石破茂「消費税についても議論は必要」 コロナ禍における景気対策の観点から

石破茂「消費税についても議論は必要」 コロナ禍における景気対策の観点から

石破茂氏

■税制も含めた経済論議を 石破茂の「異論正論」(3)


 新型コロナと経済を議論するにあたっては、大きなダメージを受けた旅行業、飲食業に注目が集まりがちだ。しかし、ごく一部の業績を伸ばした企業を除けば、そのダメージを全業種、全国民が受けているといっても過言ではない。

 では、政府あるいは自治体には何ができるのか。私たちは何を求めるべきなのか。

 石破茂の「異論正論」3回目のテーマは、「国と地方の関係」「消費税」について。

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■観光業以外の苦境にも目を


 経済対策に関連して言えば、観光業や飲食業の苦境を伝える報道ばかりが多い点が気になります。他の多くの業種もコロナで大きなダメージを受けているのです。私はライブ・エンタテインメント議連の会長を務めていますが、この業界の受けているダメージにもすさまじいものがあります。

 昨年11月、議連会長としての現状視察も兼ねて、野口五郎さんや岩崎宏美さんが出演なさるコンサートを見に行きました(数ある他のコンサートではなくこのコンサートにしたのは、もちろんファンだからです)。本当に徹底したさまざまな対策を取っていて、掛け声は禁止、お客さんができるのは拍手のみ。

 2020年は、野口さんはデビュー50周年、岩崎さんはデビュー45周年の年だったそうです。それを記念したコンサートなども数多く企画されていたことでしょう。

 ところがコロナで、そういった大きなコンサートは開催できなくなってしまった。

 新しく作られたホールは、ほぼ毎年のように改正される建築基準法で定められる厳しい基準をクリアしているため、換気システムもしっかりしていますし、天井も高く、いわゆる「密」の状態にはなりません。そうであれば、1列ずつ空ける、座席間隔を取る、といった対策を取り、さらに大声を出すことを禁止すれば、感染拡大のリスクを低く抑えた状態でイベントは開けるはずです。が、実際には多くのイベントが中止や延期となった。おそらく、初期の頃に小さなライブハウスなどでクラスターが発生したことが悪影響を与え、「ライブはすべてリスクが高い」と認知されてしまったからではないかと思います。

「私、今年、お客さんの前で歌うのは3回目です」

 岩崎さんがそのように仰っているのがとても印象的でした。あれほどのキャリアと人気を誇るアーティストが、年末に近づいた時点で、しかもデビュー45周年の節目なのに、たった3回しか歌えなかったのです。

 ましてや、そこまでメジャーではない方々、地方のイベントの営業で生計を立てているような方がどれだけ大変かは明らかでしょう。小さなイベントメインだった方々はまったく仕事がなくなった。さらに大道具、小道具、音響、照明等々スタッフの方々はもっと大変です。

 旅行業界はすそ野が広く、関わっている人数も多いので注目をされやすいのですが、苦しんでいる業種は他にもたくさんあるのです。ここではエンタメ業界のお話をしましたが、あくまでも一例に過ぎません。

 ですから、GoToキャンペーンの是非といった点に議論を集中させるのではなく、本当に困っている人たちに広く目を配るためにはどうすればいいか、実効性のある補助とはどうあるべきか、を考えねばならないのだと思います。


■地方の独自性が必要


 この際に、必要なのは全国一律の対策ではなく、地方独自の方針や対策を重視するという姿勢ではないでしょうか。

 安倍首相が配布したマスクは必ずしも国民の不安解消にはつながらなかった。それはそうでしょう。小さいし、どこで作られたのか、製造元連絡先も書いていなかった。もちろん、マスク自体が不足していた時期、政府としては配布によって少しでも不安を和らげたいと考えたのでしょうし、その思いは間違ってはいなかったと思います。しかし、あの教訓として、全国一律の対策は必ずしも効果的ではない、ということもあったのではないでしょうか。

 東京などの首都圏や、大阪、札幌の状況と、鳥取の状況はまったく異なります。ましてや同じ都道府県内でも、渋谷区と羽村市は全く違うでしょうし、鳥取市と日野町でも全く違います。状況が異なれば、取るべき対策もおのずと変わってくるはずです。

 だから、コロナ対策についても、地方創生の時と同様に、基本的には地方に権限をなるべく委譲して、そこに合わせた政策を実行してもらうのが望ましいのではないかと私は思っています。

「地方に任せると、おかしな金の使い方をする。信用できない」

 おそらくこうした懸念を抱く方もいることでしょう。これも地方創生の時と同じです。もちろんそのリスクはある。だからこそそれを理解したうえで首長を選ぶ、議員を選ぶ。これが直接民主制というものです。変な首長や議員を選んだら住民が大変なことになる。それが本来の有権者の責任であり、地元の基礎自治体が一番このことを意識しやすいはずです。

