塩崎恭久元厚労相が画策する「学校法人ガバナンス強化」、文科省守旧派と繰り広げるバトルの行方は

塩崎恭久元厚労相が画策する「学校法人ガバナンス強化」、文科省守旧派と繰り広げるバトルの行方は

「学校法人ガバナンス改革会議」の様子は、YouTubeでも公開されている

■理事長独裁、やりたい放題では……


 学校法人のガバナンスのあり方を改革する専門家らの会議「学校法人ガバナンス改革会議」が文部科学省で始まった。公益法人のひとつとして税制上の恩典を受けている「学校法人」の経営に対するチェック体制を抜本的に見直すのが狙いだが、なぜか当の文科省の腰が重いのだという。大手新聞社のデスクが解説する。

「最大の焦点は、大学組織で権限が集中している理事長の暴走を防ぐための仕組みづくりです。公益社団法人や公益財団法人などは、評議員会が理事の選任・解任の権限を持っていますが、今の大学の評議員会は理事会の下に置かれ、意見を述べるにとどめた諮問機関に過ぎません。強くなりすぎた理事長や理事会の権限を適切なものにすべく、他の法人同様、評議員会の権限と独立性を強化しようというわけです。政府が6月に閣議決定した骨太の方針でも、来年の通常国会での法改正が盛り込まれています。しかし、文科省はなかなか改革に動こうとしません」

 実は、大学法人のガバナンス改革には「仕掛け人」がいる。

「官房長官や厚生労働大臣を務めた衆議院議員の塩崎恭久さんです。塩崎さんは常々、『ガバナンスなき学校法人には課税すべき』と話しているほどで、自民党の行政改革推進本部長だった頃にも提言を繰り返して、学校法人改革に取り組んできました。もともとコーポレートガバナンスに詳しく、上場企業への社外取締役設置などに大きな力を発揮して、社団法人や財団法人、社会福祉法人などのガバナンス改革を実現したこともある。まさに『ガバナンスの鬼』とも言える存在です。塩崎さんは次の総選挙には出ず、引退することを表明していますから、さしずめ“最後の戦い”といったところでしょう」(同)

 その塩崎議員は、なぜ大学にこだわるのか。

「日本の大学は研究力や教育環境、国際性などで世界の大学と比較すれば、ランキングが低いとされていますが、ともかく、それらを下支えする経営力に乏しい。ですから塩崎さんは、理事会にもっと力を持たせ、経営を欧米の一流大学並みにして、研究・教育に投じる資金を確保させるべきだ、と考えています。今のように理事長独裁がはびこり、やりたい放題されていては、国際的な競争には勝てない。自民党にも文教族と言われる議員がいますが、彼らの関心は義務教育で、大学経営に関心を持っている人はほとんどいません。塩崎さんは『高等教育に関心を持っているのは自分だけ』と自負し、ひとり気を吐いています」(同)


■「霞が関官僚」の常套手段


 骨太の方針に「学校法人のガバナンス強化」を盛り込ませたのも塩崎議員で、7月19日に初会合を開いたガバナンス会議も彼の肝煎りで始まった。会議のメンバーは藤原誠・文科省事務次官と塩崎議員が人選したという。文科省中堅幹部が語る。

「文科省側は日本私立大学連盟や日本私立大学協会など経営者代表で構成したかったようですが、経営者を縛るためのルールづくりに経営者を入れるのはおかしいと、塩崎議員が断固拒否しました。メンバーは座長になった増田宏一・元日本公認会計士協会会長や、久保利英明弁護士、野村修也・中央大学法科大学院教授らガバナンス改革の専門家ぞろいで、塩崎議員とは旧知の仲。ほぼほぼ塩崎案が通ったものと考えてもいいでしょう」

 この話だけを聞けば、塩崎議員のペースで改革が進みそうな印象だが、どうもそうではないようだ。ガバナンス改革会議関係者が言う。

「会議の位置づけを巡って事務方の私学部私学行政課と増田座長がぶつかっていました。塩崎議員と文科省の事務次官の間で合意した設置趣旨の文書を、事務方は当初、会議で配布せず、公表もしなかったのです。もちろん。配布は萩生田光一文科大臣も了承していました。これを座長が問題視したため、配布されましたが、紙の右上にはわざわざ『参考』と書いてありました」

 文科省が会議の設置趣旨を公にしたくなかったことには、もちろん理由がある。

 設置趣旨の文書には、公益社団・財団法人や社会福祉法人の改革を踏まえて、『それらと同等のガバナンス機能が確実に発揮できる制度改正』を行うと明記されている。さらに、『検討結果は、他の審議会等を経ずに直接大臣に報告する』とあり、2022年の通常国会で法改正するスケジュールも示されている。文科省が審議会を通して会議の改革案を骨抜きにすることを封じられているため、あくまでも「参考」であり決まったものではない、と言外に示したかったのだろう。

 審議会を自分たちでコントロールしたい「霞が関官僚」の常套手段とはいえ、「あまりにも姑息だ」と、座長らは激怒しているという。

「私立大学の常務理事や事務局長は文科省のノンキャリア官僚の重要な天下りポストになっていて、その人事を自在にできる今の理事長たちの強い権限は、文科省にとっても好都合なんです。霞が関のキャリアが教授として天下る例も多く、文科省が他省庁に対して恩を売る切り札でもあるのです。そんな理事長たちが嫌がるガバナンス強化に、文科省の現場が積極的に取り組むわけがありません」(前出の文科省中堅幹部)


■大臣は「知らない」と否定


 そんな事務方の姿勢は、改革会議のメンバー選定からも見えてくる。

「事務方が、『大臣の推薦』だとしてアサヒビール(現アサヒグループホールディングス)の副社長だった本山和夫さんを送り込んできたのです。東京理科大学の前理事長ですが、理科大OBによると現在の理事長は彼の言いなりで、今も実権を握っているそうです。塩崎議員が萩生田大臣に確認したら『(推薦など)知らない』と否定され、事務方は言い訳に必死でした。

 その本山氏はいきなり最初の会議から欠席しました。直後に発売された月刊『FACTA』8月号で、本山氏が理事長だった東京理科大で強権を振るい、当時の学長や多くの教職員が辞める事態に陥ったことなどが報じられており、事務方は否定したものの会議の関係者はそれが原因で欠席したのではと、噂していました。8月6日に行われた2回目の会議には出席したのですが、今度は座長の制止を無視して20分近くも改革反対の大演説を行い、あまりの一方的な発言に、原稿を読み上げていたのではないか、と顰蹙を買っていました。本山氏が改革反対の立場である文科省の代弁者であるのか、それとも本人に特別な狙いがあるのか……、まったく読めません」(前出のガバナンス改革会議関係者)

 もちろんすべての大学理事長が、ガバナンスの強化に反対しているわけではない。ある私立大学の理事長は、こう話す。

「透明な経営を行っていれば、ガバナンスが強化されても困ることはありません。税制上の恩典だけでなく補助金ももらっているので、ガバナンス強化は当然の流れです。むしろ理事会の正当性が高まれば、理事会の決定を関係者全体で尊重しようということになるでしょう」

 日本の法人の中で最も改革が遅れていると言われる学校法人。果たしてその改革の行方はどうなるのだろうか。

デイリー新潮取材班

2021年8月18日 掲載

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