トランプ政権が混乱しているタイミングで中国が行う「グレーゾーン戦略」

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(1月8日放送)に地政学・戦略学者の奥山真司が出演。アメリカのポンぺオ国務長官が香港で民主派を一斉逮捕したことに対し、制裁を検討していると表明したニュースについて解説した。

習主席、国連総会の一般討論演説=2020年9月11日 〔新華社=中国通信〕 中国通信/時事通信

香港の民主派逮捕〜ポンペオ米国務長官が制裁を検討

アメリカのポンペオ国務長官は1月6日、香港警察が「国家政権転覆罪」の疑いで民主派50人以上を逮捕したことを受け、声明で「非道な行いだ」と非難した。即時かつ無条件の解放を要求するとともに、逮捕に関わった個人らに制裁を検討していることを明らかにしている。ポンペオ氏は「逮捕者にアメリカ人が含まれていることにショックを受けている」と表明。「アメリカはアメリカ市民への嫌がらせを許すことはない」と警告した。またポンペオ氏は、クラフト国連大使が近く台湾を訪問すると発表している。

飯田)何か、去年(2020年)行った予備選をやったということそのものが。

19日、米デラウェア州で記者会見するバイデン前副大統領(ゲッティ=共同)=2020年11月19日 写真提供:共同通信社

中国がこのタイミングで行う「グレーゾーン戦略」

奥山)いままさにトランプ政権が混乱しているときに、こういうタイミングで、いちばん世界的に、特にアメリカが大声を出しそうな、民主化活動をしている人たちを大量に逮捕するということではないですか。このタイミングがすごいですね。アメリカ側が反論できないような状況のときにやって来るので、実にいやらしい。北京側からするといいタイミングでやったのだと思います。全般的に中国の動きを見ていると、見えて来るのは、「グレーゾーン戦略」と言いますが。

飯田)グレーゾーン戦略。

奥山)はい。世界に対して、明確な形で何かを挑戦して行くのではなく、なるべく目立たないような形で、でもしっかりと、白黒つけるのではなく、灰色の部分だけで攻めて行くという戦略を取っています。それが見ている側からすると、「いやらしいな」と思うのですが、北京側からすれば、「実利はしっかりと得て来ているぞ」ということがよくわかります。

台北市の総統府で記者会見する蔡英文総統=2020年1月15日(共同) 写真提供:共同通信社

中国が台湾に対して行っている5つの特色「威嚇飛行、上陸訓練、海のパトロールとサイバー攻撃、外交的孤立化」

奥山)私がいま気にしているのが、台湾に対してです。当然なのですが、軍事関係者、安全保障関係者は、台湾がこれからどうなるのかということを気にしています。香港の先に見えるのが台湾統一ということですが、台湾に対していろいろ調べて行くと、中国側がやって来ることがよくわかります。

飯田)はい。

奥山)実際に台湾に対して何をやっているのかというと、先ほどのグレーゾーンという話で見ると、5つ特色があると言われています。北京は統一するために、1つは台湾に対して、去年(2020年)にすごく増えましたが、飛行機での威嚇飛行をやっています。どんどん侵入して来る。日本も沖縄に中国からの飛行機が。

飯田)スクランブルが多くなっているという話です。

奥山)そうです。それが1点目、空からの飛行。2点目が、水陸両用作戦という、中国側が上陸作戦をやっています。これはもちろんパフォーマンスですが、そういう訓練を台湾の近くでやっています。「俺たちはこういう能力があるぞ」ということをあえて、目に見える形でやっている。3点目に、海軍の船によってパトロールをして来る。中国は海警というものを持っていますが、海警ではなく、海軍という軍が出て来てパトロールをする。4点目がサイバー攻撃です。そして5点目に、台湾の外交的な関係をどんどん切って行く。

飯田)台湾と外交関係のある国を引き入れて、ということをやっていますね。

香港に自由を、都内でデモ 習近平国家主席のイラスト=2020年7月12日 写真提供:共同通信社

ジワジワと積み重ねることで台湾の抵抗する意思を挫く

奥山)北京側に靡くようにするという、この5つの点です。「威嚇飛行、上陸訓練、海のパトロールとサイバー攻撃、それと外交的孤立化」です。どういうことかと言うと、ジワジワ積み重ねることによって、台湾の「抵抗する意志を挫く」ということだと思います。これをずっとやられたら、台湾の人も「俺たちは勝てないのではないか」と思い始めるではないですか。北京側の狙いとしては、相手の気持ちを萎えさせるというか、「もう俺たちの負けだな」と思わせるというところなのです。