 新型コロナ関連の給付金の使い方がおかしな自治体がある、といった指摘もあるようです。実際にそういうことはあるのでしょう。

 こうしたことでいつも思い出すのは、かつて「ふるさと創生事業」のために国が地方に「自由なお金」を交付したときのことです。竹下内閣において、全国の市町村にそれぞれ1億円を交付した事業です。

 この政策に対して「バラまきだ」という批判がかなりありました。当時、機会があったので竹下総理にお尋ねしてみたところ、次のようなお答えを頂きました。

「石破、それは違うんだわね。これによってその地域の知恵と力がわかるんだわね」

 竹下総理が仰る通り、1億円の使い方はさまざまでした。中には公営のキャバレーのようなものを作ったところや、金の延べ棒を買ったところもありました。

 そういうところばかりが話題になり、報道されたので、この交付金についてはバラまき、失敗した政策、という印象が強く残ってしまいましたが、実際には今でも住民のためになるような有意義な使い方をした自治体も多くあったのです。

 結局、国であろうと地方自治体であろうと、有権者が「あとはお任せ」のような気持ちでいると、つまり「お任せ民主主義」を良しとしてしまってはダメだということなのです。なぜなら、きちんと有権者との関係ができていない首長や議員が変な政策を実施したら、そのツケは結局住民に返ってくることになるからです。

 コロナについても、同じことが言えると思います。各自治体で抱えている状況が異なり、対策の前提となる医療体制、地元の事情も異なるのですから、当然、取るべき対策も異なります。

 政府が国家としての大きな方針を決め、法律を整備するのは当然だとしても、その先の具体策のかなりの部分は自治体が主導権を握っていくのが望ましいと考えます。


■消費税をどう考えるか


 ごく一部を除くと、コロナをめぐる状況でダメージを受けた業種がほとんどです。そのため、GoToのような一部の業界に手厚い経済対策ではなく、もっと広い層を対象にした景気対策が必要だという声もあります。その意見自体はその通りだと思います。

 その対策の一案として、消費税減税や一時的な廃止などを唱える方もいます。

 私のところにも、消費税減税こそが経済対策として有効である、といった説を説明に来て下さる学者の方がいらっしゃいます。

「撤廃、それが無理ならばせめて5%に減免すべきだ」

 そういう話をなさいます。

 私は、消費税導入の際には積極的に賛成をしました。また、その後の増税にも賛成をしています。それぞれの判断は間違っていなかったと考えていますし、一部の人々からでは「財政健全派」さらには「消費税増税派」とレッテルを貼られるようになりました。そんな私が消費税減税を唱える識者の方の意見をお伺いする、ということ自体で驚かれる方もあるかもしれません。

 私が近年、少し消費税のあり方に疑問を抱くようになってきたのは、我が国の経済・社会環境の変化によるものです。

 消費税を最初に導入したのは、まだ経済成長期であり、「一億総中流」と言われていた時代でした。その前提、つまり国民の所得水準にそれほど開きのないことを前提とすれば、公平性の高い税制でしたし、その時にはここまで国民間の経済格差が開くことを想定していませんでした。

 しかし、現在の経済格差を前提としたとき、当時のままの考え方でいいのだろうか、という疑問が生じるようになりました。格差が大きいと、消費税はその逆進性が顕在化します。つまり、食べ物のように、生活のためにどうしても必要な費用は富裕層でも低所得者層でも似たような出費になり、そこに同じように消費税がかかるわけですが、1千万円ある人の5万円と50万円しかない人の5万円は全く価値が違うのに、同額の税負担になってしまいます。結果として低所得者に厳しい制度になってしまっていないか、という疑問が生じるのです。

 今まで、消費税の議論は、増え続ける社会福祉の負担増とセットでなされてきました。それは消費税が景気の動向に左右されにくい安定した税源であることとも関係しています。

 これからも、国家支出の35%を占める社会保障関係費をどうするかが、わが国のマクロ経済運営の核となることは変わりません。しかし一方で、20年前、10年前に議論していた時の前提条件が今ほとんど変わりつつあることも踏まえ、またコロナ禍における景気対策という新しい観点から、消費税を考え直す必要があると思います。

 消費税を撤廃、あるいは減免した場合に、実際にどういう影響が現れるのか、どのくらい消費を押し上げ、GDPを上げるのか。他の政策、たとえば所得が多くない人への直接給付と比べてどうなのか。

 消費減税を訴える人には、「こうしたことについて、ぜひ教えて下さい」とお願いをしているところです。

 このような未曽有の危機における景気対策という観点からは、消費税についての議論もタブー視してはいけないだろうと思います。

2021年3月24日 掲載

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