問題山積のデジタル庁がついに発足 菅首相の関心は急激に低下

問題山積のデジタル庁がついに発足 菅首相の関心は急激に低下

菅義偉首相(左)と平井卓也デジタル改革担当相

 DX(デジタルトランスフォーメーション)の司令塔となるデジタル庁が9月1日、発足した。デジタル庁設置は菅義偉首相が掲げた最重要政策だ。新型コロナウイルス感染拡大で露呈した政府や自治体のデジタル化の遅れを改善することが、デジタル庁新設の命題だった。


■「首相はデジタル庁どころではない」


 設置表明から1年足らずで関連法を整え、ともかく発足までこぎ着けたことには、「菅首相や政権の力量にほかならない」(経済官庁の幹部)といった賛辞もある。しかし、発足直前に高額賃貸オフィスに対する批判や政府機関の不透明なシステム調達への懸念、事務方トップ候補者の差し替えといったトラブルが相次いで表面化し、前途の多難さをうかがわせた。それどころか、当の菅首相自身、デジタル庁に対する関心は薄れているというのだ。

「9月29日に投開票となる自民党総裁選後の情勢も不透明です。菅政権の存続も危うく、首相はデジタル庁どころではありません」(大手新聞デスク)

 デジタル庁発足のきっかけとなったのは、コロナ禍にほかならない。緊急事態宣言などで外食やイベントが制約される中、日本でも政府の特別定額給付金(10万円)や中小企業向けの持続化給付金、自治体の各種給付金制度が実施された。しかし、未だに行政システムがFAXやハンコに依存しているために、すでに生活が困窮していた市民や事業者などの手元に給付金がなかなか行き渡らない。

「その状況を見兼ねた『(デジタルやマイナンバーで)ぱっと配れるようにできるんだろう?』という菅さんの一言で、デジタル庁は突貫工事で設置されたんです」(官邸関係者)

 だからこそ、マイナンバーの使い勝手を良くし、さまざまな行政手続きをオンライン上で一括処理できる仕組みを整えていくことが、デジタル庁の重要なミッションの一つとされた。国がパスポートを新たに発行する際に、市区町村にある住民票や戸籍のデータを活用できれば、ストレスを感じないような一括手続きが可能になる。さらに、こうしたデータを活用し、電気・ガスなどの公共料金の支払いや銀行口座管理など、生活の利便性の向上につながるプランも議論されている。

 とはいえ、日本の官僚制度の中で、最先端のITやシステム整備に長けた専門家はプロパーとしてはほとんどおらず、デジタル庁を育てる仕組みもない。

「当然、民間からのスタッフ起用がデジタル庁の成否のカギになります。発足時、職員約600人のうち、3分の1が民間出身で占められます。そのため、民間との距離がかつてないほど密着してしまった」(デジタル庁関係者)。

 その民間との密接な関係が、発足を前にさまざまな問題を引き起こした。


■賃料は年間8億8700万円


 まずは、デジタル庁が入居したオフィスの高額な家賃だ。入居先はヤフーや親会社Zホールディングスが本社を構える紀尾井タワー(東京都千代田区)。かつてグランドプリンスホテル赤坂(赤プリ)が建っていた一等地である。デジタル庁は、ヤフーがリモートワーク推進で使わなくなった同ビル19〜20階に、間取りや備品をそのまま引き継ぐ「居抜き」で入り込んだ。賃料は年間8億8700万円。デジタル庁の母体となった内閣官房情報通信(IT)総合戦略室が使っていた民間ビルと比べると、「広さは5倍、家賃は4倍」(平井卓也デジタル改革担当相)になった。

「ヤフーとZホールディングスはデジタル庁との物理的な近さを武器に、政府などのデジタルトランスフォーメーション(DX)に関わろうと働きかけています」

 と、大手IT企業の幹部は警戒感を強めている。富士通やNECのような以前から政府と密接な関係を持つITベンダーに加え、デジタルサービスを手掛ける企業が政府案件を取ろうと、あの手この手で食指を伸ばしているのだ。