飯田)なるほど。

奥山)軍事的に台湾に侵攻するというよりも、まず気持ち的に「俺たちダメだな」という気持ちを、こういう積み重ねをすることによって築いて行くというやり方をしているのです。その一環のうちの1つが、この香港の民主派の逮捕につながって来るのだと思います。こういうところも含めて、日本は自由主義社会の国なので、トランプ政権で、ポンペオさんももう少しで終わりですが、制裁検討というところに賛同の意を、言葉だけでも「連携する」という気持ちを表明することは、極めて大事だと思います。

台湾総統選で再選を果たした民進党の蔡英文総統=1月11日、台北市(共同) 写真提供:共同通信社

地政学的に運命共同体である日本と台湾

飯田)日本は台湾とは、公式に国交関係があるわけではありません。ただ、地政学で見ると、中国が台湾に来るということになれば、当然ながら南西諸島、沖縄が巻き込まれます。

奥山)台湾を軍事的に獲るとなったら、石垣や与那国は絶対に巻き込まれることになりますので、そういう意味では、実は台湾と日本は運命共同体のところがあります。そのことを日本政府には自覚していただいて、やっていただかないと、これから厳しいことになるのではないかと思います。

飯田)それこそ、明治維新以来、台湾が敵対的になったということが、実はない。これがシーレーンの要であった。日清戦争のあとに当時の伊藤博文が台湾を獲りに行ったというのは、まさに海を使って世界に拓いて行くという、日本の戦略を具現化したものだったのだと。

奥山)そうですね。日本は島国で、大陸がまとまって攻めて来る状態がいちばん怖いわけです。大陸のなかも分断しておいていただくとありがたいということで、そういう意味において、台湾がどちらの勢力側に落ちるかということは、日本にとっても他人事ではないということがよくわかると思います。

習近平氏、長江経済ベルト全面的発展推進座談会で重要演説=2020(令和2)年11月14日 新華社/共同通信イメージズ

パプアニューギニア南部の島に160億円かけて漁港を整備する中国

飯田)しかし、中国はその意味で言うと、逆に分断政策をさまざまなところで行っています。オーストラリアと日本の関係であるとか。

奥山)そこで気になる動きがあります。中国は、パプアニューギニアに漁港をつくっているらしいのです。

飯田)パプアニューギニアというと、オーストラリアのちょうど北側にある国ですよね。島ですよね。

奥山)戦中、日本はガダルカナルなどに部隊を出したりしていましたけれども。

飯田)そうか。ラバウルとかガダルカナルとかソロモン海など、そうですよね。

奥山)2020年11月の時点なのですが、中国企業の「福建中鴻漁業」が、パプアニューギニア南部のダル島という島に160億円かけて漁港を整備すると言っているのです。

飯田)漁港なのですね、一応表向きは。漁をするのだと。

習近平氏、深セン経済特区40周年大会で重要演説=2020年10月14日 中国通信/時事通信

オーストラリアから200キロの地点〜漁港ではない

奥山)ここがオーストラリアの本土からたった200キロです。北に位置していて。

飯田)オーストラリア大陸の、ある意味角が2つ右上に突き出したような感じなのですが、その右側の角の先の方にある島という感じですね。

奥山)対岸の方に。パプアニューギニアのところに。

飯田)ちょうど海に面しているところが狭くなっている島みたいな感じですね。

奥山)海が狭くなっているところというのは、当然なのですが、いわゆるチョークポイントという、浦賀水道のようなところです。

飯田)東京湾の出口。

奥山)あそこを握るような話になります。トレス海峡と言うらしいのですが、ここに漁港をつくっているのです。これは普通に考えて漁港なわけがない。その辺りはいい魚が獲れないそうなのです。

飯田)獲れないのですか。

奥山)「漁港ではないだろう」という話なのです。そこにわざわざ160億円も投資してつくると言ったら、どう考えても、戦艦がそこに来るのではないかという話になります。

日米共同統合演習「キーン・ソード」護衛艦「かが」の甲板で記者会見する、防衛省の山崎幸二・統合幕僚長=2020年10月26日 写真提供:産経新聞社

トレス海峡の西のダーウィンにはアメリカ海兵隊が駐留

飯田)なるほど。しかもトレス海峡の西の方にはダーウィンという町があって、そこはアメリカの海兵隊がローテーションで駐留しているところですよね。

奥山)自衛隊も来るのですが、非常に重要な場所です。

飯田)ということは、例えばサンディエゴとかあの辺りから船を出して、アメリカの海兵隊がダーウィンに入ろうとするときに、まさにこのトレス海峡を通る。

奥山)日本で例えれば浦賀水道を獲ってしまうような状況ではないですか。こういうところを獲るということになると、アメリカ側にとっても脅威になるということが言えます。

飯田)こういう行動の1つ1つを細かくフォローして行かないと、どこで足を掬われるかわからないですね、日本は。

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