バイデン、習近平、プーチンの思考回路は 「あらゆる事態を想定せよ」石破茂が歴史を学ぶワケ

バイデン、習近平、プーチンの思考回路は 「あらゆる事態を想定せよ」石破茂が歴史を学ぶワケ

石破茂氏

■外交の場では歴史の素養が求められる 石破茂の異論正論(10)


 現在は「大石内蔵助のような心境」で、勉強を続けている日々と前回語った石破茂・元自民党幹事長。前回に引き続き、政治家が歴史を学ぶ意味などを中心に語ってもらった。石破茂の異論正論、第10回である。

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■フランス国防大臣との論戦


 2003年、シンガポールで各国の国防大臣が集まった会合がありました。当時、フランスの国防大臣はミシェル・アリヨ=マリーさんという女性大臣で、日仏の防衛大臣会合ではイラク戦争の是非を巡って議論が交わされました。

 アリヨ=マリー大臣は「イラク戦争は国際法上容認されるものではない」という立場で議論され、私は国際法上も一定の正当性が認められるという立場で議論しました。

 大臣は弁護士の資格も持っておられ、国際法の観点や中東の歴史などを踏まえたうえで、滔々と自説を述べられました。これに対して私も何とか自分の持つ知識をフル稼働させて反論をしました。

 こういった場では、一定程度、知識の基盤を共有できていなければ議論になりません。国際法や、アメリカの歴史、イラクの歴史等々について知っていることは議論の前提になってしまうからです。

 このように、外交や安全保障など国家・国益を体して他国のカウンターパートと向き合う際には、少なくとも相手の国の歴史や制度、そこから生まれた考え方について知っておかなければなりません。

 また、今後を見通すためにも、各国の首脳の考え方、そのバックボーンとなる歴史などを知っておく必要があります。


■米ソ対立と米中対立


 たとえば米中の対立をどう見るか。かつての米ソの対立と同種のものだと捉えては見誤ります。ある意味、米ソ冷戦よりも複雑で深刻だと考えておくべきだと思います。

 アメリカとソ連との対立は、つまるところイデオロギーと軍事という二つの点での対立という、構造的にはシンプルなものでした。

 イデオロギーのほうでいえば、「資本主義」を修正して人類を進歩させるはずの「共産主義」は、それを現実化しようとするマルクス・レーニン主義の過程で多くの矛盾を生じることとなり、「自由と民主主義」に代表されるアメリカの価値観に対峙することはできても、勝つことはできませんでした。

 軍事力のほうは、ある時期までは拮抗し、均衡するようになりました。双方とも核兵器、大陸間弾道ミサイル、原子力潜水艦等々、細かい性能は別として同じようなものを持つようになり、特に核兵器の甚大な破壊力によって「使えない兵器」「抑止力」「冷戦」という概念や構造が生まれました。

 しかしこれも1980年代になり、レーガン米大統領がスターウォーズ構想を打ち出した頃から、米国が優位になっていきました。

 イデオロギーでも軍事でも、それを支えるのは経済力であり、その点でソ連はアメリカに勝てなかった。これがソ連崩壊の要因になったというのは定説でしょう。

 個人的に興味深かったのは、ソ連崩壊の際に、ソ連軍が動かなかったことです。一体どこに行ったのだろうという感じでした。彼らはゴルバチョフ側にもエリツィン側にも立たなかった。

 本来、体制側にいる軍隊は、体制崩壊を止めるために動いてもおかしくありません。歴史を見ればそのような事例は多くあります。

 ところがソ連においてはそのような現象は見られなかった。彼らは決して共産党の軍隊ではなく、ロシア以来の国家の軍隊だったからだと考えれば腑に落ちます。

 なぜこのことを述べているかはおわかりでしょう。米中対立を考えるうえで、米ソ対立との違いを考える必要があるからです。

 そして、「米中」対立は「米ソ」対立よりも深刻だという所以(ゆえん)はここにあります。

 中国は、マルクス・レーニン主義のような明確なイデオロギーを打ち出しているわけではありません。中国共産党の一党独裁ではあるけれども、共産主義を軸にしているわけではまったくない。

 一方で、人民解放軍は、国家ではなく中国共産党の指揮下にあり、国民の軍隊だったことは一度もない。

 中国経済はといえば、崩壊直前のソ連とは比べ物にならないほどの強さを誇っています。ソ連の末期のGDPは世界全体の3%程度でした。主な輸出品といっても、キャビア、ウォッカ、パルプの他にはマトリョーシカだろうか、といったイメージだったのです。アメリカの敵ではなかった。

 ところが中国は現在、世界全体のGDPの15%を占める地位にまでなっています。成長も止まっていません。

 経済面、軍事面でアメリカと対立する存在となり、その構図が変わる気配はまるでない。対立構造は先鋭化する一方です。


■各国首脳の思考回路は


 アメリカは世界一であることが国のアイデンティティに直結している、ユニークな国です。多くの移民を活力にしている国ですから、世界ナンバー1の魅力ある国として君臨し続ける必要があるということです。それだけに、彼らは常にナンバー1を脅かす存在を脅威だと考えます。

 そのアメリカのGDPを猛烈な勢いで中国が追い上げている。

 軍事面においてアメリカのナンバー1の座は当分揺るぎません。しかし中国の軍事力の伸び率や周辺諸国への強圧的な態度は、アメリカが脅威だと思うに十分なものがあります。そしてそれは、残念ながら杞憂とは言い難い。

 この構造を前提として、日本は戦略を考えなければなりません。

 その際、日本を中心に物事を考えてしまうと、これまた見誤るおそれがあります。正確に状況を把握するには、アメリカからの視点と、中国からの視点、それぞれを考えなくてはならず、それにはどうしても歴史的な背景知識が必要です。

 これは、アメリカにおもねるべきだとか、中国に近寄るべきだとか、そういう単純な話ではありません。日本の国益を最大化するためには、両国、そしてその他の関係国も含めて、指導者の国内における立場と個人的な考え方を頭に入れなければなりません。バイデン大統領、周近平国家主席、プーチン大統領、メルケル首相、ジョンソン首相等々、それぞれのリーダーがどのような思考回路を経るのかを想像する必要があります。

 ともすれば、米中が対立している状況について「アメリカ、よくやった!」などと思い、喝采を送っている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、わが国の国益を最大化するためには、単にアメリカに追随していればいい、ということにはなりません。

 トランプ氏からバイデン氏に大統領の座が移る頃、「バイデンは親中派だから中国に甘くなるのではないか」といった予測をしている方もいました。一方で、アメリカの民主党の人権重視の姿勢を考えれば、中国に融和的にはなるまいと予測していた方もいました。現状を見る限り、後者の見立てのほうが正しかったようです。

 たしかに、ニクソン大統領の時のように米中が急接近して、日本がつまはじきになるよりは現状のほうが日本にとってメリットがある、というのはその通りでしょう。

 しかし、バイデン政権の人権に関する強硬な姿勢は、もしかすると日本に対しても向けられる可能性があることは考慮しておかなければなりません。私たちが終わったことと思っている歴史認識に関することが、再度問題化されるリスクもあります。「中国は人権無視だから当然だ、ざまあみろ」などと安易に思っているだけでは、攻撃対象が私たちになったときに対処できません。

 あらゆる事態を想定しておくことが政治家には求められ、そのためには寸暇を惜しんで本を読む、識者にお話を伺うなど、勉強をし続けることが絶対に必要であると考えています。

2021年7月14日 掲載

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