バイデン大統領が「アメリカの統合を取り戻す」には何が必要か

ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(1月21日放送)に東京大学公共政策大学院教授・政治学者の鈴木一人が出演。アメリカ・NY州在住でアメリカ政治専門の政治学者、慶應義塾大学教授の岡山裕を電話ゲストに迎え、バイデン新大統領の就任演説をもとに、今後のアメリカの行方について解説した。

19日、米デラウェア州で記者会見するバイデン前副大統領(ゲッティ=共同)=2020年11月19日 写真提供:共同通信社

第46代アメリカ大統領にジョー・バイデン氏が就任

現地時間1月20日(日本時間21日未明)、アメリカの首都ワシントンの連邦議会議事堂で民主党のジョー・バイデン氏が第46代大統領に就任し、演説を行った。

飯田)ジョー・バイデン氏の就任演説は、全体で20分に満たないくらいの演説でした。

就任式で宣誓後、手を振るバイデン米新大統領=2021年1月20日、ワシントンの連邦議会議事堂(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

バイデン氏の当選は「まだアメリカには希望がある」ということ

鈴木)内政中心の演説でしたが、「民主主義が勝利した」と言う前に、「民主主義は非常にか弱いものである」という言い方をしていたところが印象的でした。トランプ政権との間に起きたさまざまな出来事を想定しながら、「民主主義は守って行かなければならない」ということ。「そこが大事なんだ」というところからのスタートです。言ってしまえば、非常に低いところからのスタートです。「アメリカは世界をリードする」などということを言う前に、「まず自分たちの家のなかを何とかしなければいけない」ということなのだと思います。

飯田)我々日本から見ると、アメリカは「民主主義のチャンピオン」というイメージが強かっただけに、「こうなってしまうんだ」という印象がありますね。

鈴木)民主主義のチャンピオンではあるのですが、民主主義は同時にダークな側面、国民のなかに、白人至上主義者や陰謀論を信じるような人たちがたくさん出て来れば、それを反映するものでもあるので、民主主義が勝つためには、国民がダークな部分と闘うという気持ちを出さなければいけない。少なくともバイデン氏が今回当選したというのは、「まだアメリカには希望がある」、「まだアメリカにはそういうものを排除しようという力がある」ということを示したことなのだろうと思います。

2月11日、米サウスカロライナ州の集会で演説するバイデン前副大統領(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

「統合を取り戻す」ことを訴えた演説

飯田)現在のアメリカ現地はどのような雰囲気なのか。アメリカ政治専門の政治学者、慶應義塾大学教授の岡山裕さんと電話がつながっております。岡山さん、おはようございます。

岡山)おはようございます。

飯田)岡山さんは現在、ニューヨークにいらっしゃるということですが。

岡山)ニューヨーク市から自動車で3時間くらいの田舎の大学街にいます。

飯田)就任式が行われましたが、ご覧になっていていかがですか?

岡山)ワシントン以外にも、各州の州都で襲撃や騒乱の恐れが指摘されていましたが、厳戒態勢のおかげもあって、大きな混乱もなく、各種のイベントが進んでいると思います。恒例の就任式のあとのパレードは大幅に縮小されて、オンラインのイベントに切り替わりました。驚いたのは、バイデン家の皆さんとハリス家の皆さんがいずれもホワイトハウスに入る前に、自動車を降りてメディアに対応しながら歩いてホワイトハウスに入ったということです。国民との距離の近さをアピールしたかったのかなと思って観ていました。

飯田)演説では、国内向けが多いのではないかという指摘もあります。

岡山)全体のテーマが“unity”、「統合」となっていて、ここに力点が置かれていた。就任演説というのは、場合によっては所信表明演説になって、いろいろな政策に触れることもあるのですが、今回はとにかく「統合を取り戻すのだ」ということをひたすら訴えていたということが印象に残ります。

18日、オンラインの米民主党大会で、司会役を務める女性の後ろの画面に映し出されるバイデン前副大統領とハリス上院議員の写真(ゲッティ=共同)=2020年8月18日 写真提供:共同通信社

陰謀論者や、白人至上主義者が分断に参入してしまった

鈴木)今回の演説、たしかに“unity”ということを強く出していましたが、例えばバイデン氏の言葉のなかで“end this uncivil war”という表現があって、いまのアメリカのあり方を象徴していると感じました。「南北戦争時代の分裂」というような捉え方で見ているという印象を受けたのですが、岡山さんはいまのアメリカの分断状況はどのようにお考えですか?