「ヤフーと競合関係にある楽天グループも、サイバーエージェントなどを巻き込んだ経済団体『新経済連盟』(三木谷浩史・代表理事)を使って、デジタル庁に食い込もうとしているようです」(同)

 しかし、この民間との関係が近くなりすぎることは、一歩間違えれば不正につながりかねない。すでにデジタル庁母体のIT総合戦略室のシステム発注では懸念される事案も出ている。いわゆる東京オリンピック・パラリンピック関連のアプリ問題だ。

「五輪関連で入国する人たちのためのオリパラアプリを開発する過程で、平井デジタル相がNECを恫喝するような音声が流出しました。アプリ調達の不透明さも問題視され、平井大臣が依頼した第三者委員会の報告では、IT室の職員が他社の参考見積書を送付したうえで、民間のITベンダーに無理矢理、見積書を作成させたり、慶應大学教授でもある神成淳司室長代理が民間企業から高額接待を受けていたことが明らかになりました。調達に違法性はなかったものの、公平性が疑われる行為があったと認めた形です。結局、8月27日には、IT室は発注に関わった幹部職員らの処分を発表しました」(前出大手新聞デスク)

 第三者委員会から「疑わしい事案」が指摘されたことを受け、デジタル庁も外部の弁護士、公認会計士などが加わるコンプライアンス委員会を設置し、「庁独自の調達ルールや倫理規範を策定・検討する」と表明したが、

「デジタル庁はほぼすべての経済官庁と多数の民間企業の集合体となる。そうした中、内部の規律をチェックするのであれば、それなりにリソースを費やさないといけなくなると思います」(前出デジタル庁関係者)


■「米国の研究界からは追放されているのに」


 政府による民間の人材の見極めについては、「大丈夫なのか?」と疑問視されるようなドタバタも起きた。

 デジタル庁の事務方トップとなる「デジタル監」人事で、首相官邸は8月上旬、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボ元所長の伊藤穰一氏を起用する方向で調整に入った。しかし、伊藤氏はメディアラボ所長時代に、少女売春で訴追され、拘留中に自殺した富豪ジェフリー・エプスタイン氏から研究資金の供与を受け、その隠蔽を主導したことが発覚し、同所長の座を追われています。起用報道を聞いた在米IT専門家は、「伊藤さんは、米国の研究界からは事実上、追放されているのに、日本のデジタル庁の高官にして良いんだろうか」と、首をかしげていた。

「身辺調査をするまでもなく、インターネットを検索すれば、こうした“過去”は簡単に確認できるはず。官邸はそれを怠ったのか、あるいは米国でのスキャンダルなど気にしないのか、いずれにせよずさんな人事に驚きました」(前出大手新聞デスク)

 曲折を経て、デジタル監には、経営学者の石倉洋子氏(72)が起用された。石倉氏は、日本人女性として初めて米ハーバード大院で経営学博士号を取得し、戦略コンサルティングや大学で活躍しており、60代になってからプログラミングも学んだ。IT企業幹部からは、「政府のデジタル基盤を設計していく上で、最先端のデジタルの知見をお持ちでないのは不安」といった批判もあるが、経営、組織運営の専門家として多くの企業の経営危機などに助言した実績は豊富だ。

 デジタル庁は総務省、経済産業省、厚生労働省、財務省など多数の省庁の政策も関わるだけに、主導権争いや面倒な政策案件の押し付け合いも、すでに起きている。

「コロナ禍の克服、今後の経済成長にはデジタル化推進が不可欠です。石倉さんが柔軟に霞ヶ関の縄張り争いを乗り越え、政策に横串を通してくれることを期待していますが……」(経済官庁幹部)

デイリー新潮取材班

2021年9月2日 掲載

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