場主義、いわゆる「スパルタ」とは違う柔軟なリーダー像でした。モチベーションを上げるために心を砕いた跡が感じられます。一方、国中所長の見方は経営者のそれであり、長年の経験による大局観から来るものだと思います。それには以前プロジェクトマネージャだったときの経験も含まれているでしょう。

探査機「はやぶさ2」運用スタッフ 『大漁旗』を前に(12月8日撮影)

私の大学時代の恩師が、大学などの研究機関には必要なことが3つある、と説いていたことを思い出します。

その3つとは「研究」「教育」そして「営業」……いくら素晴らしい研究であっても、先立つものはお金、そしてゴールのない研究を未来永劫に継続するには、次世代につなぐ教育が必要になって来ます。

この3つが揃わないと、結果は出せないのだと……それは研究機関に限らず、さまざまな組織に言えることかも知れません。ちなみに文部科学省の資料によると、「はやぶさ2」の総事業費は約289億円だということです。

カプセルがJAXA相模原キャンパスに到着した12月8日の記者会見では、6日の回答を受けて再び国中所長が答え、「現場からは評判が悪いので」と苦笑いしながら、「大変よくやってくれた。ここまでの誘導制御はお見事だった」と快挙を改めて評価しました。

今回のほぼ完ぺきな運用については、さまざまな理由が考えられますが、多様な議論を戦わせる絶妙なバランスを持った組織もその1つであったと、私は解したいと思います。

6日の記者会見は「はやぶさ2」の状況だけでなく、「組織論」「技術論」「経営論」など、内容は多岐にわたりました。約3時間の長きにわたりましたが、さまざまなエッセンスに富んだ濃密な時間であったと思います。(了)

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