岡山)かなり深刻だと思います。よく南北戦争のときの南北対立と比較されますけれども、いまの分断が深刻なのは、党派対立と人種その他の対立が全部綺麗に対応してしまっていて、互いに友敵関係、敵味方の関係になっているということが大きいのと、もう1つ大きいのは、トランプさん以降、はっきりして来ましたけれども、陰謀論者や白人至上主義者という、従来であれば政治の表舞台に出て来られなかったような人たちが前面に出て来て、この分断に参入してしまった。そのことが非常に深刻だと思います。

米連邦議会議事堂前に集結したドナルド・トランプ大統領支持者=2021年1月6日、アメリカ・ワシントン 写真提供:時事通信

地道に世論に訴え、政府のなかで調整を続けるしかない

鈴木)そんななかでバイデン大統領は“unity”ということを訴えて、この分断を修復しようと言っているのですが、どこに力点を置いて、何をすれば分断を乗り越えられるのか。乗り越えるのは無理かも知れませんけれど、多少近づけて行く、埋め合わせるには何をすればいいとお考えですか?

岡山)これは、みんな答えがあったら教えて欲しい問題の1つで、保守派のFox Newsチャンネルを観ていましたら、就任演説はなかなかよかったと。統合は大事だけれど、実際にどうするのか。「これからお手並み拝見だね」ということを言っています。まさにその通りだと思いました。バイデンさんは政治的な軌跡が長くて、連邦議会の上院議員として調整を重視して、これまで政策形成をして来たということがあります。共和党のリーダーのマコネルさんという人も昔馴染みの人で、最近は関係も悪くない。そういうなかで、派手なことを何かやるというよりは、地道に世論に訴え、政治家のなかで、政府のなかで調整を続ける以外には妙案がないのではないでしょうか。

鈴木)そうですね。バイデン氏の政治経歴の長さというのは、そういう議会のなかや政治コミュニティの分断などは、かなり修復できると思います。しかし、国民のなかの分断はなかなか難しい。特に、先ほど岡山さんがおっしゃったように、いま反発している人たちは、政治自体を腐敗したものだと感じているところがあるので、エリート同士の馴れ合いのように見られてしまうと、それはそれでまた難しいところがあるのかなという感じもします。

米大統領、家族恩赦検討か トランプ氏と家族 (右から)トランプ米大統領、長女イバンカ氏、長男ジュニア氏、次男エリック氏=2014年7月、ワシントン(ロイター=共同) 写真提供:共同通信社

トランプ氏の弾劾裁判の行方

岡山)そういうことを考えると、これはバイデンさんが直接何かできるということはあまりないのかも知れませんが、今後予定されているトランプさんの弾劾裁判ですね。この行方がどうなるかというのが気になります。

飯田)マコネルさんもトランプ批判をしています。共和党でそれに乗る人も出て来そうですか?

岡山)マコネルさんははっきりと「トランプさんにも責任がある」ということを発言しています。共和党の上院議員のなかにも、「トランプ有罪」に回り得る人はいると思います。しかし、確実に有罪にできるという保証がない限り、そういった議員の人たちは、自分の党の大統領に有罪票を投じるというのは、大きなリスクを抱えることになります。マコネルさんがはっきりと音頭を取って、「これを有罪に持って行くのだ」ということがないかぎり難しいでしょうね。それが最低条件になるかと思います。

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